14章 目覚めよ、勇者侍の証!
「さて、行くよ、華凛君。ヘッドチェンジ、クローブーメラン。」
Mr.シルバーはカードをデバイスにスラッシュした。ラゴウにギザギザのついたV字の角が生えた頭がつき、新たな黒い鎧と肩パーツがついた。
「…!? ブーメランだって…!?」
「ふふっ…気に入ってもらえたかな、アルウス君?君の心を抉るために選出してみたんだ。これを見ても華凛君には何の事だかさっぱりわからないところが嫌がらせポイントが高いね。」
クローブーメランラゴウはクローブーメランをキャンドルゴーストに向かって投げた。
クローブーメランは霊体のキャンドルゴーストを通過し、華凛の方へと向かって行く。
「ほらほら、早く助けないと華凛君はこのままじゃ真っ二つだ。」
「華凛!!」
キャンドルゴーストは急いで華凛の前まで移動し、キャンドルホルダーブレードでクローブーメランを弾いた。
「そう、君が華凛君を守る手段はその唯一実体化した剣だ。君はそれを弾くか、叩き落とすしかできない訳だが…。」
クローブーメランラゴウは弾かれたブーメランを真っ二つにし、自分の両腕に装着して鉤爪にした。
「なっ…!?」
クローブーメランラゴウはキャンドルゴーストを通り過ぎ、華凛の顔の前まで右鉤爪を突き出した。
「ひっ…!?」
華凛はいきなりの事で驚き、地面に尻餅をついた。
「「華凛!」」「華凛ちゃん!」
颯と素子、キャンドルゴーストは華凛を心配し、駆け寄ってしゃがんだ。
「…やれやれ、今ので華凛君は命を落としたという訳だ…。話にならない。」
Mr.シルバーは目を瞑り、右手を額に当てて首を横に振った後、改めて華凛を見た。
「華凛君、確かにこの街…いや、『世界』は魅力的だ…。元々多くの謎を秘めた街ではあるし、来月から襲い来る数々の来訪者たちもミステリアスな者たちばかりだ。それを知りたいという君の探究心は理解できる。だが、所詮は命あっての物種。彼らの持つ多くの殺戮手段の前では君たちの探究心は無力なのだよ。」
Mr.シルバーの言葉のナイフは華凛たちの胸に次々と容赦なく刺さって来た。
「それでも君が探究心を抑えられないと言うのなら…華凛君、君を私の助手として迎え入れてもいい。」
「…えっ?」
華凛たちはMr.シルバーの発言の意図がよくわからなかった。
「私とラゴウが君を守ってあげよう、と言うのだよ。それなら、君は我らと共に行動し、安全にこの世界の真実を知る事ができる…。私は君の才能の芽に可能性を感じ、惚れ込んでいるんだ…。改めて言おう。私の助手になりたまえ、華凛君…。」
Mr.シルバーは優しく微笑み、左手を胸に当てて右手を前に出した。
その時、Mr.シルバーに向かって折れた木刀が投げられた。クローブーメランラゴウがMr.シルバーに当たる前に弾き落とした。
「は、颯ちゃん…?」
「その年で私らの華凛をナンパしようたぁっ、とんだロリコン老紳士殿だなぁっ!」
颯はMr.シルバーを威嚇し、右手で指差した。
「華凛は私らの大事な友達だ!絶対にあんたみたいな怪しい奴には渡さん!」
「せやせや!華凛ちゃん、あんな不審者の言う事間に受けたらあかんよ?」
「颯ちゃん、素子ちゃん…。」
華凛は二人に勇気を貰えたため、やっと立ち上がる事ができた。
「ふっふっ…!しかし、老紳士殿!先程面白い事を申していたではないか!来月になったら、数々の来訪者が来る?そんなボスラッシュが待ち受けているのなら、むしろ私の勇者&侍魂が疼きよるわ!その時が私の記念すべきヒーロー伝説のスタートとなる訳だ!」
「…一体何を言っているのかね、君は?」
Mr.シルバーは思わず疑問符を宙に浮かべた。ラゴウも思わず首を横に傾けた。
