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双星のバスタード  作者: 山上真
序章
37/49

第34話

 領邦内における賊の虐殺。それを成し遂げた新帝軍、及び領邦軍には、当然の如く畏怖と称賛が集まった。

 規模の大小を問わなければ、賊の数は多いのだ。当然、生き残りもそれなりにいる。その中には新帝軍に下った者もいれば、逃走に成功した者、規模から討伐対象にはならず敢えて見逃された者もいる。

 一言に『賊』と切り捨てても、その個人個人に目を向ければ、細々とした繋がりはあって然り。である以上、逃げ果せた者が行き着く場所などそう多くはない。

 逃げ果せたその先で感想が洩れ出れば、或いは言葉にせずとも恐怖に震える様を眼にすれば、そこから話が広まっていくのは特段おかしな話ではない。……それこそ、アルスたちの目論見通りに。

 しかも今回の討伐には、それぞれが赴いた場所こそ異なるものの、全ての領地から貴族が馳せ参じているのだ。その事実は、『度が過ぎるようならば、目こぼしすることはない』という、賊に対する物言わぬメッセージでもあった。

 同時、アルスたちが領邦を去った後でも大きな効果を持つ。

 一度やった者が、二度目をやらない保証は無いのだ。であるならば、賊に対する根切りも然り。そこにアルスが居る居ないは関係ない。

 この一事を以て、逃げ果せた賊、或いは傍観に徹することができた賊は、これまでのように貴族を甘く見ることができなくなったのだ。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 事が終わった後、一同は解散し、それぞれの領地へ戻った。

 それはジュリアスも例外ではなかったが、その傍らには一人の男を連れていた。賊からの降伏者である。

 まあ、勧告をしている以上、降伏者が現れても仕方がなくはあった。しかし、その者に対する処遇は、他の降伏者と比べて明らかに手厚かった。

 だが、ジュリアスとしてもそうするだけの理由はあったし、アルスもまたそれを咎めなかった。つまり、件の降伏者はアルスからも『価値』を認められたことを意味している。

 そうして、アルスたちが北東領邦へと出立して日も経ったある日のこと。

 執務室で書類仕事に精を出していたジュリアスは、今現在はジュリアスの側近へと仕立て上げた件の降伏者――ロビンから不意に問いを投げかけられた。


「いやはや、見事なもんです。……どこまでが計算だったんで?」

「? ……馬鹿正直に教える筈がないだろうが。くだらんことを言ってないで手を動かせ。それとも、今からでもせっかく拾った生命と立場を捨てたいのか? 個人的には勿体なくもあるが、それならそれで構わんぞ?」

「いやいや、そいつは御免ってもんです。望外の状況なんだ。それを捨てるなんて勿体ない」


 主語も何もないため、最初はロビンが何を指して言っているのか分からなかったジュリアスだが、元より頭のデキが良いこともあり、すぐさま見当を付けた。……そもそも、ロビンに処理させる書類を振り分けたのはジュリアスである、という一因もあったが。

 さりとて、裏事情の全てを教えることなどできるわけがない。表に出してこそ効果を発揮する事柄もあれば、秘したるからこそ効果を発揮する事柄もあるのだ。

 まあ、それでもロビンなら調べてのけるだけの能力を持っているだろうが、それと言質を取られるかどうかというのは別問題だ。取り分け、発言者のポジションが、その効力を押し上げることなどままにある。その点、ジュリアスの証言であれば効果は高い。

 相手がロビンということもあり、伝えても構わない部分であれば伝えるのも吝かではなかったが、あまりにも脈絡なく問いを投げられたこともあり、当のロビン自身が話のタネ以上の価値を見出していないことは簡単に見て取れた。

 そんなわけで、ジュリアスが取った手段は単純明快だった。話さないことを伝えての脅迫である。

 そもそもロビンの立場が立場。曲がりなりにも自由行動が認められているのは、アルスに才を認められたジュリアスと、他ならぬアルスがロビンの才を認めればこそ。

 しかし当然のことだが、能力と人品は別問題だ。能力に対する信用は得ていても、人柄に対する信頼は未だ構築中なのがロビンの実情。

 既に領邦からアルスが去ったいま、ジュリアスに見放されてはどうなるかなど考えるまでもない。元より話のタネ以上の意味がないのなら、必要以上に踏み込まないのが賢い選択である。

 そんなジュリアスの予測通り、アッサリとロビンは追及を取り止めた。

 さりとて、いくら今現在執務室にいる者が限られているとはいえ、基本、仕事中のおしゃべりは褒められた行為ではない。ロビンもそれは承知の筈であり、そのうえで話題を投げかけてきたのだから、これで終わる筈がないという予測もジュリアスはしており、事実そうなった。


