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この出会いマジ正解~fa宣言したけどキャパくて詰み~  作者: ずんだらもち子


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第1話 出会い ①

楽しいことがないなんて、信じられなかった。

 嬉しいことが嬉しくないなんて、考えたこともなかったし。


 そりゃあ、嫌なことの一つや二つ……いやもっともっとあったけど。

 それでもいつかは忘れて、また新しいことに出会って。

 笑って思い出せる記憶になると思ってたのに。


 うんざりなんて暇なだけだと思ってたし、わくわくすることなんていつもすぐそばにあると思ってたのに。


 私、知らなかったんだ。うぅん……。気づいてなかっただけ、かも。

 心はもやもやしてるのに、却って世界がよく見えるなんて、不思議だなぁ。



 1



「ふぁぁ~ぅ……目、いたい……」


 朝焼け、と呼ぶにはもうかなり時間が経っている。すでに太陽は昇っており、世界は残暑と呼ばれる熱気に包まれていた。

 徹夜明け特有の、日光が目に痛いことに項垂れながら、女の子が一人さまよう様な頼りない足取りで歩いていた。

 近隣の高校の制服を着崩しており、半袖のブラウスの首元のボタンは外れて、リボンはゆるくぶら下がっている。

 スカートの長さは、今の彼女の様に項垂れて前屈みに歩いていると後ろからパンツが見えてしまいそうな程に危うい短さだ。

 モンブランの様にグレイッシュな淡いブラウンの髪。ハーフアップのセミロングや前髪の毛先をゆるくウェーブさせている。

 メイクはあまり派手ではないものの、自前の長い睫毛と灰色のカラコンで目力は強い。

 彼女は何度も欠伸を繰り返しながら、ぼてぼてと足を前に出し、やがて『六道』と表札の掲げられた家に入っていった。


「ただいまぁ……」

「あ、もーちゃんおかえり~!」

 リビングから廊下にひょっこり現れたのは小さな女の子だった。

「アキ、もうおきてたの? はやくない?」

 もーちゃんと呼ばれた彼女は奥歯が見えるほどの欠伸をした。

「もう8時すぎてるよ?」

 とてとてと足音を鳴らして出迎えたアキと呼ばれた少女は、あっさりと質問で返した。

「アンタは私の妹なのにマジメねぇ。日曜日なんだから寝とけばいいのに」

「だってみたいアニメあるし」

 アニメって。やっぱまだガキね。口をむにゃむにゃしながらぼやきつつ靴を脱いだ。

「お母さんたちは?」

 廊下を歩きながら目尻にたまった涙を拭った。

「もうおしごとに行っちゃったよ。ママおこってたよ『萌絵子のやつ、帰ったら許さないんだから!』って」

「ええ!?」

 もーちゃんこと萌絵子は足を止めてしまう。

「何でよ、私今日は泊まるってちゃんと言ったし。お母さんもオッケーしたじゃん?」

 と、妹に訴える。

「もーちゃん、おかーさんのヨーグルト食べたでしょ?」

「食べてない食べてない! そんなおっかないことしないし!」

 首が千切れんばかりに左右に頭を振る。セミロングが競走馬の尾の如く振り乱れた。

「寿人だってばそれ! あいつは?」

「ヒサトお兄ちゃんももうぶかつに行った」

「くっそうあいつ……! 思春期丸出しのくせに。嫌がらせで逆に中学に行ってやろうかしら」

 いない弟に向かって怒りを吐き出しながら洗面所に向かった。

 おかげでなかば寝ぼけていた頭は一時的に覚醒し、歯を磨いてシャワーを浴び終えた頃には、すっかり眠気は取れていた。

「はー、さっぱりした」

 濡れた髪は適当にクリップで頭の上にまとめ、グレーの薄手のパーカーをキャミソールの上に羽織った。ミントと白のモコパンは、少し毛玉が目立ち始めている。

 メイクを整えるのは後にして、まずはカラコンを外したいところだ。

 しかし、夏の湯上り特有の涼しさとボディーソープの爽やかな香りを引き連れて一旦リビングに向かった。重要な任務があるからだ。

「もーちゃん、ごはんは?」

「あとで食べるから置いとく」

 萌絵子はダイニングテーブルに並んだ目玉焼きやサラダにラップをかけていく。朝食が準備されていることを予想していたので、すぐに部屋には向かわなかったのだ。

 普段ならそこまでの気遣いはできないが、誤解とはいえ母の怒りを買っている状態なので、油を注ぐことは回避しようと考えてのことだった。

「あっやば、はじまった!」

 妹はテレビが一番見えるソファの中央に飛び乗った。

 小2っつっても、やっぱ子供だなぁ。

 そんな当たり前のことを考えながら、萌絵子は妹が楽しそうに観ていた画面へとつい目を向けた。


「………………っ!!?」


 画面の中央で飛び跳ね、走り、目まぐるしく活躍するモルモットの姿が飛び込んできた。

 萌絵子は手に持っていたラップを落としてしまった。


 この時の衝撃の理由を、のちに萌絵子はこう語る。


 ――知らん! とにかく、直感だし。


「ん?」音に気付いた妹が振り返る。「どうしたの――うわっ!」

 ものすごい勢いでリビングへと駆け寄り、テレビ画面と組手でも組むように食い入った。

「ななな! 何この子!?」

「もーちゃんじゃま! みえないし」

 萌絵子はテレビの真ん前で正座した。

「か……きゃわああああああああああああああああああああああ!」

「もーちゃんうるさい!」




 結局そのまま三十分近くアニメを観続けてしまった。