「は、颯ちゃん、Mr.シルバーに何か言い返したいっちゅう気持ちはわかるんやけどな…?」
「だとしたら、こんなところで立ち止まっている場合ではない!私はこんなチュートリアルで躓いているような存在ではないのだ!」
「うちの言葉聞いてへんね…。」
素子は目を瞑り、振り子のような涙を両目から流す。
「例え、この先どんな敵が私らの前に現れようとも私は必ず華凛や素子を守ってみせる!それは私たち三人で活動し続ける限り、永遠に続く使命なのだから!」
その時、華凛の鞄から光が溢れ始めた。
「えっ?な、何っ!?」
華凛は慌てて鞄から光っている物の正体を探し出した。
「これって、ゴーストと初めて会った時の…。」
四年前の肝試し大会。そこでゴーストが倒した首無し鎧武者が持っていた石が赤く光っている。あれからずっと肌身離さず持ち続けていた。
「あっ…!」
石が華凛の手から離れ、颯の元まで飛んでいった。颯が持っていた赤の糸も発光して宙に浮く。
「か、華凛!も、素子!私、マジだ!マジもんの勇者だったっぽい!えっ?私、こんな現象初めて…!?えっ?どうしよう…?」
颯は両手で頭を抱えてあたふたしていた。
「お、落ち着いてな、颯ちゃん!」
「…って言うか、いざ勇者っぽい奇跡に遭遇したら取り乱すんだね、颯ちゃん…。まぁ、無理もないけど…。」
ジト目で右頬を掻く華凛。颯の前に和服を着た女性が突然出現した。
「「「ど、どちらさんっ!?」」」
華凛たちは思わず仲良くハモった。
「ほぉっ、これは驚いた…!こんなに早く十糸姫を出現させるとはね…。」
「えっ?と、十糸姫?あの人が…?」
Mr.シルバーの発言のおかげで華凛たちは目の前にいる和服の女性が十糸姫だと何とか理解できた。
「ひ、姫から力を頂戴するとか…!?私、やばい…!今、猛烈に勇者してるぞ…!」
颯は目をキラキラさせながら尊敬の眼差しを十糸姫に向ける。
そんな颯の様子を見た十糸姫は微笑みかけ、姿を消した。
颯のスマホに石がついたストラップがつく。
「な、何だ、これ?」
スマホの画面から光の玉が出て、小さいマントと王冠をつけた鎧武者が颯の前に現れた。
「お、おぉっ!?お前は私のデュエル・デュラハン『激!勇者丸』!」
「そうだよ、颯!こうして君に会えた事を嬉しく思う!」
「わぁ〜っ…!?み、見ろ、華凛!素子!私もゴーストみたいなのをゲットしたぞ!」
颯は両手で激!勇者丸を抱き抱えて華凛たちに見せた。
「お、おめでとう、颯ちゃん…。」
「まさかホンマに奇跡起こす日が来るとは思わんかったわ…。現実は小説より奇なり、やね…。」
華凛と颯は何となく颯に拍手を送った。
「お、おめでとう、颯君。まさか、君が一番手とは思わなかった…。」
「ふふん、脳ある鷹は爪を隠す…!恐れいったか、老紳士殿!正義は必ず勝つのだ!」
颯は左手で激!勇者丸を持ったままMr.シルバーに向かって右手のVサインを見せつけた。
「…だが、随分可愛らしい物体のデュエル・デュラハンだが…?戦闘能力はあるのかね?」
「ふふん♪私はあくまで自分で戦う事に拘るのだよ、老紳士殿!変形せよ、激!勇者丸よ!」
「OK!存分に僕を使って戦ってよ、颯!」
激!勇者丸はジャンプし、刀形態に変形。颯の右手に握られた。
「私のデュエル・デュラハンは武器となり、プレイヤー自身が戦う特殊スタイル!それが実際にも再現されたようだなぁっ!」
颯は鞘から赤いビーム刀を抜き、Mr.シルバーに切っ先を向けた。
「さぁて!インド王を渡してやるぞ、老紳士殿!」
「引導やで、颯ちゃん!」
そうこうしている間に三分が経ち、ゴーストは元の姿に戻ってしまった。颯による第二ラウンドが幕を開ける。