「いやね? 俺自身はよく知らんけど、以前に比べると各地とのやり取りが格段に増えたって話じゃねえですか? んで、いま俺が処理してる書類によると、各地で野盗どもの投降が相次いでいるらしいんですわ。しかも面白いことに、その処罰内容が大枠ではどこもかしこも一貫しているときた。……死罪にするのではなく、働きで以て償わせる。それ自体は特段おかしな話でもないですが、奴隷落ちでないのが逆に面白い。或いは農作業に従事させ、或いは治安維持部隊に配属させ、或いは前線砦に送り込む。これじゃあ、罰らしい『罰』とは言えんでしょうよ」


 片手に持った報告書をペラペラと振りながら、ロビンは飄々と宣った。

 それをジュリアスは否定できない。確かにその通りで、罪人に対する刑罰としては余りにも軽すぎる。

 しかし、その罪過の根源を辿れば、『正常な統治ができていなかった』という側面があるのは否定できないのだ。

 世の中スケープゴートは必要だが、根底を直視したうえでおこなうかどうかは大きな違いがある。有権者が問題の根底を認知し、そのうえで改善に取り組まなければ、結局は改善されることもなくおためごかしに終わってしまう。


 ――「奸臣の類は取り払った。これから野盗の中でも殊更にタチの悪い者たちも処断する。そのうえで、生きるために仕方なく罪を犯さざるを得なかった者たちまで処断するというのは、むしろ我らが『恥知らず』になってしまうのではないか?」


 虐殺の前にアルスが語ったセリフである。一定の理は存在するため、単純否定が難しいのも事実。

 そもそも、『新帝』たるアルス自身、血統の重要性を認めてはいるが、それだけに拘泥しない人物だ。

 嫁は旧帝国の皇女だし、幹部には旧帝国の貴族子弟が揃っているし、それぞれが一定の実力を有しているし……という状況がそのことを気付きにくくさせているが、幹部の中に平民がいることを忘れてはならない。

 その点を鑑みると、『能』や『才』を重視する傾向が強いということでもある。……まあ、血統に拘泥してしまっては、決起の大義名分が失われてしまうから仕方のない部分もあるが。

 であるならば、色々と御膳立てをされたこの状況で、現在の立場に胡坐をかき、なおも問題の解決に根底から取り組まないようであれば、そのような者の立場を保証し続ける意味は薄い。

 実際、アルスは領邦の出立前にそのような内容の言を残していっている。今すぐに実行しないのは、状況がそれを許していないだけだと。

 そう言われてしまえば、己が立場を気にかける者ほど単純処罰を執行するのは難しくなる。幸いにして、貴族間でも今まで以上に互いのやり取りがしやすくなった。となれば、互いに相談しあうのが道理であり、そうして結論が共有されてしまえば、似たり寄ったりな対応になるのも道理である。


「小さなことからコツコツと、ってことだろうな。新帝陛下は個人の力を認めてはいるが、同時に見切りを付けてもいる。ヒト一人にできることには限度があるから役割分担が生まれ、それを突き詰めていった結果、組織という態をなす。まあ、道理だな。……しかし、組織というモノは大仰な行動を取るには向くが、細かな行動を取るには向かない。命令系統に意思決定、組織としての体を重視すればするほど雁字搦めになり、柔軟な行動が取れなくなる。これも道理だ。……どちらにも長所と短所があり、それを認知していればこそ体系の一本化なんてできなくなる。必ずどこかに抜け道を残す。だが、それはそれで別種の問題を生むのも道理だ。……結局、分かりやすい『正答』なんてものがある筈もなく、欠点ありきの方策を取らざるを得ないのが現実だ。そのうえで陛下が選んだのが『バランス』ということだろう。個人あっての組織であり、組織あっての個人である。結実には時間がかかるが、実感と責任感を育むには丁度いい」

「……アンタもそうだが、新帝陛下も見た目通りの年齢か? ぶっちゃけ、思考が『年相応』をかけ離れているぜ? いくら王族なり貴族なりの血統だっつったってなぁ……」


 ジュリアスの言葉に対し、ロビンは顔を顰めて首を横に振った。

 アルスとジュリアス、双方に共通するのを一言で表せば『子供らしくない』となる。その事実こそを、ロビンは憐れんだ。


「まあ、その同情はお前の優しさと受け取っておくがな。あまり他人のことは言えんと思うぞ? ……連合加盟国家の騎士家系に生まれ、生まれに恥じぬよう幼い頃から鍛錬と勉強に明け暮れる。そして迎えた初陣にて献策を採用されるも、結果としては失敗に終わり、罰として領外追放の憂き目に遭う。その果てにこちらへと流れてきたが、地盤も何もない状況だ。そう容易く生活基盤を整えられる筈もなく、紆余曲折を経て野盗どもの用心棒へと落ち着いた。この中で僅かな救いがあるとすれば、お家自体は存続を残されたこと。……投降時にお前が言っていたことだ。没落貴族やらの事例としては特に珍しくもないが、本人にしてみれば波乱万丈だろうよ。他人を憐れんでいられる立場か」

