53章 忘却の第二試練 それに抗う光を示せ
アルウスたちの前に紫の悪魔が現れた後、華凛たちが見ている風景に出始めていた歪みやノイズが更に激しくなった。
紫の悪魔が歩いただけで街中で光の柱や炎の柱が立ち、何者をも近寄らせなかった。
ジークヴァルがディサイドヘッドのジークヴァルクブレードになり、紫の悪魔と交戦していた。
ビルを足場にしたりと跳ね回り、ヴァルクブレードで紫の悪魔の両手剣と何度もぶつけ合わせていた。
「ジ、ジーク…ヴァル…。」
トワマリーとフォンフェル、カサエル、ヤジリウスが倒れている中、アルウスも瓦礫を背にして倒れていた。
「くっ…!お前は一体…!?」
「…ククッ、さぁて…?」
「ジーク、ヴァル…!うおぉぉぉーーーっ…!」
アルウスは力を振り絞って立ち上がり、ジークヴァルクブレードの救援に入った。
「…ふん、裏切り者の人形か…!」
「えっ?」
アルウスは紫の悪魔の発言が気になってしまった。
この紫の悪魔はバドスン・アータスの手の者なのか?と。だが、アルウスは見た事がないデュラハンだった。
「…!? アルウス、危ない!」
「えっ!?」
ジークヴァルクブレードがアルウスを突き飛ばした。
「ジーク…!」
アルウスは吹っ飛びながらジークヴァルクブレードに手を伸ばすが、そこで世界は暗転した。
次の場面が映し出されるが、背景は更に滅茶苦茶になった。
「…つ、つ○に…こ○時が…!?嫌da!見たkuな○…!?」
「ゴ、ゴースト…?」
ゴーストが下を向いて取り乱し始めたが、ゴーストの声は途切れ途切れになっていてよく聞こえない。
華凛はどうにかできないか周りを確認し始めた。
空は赤と青が混じった空になっていて、オーロラが大量に出現していた。
そんな破滅的な光景の空の下、ボロボロの街中で道人たちが戦っていた。
道人とディサイドできたアルウスと新たにディサイドした魚人のデュラハン、ヤジリウス、ハーライムと一緒に敵と交戦していた。
そこにジークヴァルの姿はなかった。
「スライドチェンジ!」
道人がそう叫ぶと全身が鎧に包まれた。
首無し鎧武者たちと戦っていた。
「早く…!早く離れ離れになった愛歌たちと合流して、奴らを止めないと…!」
敵と交戦中の道人が見た先を華凛たちも見た。
「…何、あれ…?」
遠くで巨大な影とそれよりは小さいが、普通の人よりは大きめな将軍のような姿の鎧武者。
そこにどこか神秘的な姿をした真っ白な人間サイズのデュラハンの三体が交戦していた。
真っ白なデュラハンが空中に建物をいきなり出現させたと思ったら、鎧武者がそれを刀で斬ってみせた。
この世のものとは思えない、まるで神々の戦いのような光景が広がっていた。
「…ほう、面白い人形たちだ…。…この星にはこのような者たちがいるのか…。」
巨大な影は両手から波動を出し、真っ白なデュラハンと鎧武者のデュラハンに攻撃をした。
「これ以上、この街を好きにはさせない…!絶対に…!」
「あ、道人!」
道人たちが巨大な影に飛んで向かう中、アルウスは何者かにタックルを喰らった。
「がっ…!?お、お前は…!?」
「行けぇっ、ケイトォッ!」
前に交戦した笑いの仮面とケイトと呼ばれるデュラハンが突然姿を現した。
ケイトは以前戦った時とは姿が異なっている。
頭や両肩から常に炎を出していた。
「オマエたち、何時かの…!?一体何のつもりだっ!?ジブンが住む街が壊されてるって時に…!?」
「この世界はもう終わりだぁ〜っ!こんな私の才能を評価しなかった世界など、いっそ滅びてしまえばいい!むしろ、奴らには感謝したいくらいだぁ〜っ…!」
「な、何だって…?」
アルウスは笑いの仮面が言っている事がよくわからなかった。
アルウスはバドスン・アータスのハチゴウセンとして今まで色んな惑星を採掘星に変えてきたが、自分の星が壊れていくのを気にしないどころか喜ぶ存在を初めて見た。
「アルウス!」
道人が振り返り、アルウスの事を心配して来た。
「さ、先に行って、道人!大丈夫!こんなヤツ、さっさと倒してすぐに駆けつけるから…!」
「アルウス…。 …わかった、気をつけて!」
「ご武運を…。」「待ってるぜ!」
アルウスの意図を汲み取り、道人たちは三体の巨大な存在に向かって飛んで行った。
「はっ、お前一人で我がケイトに立ち向かうだと?舐めるなぁっ!」
ケイトは両手、両肩、胸の獣の顔と頭から一斉に炎を放射し、大きな火の玉を作り出して発射した。
アルウスは向かって来た炎を側転して避ける。アルウスの背にあった瓦礫がドロドロに溶けた。
「…!? この火力…!?」
