↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/71

第四十一話 距離の遮断③

 その日以降。


 ありすは、答えを出さなかった。


 出せなかった、が正しい。


 業務は通常通り回す。


 捜査三課として、千翠を呼ぶこともある。


 ただ。


 それ以上には、進めない。


 距離は保ったまま。


 線の内側に踏み込まない。



(……あいつ、多分)



 ふとしたときに考える。


 千翠の言葉。



⸻


「付き合ってる状態になればいい?」


⸻



 あの軽さ。


 迷いのなさ。



(……違う)



 結論は、何度も同じところに戻る。



(好き、とかじゃない)



 もっと単純なもの。


 目の前にある対象。


 その中で、たまたま自分が選ばれているだけ。



(……触れたいだけ、なんだと思う)



 その判断が、一番しっくりくる。


 だから。


 止めている。


 ここで名前を与えたら。


 全部、曖昧なまま許してしまう。


 それは、違う。


 そう思うから。



⸻



 一方。


 千翠は、変わらないように見えた。


 呼ばれれば来る。


 仕事は正確にこなす。


 必要なことだけをやる。


 それだけ。


 でも。


 内部では、止まっていた。



⸻



 夜。


 一人の部屋。


 何もない空間。


 静かすぎる場所。


 千翠は、ベッドの上で腕を組み、胡座をかいている。


 動かない。


 ただ、考えている。



(……なんで)



 最初の疑問。



(今まではよかったのに)



 事実。


 問題はなかった。


 近くにいて。


 触れて。


 満たされていた。


 それで、成立していた。


 でも。


 今は違う。


 同じ行動が、拒否される。


 理由は提示された。


 “付き合ってないから”


 理解はできる。


 言葉としては。


 でも。



(……それ、必要?)



 行動と結果は、変わらない。


 なのに。


 間に“名前”が必要になる。


 その意味が分からない。


 さらに。



(……ありすじゃないと成立しないのはなぜ?)



 二つ目の疑問。


 理由を探す。


 橘。


 違う。


 別の刑事。


 違う。


 条件。


 能力。


 性格。


 どれも決定的ではない。


 似た人間なら、他にもいるはず。


 でも。


 同じにはならない。


 千翠は、そこで。


 ふと、最初の頃を思い出す。


 ありすと初めて現場で仕事をした時。


 事件の途中。


 千翠は、いくつかヒントを出した。


 答えそのものではない。


 ただ。


 自分なら、そこからどう考えるか。


 それを示しただけだった。


 他の人間なら。


 千翠に説明を求める。


 でも。


 ありすは違った。


 千翠の言葉を聞いて。


 自分で考えて。


 自分で組み立てて。


 自分で答えを出した。


 そして。


 事件を解決した。


 あのとき。


 千翠は初めて、ありすに興味を持った。


 自分が答えを与えなくても。


 自分の考え方を理解して。


 その先まで辿り着く。


 それが。


 少し、不思議だった。


 そして。


 もっと知りたくなった。


 ありすが。


 どう考えるのか。


 どう答えを出すのか。


 どんな反応をするのか。


 気づけば。


 千翠は、ありすを見るようになっていた。



(……他の人とは、違う)

 


 そして、ありすはその後も。


 自分に何ができるかではなく。


 何を考えているのかを聞いてきた。


 ありすは、知ろうとしていた。


 自分を。


 使える人間としてではなく。


 ただ、自分自身を。


 そこまで考えて。


 千翠は、少しだけ首を傾げる。



(……だから?)



 ありすといると、落ち着く。


 ありすが近くにいると、足りている。


 触れたいと思う。


 でも。


 それだけじゃない。


 ありすが自分を知ろうとすることが。


 嫌じゃない。


 むしろ。


 もっと知ってほしいと思う。


 その感覚が。


 他の誰かでは、起こらなかった。


 千翠は、ゆっくりと目を伏せる。


 そのとき。



『好きなんだろ』



 橘の声が浮かぶ。



(……好き)



 その言葉を繰り返す。


 考える。


 何度も。


 でも。


 何も思い浮かばない。


 好きが、分からない。


 だから。


 その言葉を、自分には使えなかった。


 思考は、そこで止まる。


 今までの考え方では、答えが出ない。


 千翠は少しだけ眉を寄せる。


 無意識に。


 そして。



(……ありすは)


(何を求めてた?)


(……付き合う、って何?)



 最後の疑問。


 定義を探す。


 条件。


 行動。


 関係。


 どれも、完全には一致しない。


 曖昧すぎる。


 それでも。


 それがないと、拒否される。


 なら。


 必要な要素のはず。


 でも。


 理解できない。


 処理できない。


 結論が出ない。


 思考が止まる。


 静かな部屋。


 何もない空間。



(……分からない)



 答えがあるはずなのに、どこにも辿り着けない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。