「そう言われちゃあ、返す言葉も無いが……」


 ジュリアスの言葉は、経歴に対する感想としては極々一般的なものであり、ロビンも否定はできない。


「曲がりなりにも騎士だった身だ。追放もそうだろうが、野盗に協力せねばならないことにも大分憤懣があった筈だ。それでも、お前は生きるためにそれを選択した。……だから良いんだ。騎士の中でも、とかく真っ当とされる連中は、『誇り』だの『騎士道』だのを大事にすると言われている。それを否定はせんが、為政者としては使いづらいのもまた事実。大事にしつつも、必要とあればそれを捨てることも可能な人物の方がよほど有用だ」


 一般人が『騎士』に抱くイメージとして、ジュリアスの言っていることは然程的外れではない。だからこそ、大衆の羨望を集める面があるのは間違いない。

 しかし、立場が変われば見方も変わって然りだ。『誇り』や『騎士道』を大切にする騎士は、為政者視点だと『広告塔』が一番向いている仕事となる。たとえ実力があろうとも、決して重用はできないタイプの相手だ。まかり間違っても権力を持たせてはいけない。何故かと言えば、その本質は『融通が利かない』のと同義だからである。……まあ、それが一種の魅力に映るのも否定はしきれないので、国の掲げるお題目と、やらせる仕事内容によっては権力を与えても問題はないのかもしれないが。


「ありがたいことだよ。……何も俺だって最初から野盗に味方したわけじゃない。当然だ。幼い頃から騎士たるを求められ、俺自身、それを自任してきたんだからな。だからこそ、失策を挙げてしまったのが事実である以上、追放されたことに関しても文句はない。今では『いつもの小競り合い』の一言で済ませがちだが、大なり小なり犠牲者が出ているのは間違いないからな。俺の献策で味方の犠牲者を増やしてしまったんだから、何らかの形で償いは必要だ。……ただまあ、理性と感情は別物で、文句はなくとも不満はあってな。追放刑に処された時点で、以前の主に対する忠誠心も無くなったわけだ。……こっちに流れて来た当初は、一念発起して再び騎士たるを目指し、各地の領主を訪ねたりもしたさ。だが、伝手も何もなかったからな。大領の主には門前払いで会えずじまい。小領の主は会うことこそできたものの、経歴を話した段階でお呼びじゃないとさ。ま、領主にしてみれば、失策を挙げるような人物など要らんのかもしれんがな。……そうして行き着いた先が野盗の用心棒だ。その事実に何度絶望したかなんて覚えちゃいない。それでも、死んじまったら騎士も何もないからな。必死に現実に耐え、日に日に摩耗していく中でお前さんたちがやって来た。正直、チャンスだと思ったね。気付いたら、一も二もなく飛びついていた」

「結果、俺はお前という配下を得ることができた。俺は『ユグドラシル』の王権を目指してお前を上手く使う。お前は俺に仕えることで『騎士たる』を確かなものにする。……現状、決してお前を『忠臣』とは言えん。だが、互いに互いを利用し目標達成を図る点では『仲間』に違いない」


 それが二人の関係だった。

 ジュリアスが『王』を目指すなら、配下が必要不可欠だ。

 ロビンが『騎士』を目指すなら、仕える主が必要不可欠だ。

 その点において、両者の思惑は合致した。極めてビジネスライクだが、それも決して悪くはない。むしろ、きっかけとしては十分だ。

 頼りになる主と頼りになる配下。言葉にすれば簡単だが、能力と人品の両面が完全に満たされることなどそうありはしないのだ。


「互いの目的を果たすためにも、今は領内運営をやってみせんとな。……正直、『王権を目指す』と宣ったところで、独力では不可能だ。必ず余所の力が必要となるし、その最有力候補はアルス陛下以外にはあり得ない。だが、優しくはあっても甘くはない方だからな。『王』として振る舞うに能力人品が足りなければ、王権奪還に協力はしてくれても、その後は象徴として置かれるだけだろう。それでは片手落ちだ。妄執から解き放たれるとは到底思えん」

「なるほど、そういう理由……。何で新帝陛下に同行しなかったのか不思議でしたが、それを聞いて納得ですわ。能力はあれど軽々しく責任放棄するような人物に、果たしてどこまで信を置けるか……ってな話ですな」

「ま、そういうことだ。付け加えると、今の俺には何もかもが足りんからな。統治する傍ら、それを増やさなければならん」

「確かに。仲間、配下、装備……何から何までおんぶに抱っこじゃあ恰好がつきませんからな」

「ああ。かといって一朝一夕で用意できるものでもないし、順序立てて求める必要がある。そして、最優先で求めるのは人員だ。何をするにも人材と人手が必要だからな」

「まったく、世知辛いですな……」


 そして二人は、次から次へと人材募集の張り紙を書いていくのであった。

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