 正直に言って話はあんまり頭に入っていない。主人公らしいモルモットの『モル太』が動くたびにわーきゃーと騒ぎまくっていたからだ。

 だからこそモルモットの姿はしっかりと脳裏に焼き付いた。


 部屋に戻り、SNSのアプリである「Z」を開く。

「あーもう! 私のZってば全然アニメのこと流れてこないし! なんなの!」

 自分の普段の興味関心がそこにないからであってアプリは悪くない。

 アプリに自我があれば『自業自得で草』と呟かれてしまうだろう。

「こーなったら別アカ作ろ。その方がいいねとかリポストしやすいし」

 長いネイルでカツカツカツカツとスマホの画面を器用に操作しすぐにもアカウントを作った。

 アイコンは胸像のシルエットのまま、アカウント名なども適当に、萌絵子は急いで検索する。

「うっわ…………!」

 タイムライン上にすぐに溢れてきたのは先ほどのアニメの主役『モル太』の、いくつもの絵、イラストだった。

「きゃ……きゃふぁああああああああああああああああああああああああああああ!」

 興奮しすぎて叫びっぱなしの萌絵子だった。ベッドのスプリングを利用して体を上下に弾ませる。浜辺に打ち上げられた鯵のようだ。

 アニメの公式アカウントや、それに関連したグッズのアカウントもアニメ放送直後なのでファンに有益な情報を提供しているのだが、それらがすぐに隠れるほど多くの投稿に溢れていた。

「マジきゃわ! え、マジでどうなってんの? すごっ! やば」

 もちろんすべてがすぐに投稿された絵ではない。数日前から時には1か月以上前のイラストもある。

 原作のタッチに忠実な絵もあれば、絵師のテイストをにじませたものもある。また本編では見せなかったような仕草やコスプレ姿、果てには他作品のパロディ姿も描かれていた。

「ちょー上手いし。え、どういうこと? あ、もしかしてこれがアシってやつ?」

 萌絵子はその辺りの知識がなく、どうやら投稿している絵はアシスタントが描いているものと思ったようだ。そもそもアニメなのでアシスタント――漫画家におけるアシを用いるのは間違いで、この場合はそのアニメを作っている広義でのアニメーターと言うべきだろう。

「ちょちょちょ、待って。きゃわすぎて死ぬ。息止まる。え、ちょ、アニメってこんなに可愛いの? マジで? やめて?」

 自分がスクロールする指を止めればいいだけであるが、一人スマホの画面に向かって訴えていた。

「え。てかもう自分でも意味不明なんだけど。なんかもう……衝撃的すぎるんですけど! あ、そうだ――」

 萌絵子はベッドから飛び起き、リビングへと駆け下りる。

「――アキ! ねぇ、さっきのやつ、録画してる?」

 ソファに座ってアイスをくわえながら引き続きテレビを観ていたアキは、ちゅぽっとアイスを放して萌絵子へと振り返る。

「えー、してない。ていうかみおわったらけしてる。ママがおこるもん、ほかのテレビがロクガできないからって」

「ほんと、私の母とは思えないほどきっちりしてるわ……。1話から観たかったのに。しゃーない、さっきビーバーでもう一度って言ってたからそっちでみるか」

「でもアバゾンでさいしょからみれるよ」

「それ先に言ってよ!」

「なんでわたしがおこられるのさ。ぶーっ!」

 妹は口を尖らせるとそのままアイスにかじりついた。

 そんな不満顔を見届けることもなく、萌絵子は階段へと向かう。

「あっヤバ!」

 階段を上りながらあることを思い出した。



『――別にいいけど、どうしたの?』

 枕の上に置いたスマホの画面の向こうから、クールな声が聞こえてきて、萌絵子はテレビ電話でもないのに背筋を伸ばした。

「え?」

『あんたが行きたいって言ってたでしょ。美容院』

「あ、うん。ソォ~~~なんだけどね?」

『うるさ。なに急に裏声になってんのよ。テレビショッピング?』

「い、妹が一人だったからさ、お守りしなくちゃいけないの」

『あんたの妹あんたよりしっかりしてるじゃない』

「う、うっさいなぁ……。とにかく、ごめん。今度アイスおごるから」

『まぁ別に良いわ。帰ったら気持ちが落ち着いちゃってめんどくさくなるのはよくあることだし』

「ちちち、違うの! そうじゃないから。怒んないでよヒサメ~……」

『別に怒ってないけど。せっかくそう言ってくれるならおよばれしようかしら』

「う、うん! あんがと」

『牛丼アタマの大盛りね。私アイスよりそっちがいいから』


「――よし」

 通話を切り、一人頷いた。

 相手は一番仲の良い友達のヒサメだった。つい数時間ほど前まで朝まで泊りで遊んでいた相手でもある。

 今日は二人で街に出て、美容院に行く話になり、一旦着替えたいということで萌絵子は帰ってきていたのだ。

 風呂キャンセルとか言われている世間とは裏腹に、萌絵子は風呂が好きで1日3回は入りたい派だった。ちなみに余談だが、朝と夜は許されているが、もう1回は母がもったいないという理由で夏季以外は許可していない。六道家は母が絶対なのである。

 閑話休題。

 親友のヒサメとのお出かけをキャンセルしたという理由は、いわずもがなだった。

 スマホをテーブルの上に置き、スナック菓子――萌絵子の好きなのはコーンポタージュ味のスナック菓子だ――を、一人なのにパーティ開けして、クッションを抱きかかえるとベッドにもたれかかって準備完了。

『被験戦隊モルモッティ』のアニメを、第1話から観始めるのだった。



お試し投稿です!よろしくお願いいたします。

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