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双星のバスタード  作者: 山上真
序章
1/49

プロローグ

はじめまして。

取り敢えず、一話辺り五千字以上を目途にして十万字まではストックがあります。

初めてのオリジナル作品ですが、どこかで見たような流れや名前についてはご容赦をお願いします。小説のみならず色々な作品がある中で、展開や名前がまるっきり被らないのは不可能に近いです。

「世は押し並べて事も無し……と」


 家の窓――ガラスではない――から外を眺め、アルスは溜息を吐いた。未だ五歳の子供だというのにらしからぬ表情を浮かべているが、それも無理はないだろう。

 一言で言えば、アルスは転生者だった。この世界――『リザーディア』にしてみれば異世界に当たる『地球』の『日本』で生活していた記憶がアルスにはあった。昭和の終わりに生まれ、平成・令和と過ごした記憶。それも、自分が何者だったかという個人情報はまるで覚えていないくせに、役に立たない――役立たせられない知識は山のようにある。……異世界モノの作品の定番ともなった『転生チート』と呼ぶべきモノを、アルスは持ち合わせていなかった。或いは、この知識がそうなのかもしれないが、役立たせることが出来ないなら意味はない。

 リザーディアを一言で言い表せば『異世界ファンタジー』となるのだろうが、それとて確証はない。自我が芽生えてからと言うべきか、記憶を取り戻してからと言うべきか、以降、どうにかこうにか得られた情報での結論に過ぎないからだ。

 アルスに名字はない。家名を持たない『平民』の子供。それがアルスだ。アルスのみならず、この村の住民の大半がそうだ。

 アルスの住まいは、リザーディアは『アスカ大陸』の地方村だ。そんな場所だから、情報を得るのも一苦労なのが実情だ。電話もない。テレビもない。ネット環境など以ての外。道路事情も前世と比べれば雲泥の差。紙はあるが、現在地では貴重品だ。村の中では木板が主流である。これでは『鮮度』や『種類』を求めるなど高望みもいいところだ。子供となれば尚のこと。

 所謂『魔法』に該当する力が存在するのは分かった。努力次第で誰でも使えるが、やはり向き不向きも存在する。また、一言に『魔法』と言っても幾らかの種類が存在する。俗に『黒魔法』とか『精霊魔法』とかで分類されるアレだ。……まあ、その正式な呼称をアルスは知らないのだが。

 魔法にも種類があって、その中でも属性やら何やらで適性が分けられるということだ。

 さて、国の方針か領主の方針かは知らないが、村民は一定の年齢に達すると村を離れて町へ赴くこととなる。基本的には年齢で区分けされるが、普段の生活態度や村民からの評価次第では早まることもあるらしい。

 町へ行って何をするかというと、一定期間を費やして最低限の勉学を学ぶそうだ。だから、村民の大人は誰もが最低限の読み書き計算ができるし、場合によっては赴く時期が早まるのにも納得がいく。本人の学ぶ気が一番ではあるのだが、早期からより良い学習環境に身を置かせても周囲にとって損はない。

 前世ほど飽食に溢れているわけではないが、こんな地方村でも必要最低限の食は出来ている。

 村の外に魔物やら賊やらがいないわけではないが、だからこそ自警団も目を光らせているし、町の衛兵団に応援を要請すれば規模の大小や時間の長短はどうあれ応えてくれる。

 そういったあれやこれやを鑑みれば、十分にアタリの部類ではあるのだろう。少なくとも、その日の生活に困るわけでもないのだから。

 逆説、村民の大人たち、その誰もが誰も最低限の良識と常識を弁えているものだから、前世知識を参考に物事を試すにも限度があるのだが。平たく言えば『子供から目を離さない』、『子供に危ないことをさせない』が行き届いている。

 魔法に関してもそうだ。村民たちの幾らかは種類は異なれ魔法が使える。しかし、教科書の類はない。教育期間中に使用するそれはレンタル制だからだ。卒業と同時に返却している。だからこそ、大人たちに魔法について聞いたところで、あやふやな部分が大きいのも事実。共通しているのは『魔力を用いる』という部分のみ。魔法によって発動までのプロセスが異なるのだ。理論だっていると同時、感覚的な部分も大きい。大人たちもそれを自覚しているからこそ、最後には――


「興味津々なのは良いが、まあ、学校で教わるまで我慢するんだな。こっちとしても教えてやりたくはあるが、それで怪我でもされちまったら責任が取れん」


 で終わってしまう。

 善意からそう忠告されてしまっては、アルスとしても無理強いして聞き出すことは出来ない。魔法に興味はあるが、そこまで必要に迫られているわけでもないからだ。前世と比較して不足を嘆けばキリがないが、現状でも必要最低限の『衣』『食』『住』は整っているのだ。そんな状況では敢えて波風を立てる気も湧かなかった。