これまさに一撃必殺と言わんばかりの火力の炎。例えアルウスでも当たれば一溜りもないだろう。
「どうだ?お前のドロドロした炎から着想を得たのだよ!」
「くっ…!こんな危険な奴、放置してはおけない…!とっとと倒す!」
アルウスがそう言って右手を横に振って剣を出現させると同時に赤・青・黄・緑の炎の魔人を周りに出現させた。
赤い炎の魔人を刀身に纏わせ、残り三体の火の魔人を盾代わりにして突撃し、両手に持った剣をケイトに対して振り下ろした。
「無駄な足掻きを!」
ケイトはまた火の玉を作った後、発射はせずに自分の前に浮かせた。
「何っ!?火の玉を盾代わりに!?」
アルウスが振り下ろした剣は火の玉に触れてあっという間に溶解した。その後、ケイトは時間差攻撃で火の玉を発射した。
「こいつ、前より知能が上がってるのか…!?くっ…!?」
アルウスが盾代わりにした三体の火の魔人は消滅し、アルウスの顔も共に焼かれた。
「ぐあっ…!?頭が…!?」
これでもう火の魔人たちを呼び出す事は出来なくなった。
アルウスはふらつきながら地面に着地する。
「急いては事を仕損じるとはまさにこの事だ!じゃあな、着想主!はっはっはっはっはっ…!」
笑いの仮面が高らかに笑っているとどこからかナイフが飛んで来た。
「はっ…!?」
笑いの仮面の額にナイフが刺さり、仮面が割れると共に血が噴き出し、地面に倒れた。
主を失ったケイトは急に焦り出した。
「い・ま・だぁっ!!」
アルウスはケイトの頭を右手で掴み、地面に倒した。
「はあぁぁぁぁぁーっ!!」
アルウスはケイトの頭を掴んだまま引き摺り進んだ。
ケイトは抵抗してアルウスの右腕を掴んで炎で焼き、アルウスは全身を焼かれる。
「ふん!」
身を焼かれるのを気にせずに突き進むアルウスは瓦礫にケイトを叩きつけた後、ケイトの頭を引き千切った。
混乱するケイトに対して容赦なく右腕、左腕と引き千切って、最後に腹に右拳を当てて胸を貫いた。
体内からケイトの色んなコードを引き千切りながら右手を外に出す。
ケイトは機能停止し、その場に倒れた。
「や、やったけど…。さ、さっきのナイフは一体…?」
アルウスは周りを確認するが自分以外に誰かがいる気配はなかった。
「そうだ、そんな事気にしてる場合じゃない…。自前の頭がなくなっちゃったけど…!道人にヘッドチェンジしてもらえれば…!道人たちのところに、早く行かないと…!」
アルウスはケイトにかなり身体を焼かれてしまったが、よろけながらも前に進んだ。
その姿を見ていた華凛たちは悲痛そうにしていた。
「…や、や○よ…!?こ○先は見た○ない…!?やめ○よ…!?」
ゴーストの身体にノイズが発生し始め、華凛たちがいる空間にヒビが入り始めた。
「な、何…?何が起こってるん…?」
素子が怖がり、颯に抱きついた。颯も素子の肩に手を置いて寄せる。
「い、一体何が…!?」
「…ふむ、ここで閉幕かな?」
華凛の背後でMr.シルバーの声が聞こえた。
華凛が急いで後ろを振り向くと脳内に色んな場面が流れ込んで来た。
虹色に輝く道人。本来は東から上がり、西に沈む太陽が逆に猛スピードで西から東に向かっていく光景。子供と話をしているアルウス。アルウスを殺害するアルウス。
そこで華凛の視界は暗転した。
「やぁ、華凛君たち。待たせたね。」
「…!?」
華凛は気がつくと御頭商店街に立っていた。
周りを見るとゴーストが宙を浮いていて、颯、素子、八雲、ミストが立っている。
「老紳士殿、早く第二試練とやらを始めたらどうだ?」
華凛は颯の言葉が何だか引っ掛かった。華凛は右手で自分の顔を塞ぐ。
「どうしたの、華凛?」
「ちょっと、大丈夫…?」
ゴーストとミストが華凛の様子が変なので気にして来た。
「いや、第二試練はもう終わったよ。」
「…? 何言ってるんだ、老紳士殿?」
「うちら、今さっき第一試練を終えたばっかりやん?」
素子の言葉が更に華凛を混乱させた。Mr.シルバーは颯や素子の反応を見て少し笑みを浮かべた。
「…そうだったな。すまない、変な事を言ってしまったな。それじゃ…。」
「…違う。」
華凛が一言そう言うと颯たちは華凛に視線を向けた。
「…何が違うのかね、華凛君?」
「まるで、目が覚めたら思い出せない夢のようだけれど…!確かに、私たちは第二試練を経験した…!だから今、あなたは『第二試練は終わった』と言ったんだ、私たちが覚えてるかどうかを確認するために…!」
華凛は右手を下ろしてMr.シルバーを睨んだ。
「…おやおや、華凛君。第一試練を終えて、もうお疲れかな?
