全ては誤解?
「ローズ!…ああ、目が真っ赤になって。どうして、そんなに泣いて…。あ!母上がわたしが泣かせたようなこと言ってたな。ローズ、教えて。君に何か酷いことしたんだろうか?」
「な、なんでも、無いのです。わたくしの…問題…で。」
またも涙腺が決壊してこぼれてくる涙をウィリアムに見られないよう、彼から背を背けてハンカチで目元をおさえる。
と、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「正直に話して?母上から聞くより、君から直接聞きたい。」
「は、離して…くださいませ。ウィル…ウィリアム様にはわたくしより好きな令嬢がいらっしゃいますでしょう?」
「は?」
「お、王太子妃としての義務は…公の場ではちゃんと果たしますから…、だから、普段は殿下の意に染まぬことはされなくてもいいので…、きゃ!」
ウィリアムがいきなりぐるんとわたくしを彼の方に向かせ、両腕を掴んで顔を近づけてきた。その顔は真っ青で、しかも怒っている。
「ウィリアム様?」
「ウィル!」
怒鳴られたことが無かったので、思わずびくっと身体が跳ねる。
「あ、ごめん。怒鳴って悪かった。だけど、君、何って言ったの?」
「え?」
「わたしが君より好きな令嬢が居るって?」
「え…?だって。」
「誰を指して言っているの?」
「…イザベラ様かマリアンヌ…さん…。」
「は!?」
「…だって!最近、お二人のどちらかと一緒に仲良くされているじゃないですか!しかも、マリアンヌさんのことは"マリ"と愛称呼びまで!」
ウィリアムから身をよじって彼から離れようとしたけれど、掴んでいる腕の力が緩むことは無く、それでも必死で離れようとしたら、いきなり抱きしめられた。
顔がウィリアムの胸に押しつけられ、彼の手が後頭部と腰に回っているので、逃げられない。
「…ありえない。」
「?」
「わたしが君以外の女性を好きになるなんて、ありえないっ!」
彼の腕の力が少し緩んでほんの少しだけ、わたくしから身を離してくれた…と思ったら、いきなり口づけを受けていた。
…え?
身をよじりたくても後頭部に置かれた彼の手はしっかりとわたくしが動けない程度の力が籠められ、腰に回された手はわたくしと彼の身体を密着させる。
「…!…ん!…!」
頬や額に口づけられたことは何度もあるけれど、唇を奪われたのは初めてで。
初めてなのに貪るように長く唇を塞がれ、意識が朦朧として足に力が入らなくなり、思わず崩れ落ちそうになった途端、彼の腕が私を抱き留め、彼の口づけからようやく解放された。
「…ローズ。わたしが愛しているのは君だけだ。」
「ウ…ウィリアム様?」
「ウィル。」
「ご、めんなさい。」
「謝らないで。あと、もうこうなったら、ちゃんと"ウィル"って呼んでもらうから。敬称なしで。」
いきなり彼に横抱きに抱き上げられ小さな悲鳴を上げる。
軽々とわたくしを抱き上げたまま、ウィリアムは窓際に置かれた3人掛けのソファに座った。わたくしを彼の膝の上に座らせたまま。
「あ、あの…。下ろしてくださいまし。」
「嫌だ。」
「ウ、ウィル様…。」
「ウィル。」
いきなり、また口づけられた。
「今度から、ウィルって呼ばなかったら、そのたびにキスするよ?」
「…!」
「どうする?…さ、呼んで?…ウィルって呼ばなくてもキスするけど?」
「う…。ウィル…。」
「はい。よくできました。」
ニッコリとウィリアムが笑顔を見せてくれたけれど、今まで見たことが無いほど、黒い笑顔だった。
…え、彼ってこんな性格でした…っけ?
「あの…。ウィル。下ろしてくださいませ。重いと思いますし?」
「い・や・だ。」
「ウィル…。」
「わたしはね、怒っているんだ。君と…そして、自分にね。」
「ウィル?」
「君に怒っているのは、わたしが君以外の女性に心を移すと思ったこと。ねえ?わたしが信じられないの?10年以上、君だけを愛してきたのに。」
「……っ…!」
「…で、自分を怒っているのは、君にそういう想いをさせたこと。君にわたしの想いが届いていなかったってことでしょう?ああ、自分が許せないなあ。」