 それに、それならそれで他の部分に力を注げば良いだけだ。前世において『子供は風の子』と言われたが、それはどうやら今世でも当てはまるらしい。大人の視界に入る部分で家の外を駆け回る分には、微笑ましい目で見られるだけだ。

 そんなわけで、部屋の木窓を閉めたアルスは今日も今日とて村の中を駆け回ることにした。


「外に行ってくるね」

「いつもの広場? 少し待ちなさい、私もついていくわ」


 家族に一声かけて出かけようとすると、母親から『待った』がかかった。まあいつものことだ。一般的な良識を持ち、その上で余裕があるのなら、幼い子供を放置する筈もない。

 アルスの家族構成は両親、祖父母、兄、姉、そこに当人を加えた七人家族。ただし、父親は領主の許に仕えているらしく単身赴任で不在だし、兄と姉も学校に行っているため不在だ。そのため、家にいるのは祖父母、母、アルスのみとなる。

 父親が領主に仕えているからか、アルスの家は村の中でも資産家の部類に当たるだろう。実際、村内で比較しても家が大きいのだ。比肩するのは村長の家くらいである。

 ともあれ、母親がついてくるというのなら断る理由もない。精神がどうあれ、自分が五歳児に過ぎぬことをアルスは自覚しているのだから。


「分かったー」

「いや、今日は私がついていくことにするよクリア。アルスは広場で身体を動かしているのだろう? 私としても興味がある」


 アルスが母親――クリアに返事をすると、そこに祖父――ウェールズが口を挿んだ。祖父は『老いてなお壮健』の体現者とも言うべき人物で、自警団のリーダーも務めているらしい。

 自警団の仕事は多岐にわたる。村内の見廻りは言うまでもなく、村付近の害獣駆除もその仕事だ。野生動物に魔物、賊……普段は村に寄り付かぬからと放置しておけば、いずれ思わぬしっぺ返しを食らうことになる。それを防ぐためにも適度な間引きは必要なのだ。

 そして、全てが全てというわけではないが、それらの中には価値のある存在もいたりする。動物や魔物であれば食肉や素材としての利用、賊であれば懸賞金といった具合だ。

 そんなわけで、自警団の仕事は村だけでなく、間接的に領や国の助けにもなっているのが実情だ。普段から間引いているからこそ、村外の移動が楽になっているのは決して否定出来ないのである。

 そんな自警団に勤めているからこそ、祖父の生活は不規則だ。害獣であれ賊であれ、日中しか活動しないわけではない。中には日が落ちてから活発に動くモノもいる。それを思えば、自警団員の生活が不規則になるのも無理からぬことだろう。

 その自警団のリーダーを務める祖父が家にいるのは、昨日から数日間の休みを得たからだ。当然のことではあるが、休みも無しに働き続けられるわけがない。他に比べて命の危険も大きい村外の仕事に従事する自警団員は、基本的に数日間のまとまった休みが与えられる。


「そうですか? ではお願いしますね」


 クリアはアッサリと見守り役をウェールズに譲り渡した。アルスとしても否はない。


「うむ。では行くとしよう」


 ウェールズが立ち上がった。ピンと背が立っている。その力強き立ち振る舞いは、とてもじゃないが老人とは思えない。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


「あらウェールズさん、いつもお疲れ様です。今日はお休みで?」

「ねぎらいありがとう。うむ、昨日からな。……私の仕事が仕事ゆえに、同じ家に暮らしていても孫と時間を共にするのが余りに少ない。それでは祖父としてどうなのだ? と我ながら思わずにはいられんのだよ。そんなわけで、クリアから役目を奪い取って来たわけだ」


 広場に着いた際、村民のおばさんからウェールズへと声がかけられた。それに対し、ウェールズは茶目っ気を含めた言葉を返した。


「ああ……。なるほど、だからうちの旦那も休みの日には進んで子供の面倒を見ようとするわけですね」


 おばさんは納得げに頷き、広場にいる子供の一人へと目を向けた。おばさんの子供だ。

 所詮は『村』――『町』の規模には至っていないが故に住民数も少なめだが、だからといって幼い子供がアルスだけの筈もない。そして、規模が小さい故に子供を遊ばせる場所も限られている。必然として、広場に連れてこられる子供は全員が顔見知りと言っていい。