」
「くっ…!」
華凛は両手で握り拳を作って震わせる。周りの颯たちの心配する視線も華凛には痛々しいものに感じた。
「…! あれ…?」
華凛は背負っている鞄の中が光っている事に気付いた。
光っているものの正体を華凛は手に取る。
「ゴーストの、デバイス…。」
デバイスから放たれた光を見ると華凛の脳内に断片的な記憶が流れ込んで来た。
「…そうだよ…!忘れない、忘れられるはずがない…!見せられた映像は悲しいものだけじゃない…!そこには確かな、温かな記憶もあったから…! …ゴースト!」
華凛は隣にいるゴーストに話し掛けた。
「な、何?華凛…?」
「動物園を見て、本を読んでくれて…あなたはそれで人間に興味を持ってくれた…!道人君たちの味方になってくれてありがとう、ゴースト…!」
「…!? 華凛、何で…それを…?」
華凛は確かにそれだけは思い出せた。学校を、動物園を見て楽しそうにしていたアルウス…ゴーストの姿を。
「今度、一緒にブーメランもやろう!それで…本も買って読もうよ!読むの六周目になっちゃうけど…コイル・ナンドが書いた小説Solve the caseをさ…!」
「華凛…?」
「馬鹿な…!?何故覚えている…?」
Mr.シルバーは華凛の反応が意外だったからか、動揺していた。
「正直、全部は思い出せない…!あなたが何を企んでたのか知らないけど、そこはあなたの思い通りなのかもしれない…!けど、私はゴーストのパートナーだから…!この記憶だけは奪わせない、決して…!」
華凛は右手に持った光り輝くデバイスを胸に当てた。
「…! これって…?」
華凛の前にMr.シルバーから渡されたデュラハン・ハートと十糸姫の糸が浮遊し、輝き出す。
十糸姫の幻影が華凛の前に姿を現した。
「うちらの時と同じや…!」
「と言う事は華凛…!」
十糸姫の幻影は消え、華凛のスマホに石が付いたストラップが付いた。
「…覚醒させたか、糸を…。…人間は思い出したくない、マイナスな記憶の方が忘れにくく…逆に楽しかった思い出は乾きが早く、すぐに次の楽しい思い出を求めてしまうものだ…。だが、華凛君、まさか君は違うとでも言うのか…!?」
「当然!私、飽きないタイプですから…!それに忘れたの?私、記憶力は良い方なんだから…!」
「素晴らしい…!素晴らしいよ、華凛君…!私もだ、私も君を見てて飽きない…!」
Mr.シルバーは興奮し、華凛に拍手を送った。
「だが、私がしようとした企みに支障はない…!華凛君、君がアルウス君に関する記憶だけを思い出せたとしてもね…!いいだろう…!これより、最終試練と行こうじゃないか!」
Mr.シルバーがそう言うと背後から闇が一瞬で広がり、華凛たちの周りの背景は暗転した。
Mr.シルバー「こうして、『始まり』は『再開』される…。」
華凛「…まさか、再開と再会を掛けてる?」
Mr.シルバー「…さて?」
ディサイド・デュラハン
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