13章 その名はラゴウ
Mr.シルバーの隣に着地したのは首無しのデュラハンだった。禍々しい黒い鎧を着たデュラハンは猫背で両腕の力を抜いてぶらつかせる感じで立っている。
「紹介しよう、私のデュラハン『ラゴウ』だ。」
「ラゴウ…?」
華凛は眉を強めながら不気味に佇むラゴウを見る。Mr.シルバーは右手に持った灰色のデバイスを見せてきた。
「何、君たちが四年前に探していた封筒…。あれの中身を拝借して造らせてもらったのさ。なかなかの出来栄えだろう?」
「えっ…!?あの時の…!?」
四年前に式地が落としてしまった封筒の事をMr.シルバーは言っている。
「でも、おかしいやん!式地博士はあの時、封筒は開けられてないって言うとったで?」
「私の手に掛かれば封筒を開けずとも中身を確認できるのだよ…。封筒の中身はね、ロボットの動力源となるかもしれないものの材料についてだったんだ。」
Mr.シルバーは自分の額を右手の人差し指で二回軽くタッチした。
「天才である私は自分の身体に図と文字を全て内包してね…。それでこのラゴウを造ったって訳さ。まだあの頃の式地博士はディサイド・デュラハンの事を知らないからね。ほとんど私オリジナルのデュラハンだよ。」
「そんな、事が…。」
華凛は話を聞いても答えだけを聞かされた気持ちの悪い状態だった。点と点が繋がっておらず、まだ隠された要素がたくさんあるように感じられた。
「ふふっ、どうだい?華凛君、私はミステリアスな存在だろう?悪い事は言わない。ここは私のミステリアスさを研究するだけに留めておいて、これから起こる出来事からは手を引くのはどうだい?」
「気味悪い事を言うんじゃない、老紳士殿!それではMr.シルバーのミステリー研究会になるだろうが!」
「ははっ、いいじゃないか。私のファンクラブみたいで。」
颯はMr.シルバーのノリが気に入らないようで狂犬のように唸っていた。
「さて、ラゴウ。お転婆なお嬢様方に現実…いや、領域外のファンタジーを教えてやりたまえ。」
そう言うとラゴウは両手の爪を伸ばし、華凛たちの元へと飛び跳ねた。
「わ、わわっ!?」
華凛はラゴウの胸の顔の真っ赤な眼光を見て怯えてしまい、身動きが取れなかった。
「華凛!」
ゴーストがデバイスの中から出てきて華凛たちの前に立った。
「ふむ、君はそれで一体どうするつもりなのかね?実体のない君は盾にもなりはしない。」
「うっ…!?」
ゴーストが困っている間にもラゴウは華凛目掛けて襲い掛かって来る。
「なかなかの強敵とお見受けしたぁっ!」
颯がそう叫んだ後、木の鞘から木刀を抜き、ラゴウの右手の爪を受け止めて華凛を守った。
「は、颯ちゃん!?」
「ほう?君はラゴウが怖くないのかね?」
「ふふっ!甘いな、老紳士殿!私は華凛と素子を守る天命を受けた勇者侍なのだよ!むしろ、強敵大歓迎さ!」
颯はそう言うと木刀で爪を受け止めたまま、右足で思いっきりラゴウの右太腿を何度も蹴った。
「…そうか、君が一番この中じゃ命を落としやすいかもしれないね。」
「…! 颯ちゃん、危ない!」
華凛はそう言うとディサイドネックレスを出現させ、左手にカードを実体化させた。
「行くよ、ゴースト!」
華凛は右手に持ったデバイスにカードをスラッシュした。
『Phantom change』
ゴーストはキャンドルゴーストになり、トリプルキャンドルホルダーを右手に持ってすぐにブレードを出現させてラゴウに斬り掛かる。
ラゴウは後ろに下がり、Mr.シルバーの近くに着地した。
「うーむ…。時に華凛君、君はデュエル・デュラハンをプレイしているかい?」
「…? や、やってないけど…?」
Mr.シルバーは華凛の返事を聞くとため息をつき、右手で髪を掻き上げた。
「…駄目じゃないか、華凛君。早速、赤点ポイントだ。それじゃ、アルウス君は三分間しか戦えないよ?」
「…! それは、そうだけど…。」
デュエル・デュラハンのルールでヘッドは三分経つと解除されてしまう。それはゴーストのキャンドルヘッドも同じだった。
「デバイスはスマホと合体させる事ができる。こんな風にね。」
Mr.シルバーはデバイスを変形させ、スマホを差し込んで見せた。
「これでデュエル・デュラハンのアプリ内にあるヘッドを現実でも使う事ができるのだよ。」
「そんな、機能が…。」
華凛はすぐにデバイスを確認した。あるのはキャンドルヘッドと開示されてないヘッドの二つだけだった。
「ハヤテ流剣術!どんぐり落としぃっ!」
颯は走って高くジャンプし、ラゴウに向かって木刀を振り下ろした。