「よお、アルス。今日は何すんだ?」

「おはよう、アルスくん。今日は何するの?」


 広場へのアルスの到来を知ったからか、子供たちが駆け寄ってくる。この様子から分かるように、アルスは子供たちのリーダー格となっていた。まあ、幾つかあるグループの内の一つに過ぎないが。これはアルスの精神年齢もあるが、どうにかこうにか前世知識を活かすべく奮闘した結果でもある。

 村であるからこそ、住民同士が助け合わなくてはやっていけない部分もある。大人と子供の境もなく、だ。……アルスはそこに目を付け、材木加工店やら鍛冶師やらに協力を頼み、遊び道具の類を拵えてもらったのだ。彼らとて子供や孫がいるのだから、その一助となるなら応えたい気持ちもあるが、材料だってタダではない。作成に時間だって取られる。これがただの『子供の我儘』なら即応はしなかっただろう。しかし、彼らはアルスの説明に興味を惹かれた。地面に簡単な図も描いて説明するものだから、作る身としても分かりやすい。試しに作ってみるか、程度の気持ちにはなった。

 結果、村には子供の遊び道具が増えた。輪投げ、けん玉、ケンケンパリング、オセロなどだ。材質や出来栄えなど『上』を目指せばキリがないし、設備的にもこの村では作り上げることなど無理だろうが、それはあくまでも『上』を目指せばの話。ある程度で良しとするのなら、村の材木加工師や鍛冶師でも十分だった。

 そうして作られた遊び道具は村の共有物となった。中には個人でも買い求める物があるそうで、その筆頭はオセロらしい。アレは大人でも楽しめるから無理もないだろう。

 それを実際に遊ぶ身として、その立役者になったアルスに興味を抱く子供たちが現れるのは自然なことだったのかもしれない。

 さておき、子供たちに問われたアルスは考えた。未だ提案自体していない遊具もある。それを提案しに行くのも一興ではあるが、ダメな可能性もまた高い。雲梯、鉄棒、跳び箱などなど、思い当たる遊具は多いが、今までのに比べて場所を取るし、そもそもが常設型だ。跳び箱はその限りでないが、着地点への安全性を高める必要性があることを思えば、やはり無理な可能性が高い。

 遊具に頼らない遊び――例えば『鬼ごっこ』やその亜種――も思いつくが、少なくとも五人くらいはいないと面白くない。アルスグループは当人を含めて三人しかいないので、やる気も提案する気も湧かなかった。

 また、アルスはこの国で使われている文字が分からない。部分的に目にすることはあるが、習っていないので読めないのだ。必然としてトランプやカルタなども提案し難い。

 そこまで考えて、ふとアルスの眼に掲示板が映った。広場には村民向けの情報共有として掲示板があるのだ。大きな木の板の何ヶ所かに釘が打ちつけられ、その一つ一つに何事かが書かれた木の板が掛けられている、といったタイプのものだ。村内では紙が貴重品なことを思えば、理に適っていると言えるだろう。

 

「ねえ、じいちゃん。俺たちは一定年齢に達したら、町へ行って一定期間最低限の勉強を学ぶ。それは分かったけどさ。その前段階的なものはないの? 例えば……この文字単体では何と読む、とかさ」


 アルスはウェールズに声をかけ、その手を引っ張って掲示板の元へと向かった。……アルスが思い浮かべたのは五十音表やアルファベット表である。


「お前の言うことが、学校へ行って一番最初に学ぶことだ。それを前以て学ぶとなれば、それこそ王侯貴族や一部の豪商くらいのものだろう。学ぶに当たり表の類は無いではないが、紙を使っておるし、こんな場末の村では、な」

「表の類はあるんだ。……なら、普通に木版に刻めば良いだけじゃないの? 必ずしも紙を使わなくたってさ。この広場には掲示板があるんだし、もう一個同じようなのを用意して置いとけば子供の予習にもなるんじゃない? 実際、子供の大半は広場に来るんだしさ。書き取りの練習だって、木の枝使って地面に書けば良いだけだし」

「ッ!? 言われてみれば、確かにそうだ」


 アルスの言葉にウェールズは衝撃を受けた。言われてみれば尤もなことではあるのだが、先入観が邪魔をしていたのだ。


「ふむ、近い内に村内の者たちにも相談しよう。その結果次第で広場に設置する。折よく設置と相成ったなら、成果次第で領主様にも報告することになるだろうな」 


 祖父の言葉に内心で随分と大事だな、と思いつつも理解出来なくはなかった。

 ともあれ、それ以外だと案らしい案は出ず、今日のところはいつも通りの遊びをして時間を潰すアルスだった。 

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