ウィリアムの計画
「そ、それではどうしてイザベラ様やマリアンヌさんと親しそうにされていらしたのですか?…ウィルさま…いえ、ウィルのご親友であられるカイル様まで。」
わたくしの腰に手を回し、絶対にわたくしが離れないように力を入れられているので、彼の膝から降りることを諦めてウィリアムに問う。
「全部終わったら話すつもりだったんだけど。泣くほど君を傷つけちゃったお詫びに話さないといけないね。」
ウィリアムがわたくしの髪をもてあそびながら、話しだした。
「まず、イザベラ・バーリー侯爵についてだけれど、今、わたしは父に命じられてバーリー侯爵の不正の疑いを調べている。」
「え?不正?」
「脱税および禁じられた人身売買、魔石の他国への横流し。」
「!」
「バーリー侯爵の屋敷には何人もの魔術師や私兵が居てね。王家の影と言えどもうかつに侵入ができない。だから、わたしはイザベラに近づき、イザベラから屋敷に招待される機会を伺っていたんだ。わたしが侯爵の屋敷に行けば、侯爵もわたしの相手をせざるをえない。油断もするだろう。その隙に王家の影が動くことになっていた。」
「そ、そうだったのですか。…でも、バーリー侯爵が不正をしている噂などございませんでしたけれど?」
「ああ。気付いたのは、わたしがバーリー侯爵の領地の魔獣を退治しに行った時だ。魔獣を退治した後、森の中を念のため見回っていたら、領民がこっそり近づいてきてメモを渡して逃げていった。そこには税金が高すぎて生活できないと書かれていてね。そんな馬鹿なとは思ったけれど密かに調べた結果、いろいろな不正が見えてきたんだ。」
「…まあ…。」
「だから。イザベラを油断させるために機嫌を取っていただけで、好きになったわけではない。…誤解は解けた?」
「はい…。そういうことでしたら、最初から教えていただければ…。」
「君はとても優秀だけど唯一、お芝居は下手でしょう?イザベラ達を油断させるためには君には何も教えない方が効果的だと思ったんだ。…まさか、浮気を疑われるとは思わなかったけど…。傷つけてごめん。」
うなだれた。
ウィリアムの計画通り、彼女たちは普段のわたくしなら絶対に見せない姿を見て、ウィリアムがわたくし以外の女性に目を向け始めたとほくそ笑んだことだろう。
「それに。本当に君を巻き込みたくなかったんだ。というのは、マリアンヌ・グローの持つ魔力が厄介な物だったからだ。」
「マリアンヌさんの魔力?」
「ああ。光の属性を持ちながら癒しの力が無く、代わりに…魅了の力がある。」
「え!?…待ってくださいませ。カイル様は、闇属性のような精神干渉の力は無いとおっしゃっていましたが?」
「闇属性の持つ精神干渉とは違う。闇属性の精神干渉は使う者が意識して使わなければ使えない。しかし、彼女の持つ魅了は彼女が意識するしないに関わらず、常時発動されている厄介なものだ。」
「そんなことがありえますの?」
「今まで聞いたことが無い。気付いたのはカイルだ。マリアンヌは貴族というよりも平民に近い。入学当初、マリアンヌに対しては下位貴族でさえも彼女の態度を明らかに軽蔑していた。それなのになぜか知らないうちに彼女の崇拝者になっていった。それをおかしいとカイルは思ったんだそうだ。些細な疑問だったけれど調べてくれてね。その結果、崇拝者になった最初の者達は全員、彼女と同じクラス。それも、彼女の座席の近くに座っていた者から崇拝者に変わっていた。」
「……。」
「カイルはいろいろと優秀だからね。マリアンヌの崇拝者が誰から始まって、誰が次に加わったか、徹底的に調べてくれた。その結果、マリアンヌと関りができた者が崇拝者になっていることがはっきりしたんだ。」
「そういえば…。イザベラ様がマリアンヌさんに近づいたのはマリアンヌさんが入学してからすぐの時期でしたわ…。」
「そう。イザベラがなぜマリアンヌに接触したのかわからないけれど、マリアンヌと一緒に居る時間が多かったので、彼女に魅了され彼女の言いなりになっている。自分では気づいていないけれど。」
「それでは、わたくしにマリアンヌさんと関わるな、とおっしゃったのは。」
「そう。君に魅了の術がかかったら困るからだ。」
「そ、それを言うなら!ウィルやカイル様だって!」
「僕らは魅了にかからない。」
「はい?」
「闇属性を持つ者は、何故か魅了などの精神干渉が効かないんだ。忘れた?」
「…そ、そうでした。」
「ただね。今までに無い事態で、あくまでも魅了についてはカイルの仮説だったから本当かどうか継続して調べる必要があったんだ。特に、マリアンヌが自分の力を知っていて意識して悪用しているのか、それとも全く気付かずただ常時発動しているのか。それによっては罪の重さも違ってくるし。カイルがマリアンヌと一緒に行動しているのはそのため。あと、高位貴族の生徒を彼女の魅了から防ぐため。カイルはマリアンヌが高位貴族の生徒に近づかないように阻止している。高位貴族があんな女の言いなりになったら国が傾くからね…。」
わたくしはうなだれた。
どうしてウィリアムを信じなかったんだろう。
どうして彼の愛情を疑ったんだろう…。
「わたくし…。王太子殿下の婚約者として…失格ですわね。」
ぽろりと涙が再びこぼれた。
「え?なんでそうなるの?」
「だって…。殿下…、ウィルを疑ったんですもの…。」
「ああ!もう!」
ぎゅっと力いっぱい抱きしめられて、息が止まる。
「君は全然悪くない。わたしの方が悪かった。君の気持ちを考えなかったのはわたしなんだから。…君はいつも王太子妃として完璧だったから勝手に大丈夫だって思い込んでたんだ。…君はまだ16歳の若い女の子で…王太子の婚約者の前にひとりの女性だってことを、忘れてて。本当にごめんね。」
ウィリアムの胸に顔を埋めていたわたくしは、泣きつかれたのと張りつめた神経がぷつりと切れたのが同時に襲ってきて…、彼が謝る声を聞きながら意識を失った。