「やれやれ…。頂けない遊びだな、ハヤテレディ。」
ラゴウは右手で木刀を受け止めてへし折った。
「わ、私の小鴉丸がぁっ!?」
「颯!」
キャンドルゴーストが急いで颯の近くまで浮遊し、キャンドルホルダーブレードでラゴウに向かって突き攻撃を繰り出した。
「いいかい、華凛君?敵は一人だけとも限らないのだよ。この様にね!」
Mr.シルバーは紙を周りに散らばせ、一瞬で鳩に変えてみせた。
「痛たっ!?何だ、この鳩!?」
颯は頭を多くの鳩に突っつかれ、尻餅をついてしまった。右手に持った折れた木刀を振り回し、左手も曲げて頭を守った。
「は、颯ちゃん!?」
「ひゃっ!?」
華凛の隣の素子が悲鳴を上げたので華凛は急いで横を向いた。Mr.シルバーが素子の背後に立ち、両肩に手を置いた。
「い、いつの間に…!?」
華凛はさっきまでMr.シルバーがいた場所を確認した後、再び素子の背後にいるMr.シルバーを見た。
「…これが実戦なら、素子君は既に命を落としているな…。」
「くっ…!」
Mr.シルバーはそう言った後、指を鳴らして全身が鳩に変わって飛んでいった。
「う、うわぁっ!?」「な、何なん!?」
ラゴウの近くで鳩は集まっていき、Mr.シルバーの姿に戻った。
「だ、大丈夫だった、素子ちゃん?」
「う、うん…。心配してくれてありがとな、華凛ちゃん…。」
「おのれぇ〜っ…!」
鳩の群れから脱出してきた颯も華凛と素子の元へと戻ってきた。
「一体何なんだ、老紳士殿!?あんたはマジシャンか何かか!?」
「はっはっはっ!良いリアクションだ、颯君!まぁ、そんなものかなぁっ…。」
「…違う…。」
「ん?」
華凛は歯を噛み締め、下を向いていた。
「何が違うんだい、華凛君?」
「あなたのその能力…。間違いなく、四年前の商店街での封筒紛失騒動に関係ある能力だ…!それにあなたはさっき、こう言った。『自分の身体に図と文字を全て内包した』、って…!妙な言い回しがずっと気になってた…!でも、まるで推理ができない…!」
「…ふっ、ふっはっはっはっはっ!」
Mr.シルバーは右手で自分の顔を隠し、空を見て高笑いした。
「何だ?何がおかしい、老紳士殿!?」
Mr.シルバーは尊敬の眼差しで華凛を見る。
「…いや、失敬!やはり君は素晴らしいよ、華凛君!実にクールな着眼点だ…!何しろ、君はこの状況で仲間の危機よりも真実を追い求める気持ちの方が勝っているのだからねぇっ!」
「…!? そ、そんな事は…!?」
「戦闘面では赤点だが、それを埋め合わせする程の魅力が君にはある!悪のカリスマの才能がね!」
Mr.シルバーはにやつく顔を隠すように右手で顔を覆った。
「華凛ちゃんが悪やて!?」
「華凛は真っ直ぐな猛者だ!決して悪の道には染まらん!」
素子と颯が庇うように華凛の前に立った。
「そう、今は真っ直ぐで純真な少女…。だが、そこから悪の道へと誘い、芽吹かせるのが私の楽しみなのだよ…!華凛君、私は君を必ずその道を歩ませたい…!」
「華凛の人生を勝手に決めるな!」
キャンドルゴーストは背後からキャンドルホルダーブレードでMr.シルバーを横一閃した。
Mr.シルバーは複数の鳩となって散らばり、離れたところでまとまって人型に戻った。
「さすが華凛君の人生を狂わせたデュラハンは言う事が違う。君が関わらなければ華凛君はミステリー研究会を作るとは言い出さないと思うが?」
「そ、それは…。」
「Mr.シルバー、撤回して!」
華凛は眉を強め、Mr.シルバーを睨んだ。
「ゴーストは私の人生を狂わせたりなんかしない!それはゴーストと関わらなかった私がミステリー研究会を作る、って言い出すかはわからないけど…。ゴーストと会わなかったら、私は颯ちゃんや素子ちゃんとも会う事はなかった!だから、ゴーストには感謝してる!それを人生を狂わせた扱いするのなら、私はあなたを許さない!」
華凛はMr.シルバーを右手で指差した。
「華凛…。」「華凛ちゃん…。」
「…良いなぁっ、華凛君!その許せないという憎悪…!悪の道へ一歩近づいたではないか…!素晴らしい、華凛君…!その鋭利な眼差しで私の胸を貫いてくれたまえ…!」
「な、何言ってんだ、あの老紳士殿は…?」
華凛たちは興奮気味なMr.シルバーを見てドン引きした。
「…おっと、失礼。つい興奮してしまった…。しかし、華凛君。君に教えなければならない。圧倒的な暴力は論理を勝る、という事をね…!」
Mr.シルバーはそう言うと一枚のカードを実体化させた。




