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心配をかけて

「ロザ…」

「…ロザ…モ…ン…」

「ロザモンド!」


 はっとしてわたくしは我に返る。

目の前に王妃の心配そうな顔が覗き込んでいる。


「え?きゃ、王妃様!?」

「どうしたの?ロザモンド。ぼーっとして。いつものあなたではないわね?」

「も、申し訳ございません…!」


王太子妃教育として今日は我が国の救貧院の予算の内訳を講義してもらっていたのだけれど、途中からぼんやりしてしまったらしい。


「顔色が最近すぐれないとは思っていたのよね。…今日の講義はここまでにしましょう?」

「…いえ!お忙しい王妃様のお時間を頂いているのですから、どうぞ続けていただいて…。」

「ダメ。…そんなことより、どうしたの?何か悩み事かしら?」

「…いえ、何も…。」

「わたくしの前で隠し事はできなくてよ。ロザモンド。あなたと何年つきあっていると思っていて?」

「…自分の問題ですので…。自分で解決するべきかと。」


王妃が困ったように眉を下げて、わたくしの手をぎゅっと握りしめてきた。


「ねえ?ロザモンド?あなたが頑張り屋さんなことはよくわかっているけれど。たぶん、わたくしの勘だけれど、今の悩みはあなた一人では解決できないのではなくて?…もちろん、わたくしが解決できるとは思えないけれど、人に話すだけでも気楽になることはあってよ?あなたの悩みは、もしかしたら王太子妃の道を通ってきたわたくしの経験が生きることかもしれないし。ね?」

「話したら軽蔑されるかもしれませんし…。」

「あら。それだけは絶対に無くてよ?あなたを何年わたくしが見ていると思っているの?10年以上一緒に過ごせば、もう娘同然。絶対に何を聞いても大丈夫。」


…甘えてもいいのだろうか。

ぎゅっと王妃に手を握られたまま、ぽつんぽつんとわたくしは話始めていた。

話しながら、王妃の前で許されないと思いながらも、涙がぽろぽろあふれてきて、声がどうしても擦れて途切れがちになる。

それでも、最後まで一生懸命話した。


学院で弱い者苛めをしている自分は将来の国母にふさわしくないと噂されていること。

マリアンヌからはいずれ、王太子から婚約破棄されて修道院に行かされると何度も言われていること。

そんな彼女の周りに王太子の友人達が親しく集まっているのはどうしてなのか。

そして何より、王太子が自分から距離を置いてマリアンヌやイザベラと仲良くしているのを見るのがつらい。

…してはならないのについ嫉妬してしまう…。


「王家と我が公爵家の婚約は政略であり、個人の感情で動いてはならないことを承知しておりますが、感情が付いて行かなくて…。少し時間をくださいませ。感情を抑えることも王太子妃としては必要なことを理解しておりますから…。」


涙が出る目をハンカチで押さえつけるようにしてつむいていた頭の上で、盛大なため息が聞こえた。


「ねえ。ロザモンド。あなたは間違っているわ?」

「わかって…おります。」

「いいえ。わかっていないわ。王族と言っても人間なのよ?感情を無くす必要はないわ。」

「…。」

「それと。学院の噂は躾と苛めの違いを理解していない馬鹿な子供達だから無視なさい。いずれ成人したらそれがいかに愚かだったか自分で理解する日が来るでしょう。あなたとて、それがわからないわけではないわよね?」

「はい。」

「結構。ただ、マリアンヌの話は一種の呪詛ね。これは無視できなくてよ。」

「呪詛?」

「同じことを何度も聞かされていると、それが嘘であっても本当だと思い込むのが人間。場合によっては真実になることもある。違って?」

「…そ、それは……。」

「だからね。マリアンヌにはその話自体は禁じるべきね。王家への不敬罪が十分成り立つわ。それについては、わたくしが動きましょう。」

「王妃様のお手を煩わせるわけには…。」

「いいえ。これは王家への冒涜に当たるから当然のこと。…後、イザベラのことだけれど。ウィリアムに直接聞きなさい。ウィリアムを呼ぶから。」

「い、いいえ、呼ばなくても大丈夫です!」

「ダメよ?最近、ウィリアムとゆっくり話ができていないでしょう?ウィリアムはあなたなら大丈夫と勝手に思い込んでいて、大事な婚約者に誤解されているなんてあの子は全然気づいてない。気付かないといけないのよ。」


王妃が金の鈴を鳴らし、侍女を呼ぶ。

「ウィリアムにすぐここに来るように命じて。執務中だと思うけれど、来なかったら婚約者を失うと脅しなさい。」

侍女がびっくりした顔をして、かしこまりました。と出ていく。


「あの…。王妃様?」

「あなたが大好きな子だもの。そう言えば何もかも投げ出して吹っ飛んでくるわ。」


半信半疑だったけれどそれほど待たないうちに、ノックもしないでいきなり部屋の扉がバン!と乱暴に開かれ、

「母上!ローズに何かあったのですか!?…あ、ローズ!?」

とウィリアムが駆けこんできた。


「ウィリアム。あなたが今、例の件で動いているのをわたくしは知っているけれど、ロザモンドは知らないわよね?」

「そ、それは!」

「ちゃんと話さないと、ロザモンドをあなたは失ってよ?」

「え!?」

「ロザモンドを泣かせてまで隠すことなの?」

「な…泣かせ?そんな!」

「とにかく、ちゃんと2人で話しなさいね?この部屋を貸してあげるから。」




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