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ヨール・カイト・カルマ

「カルマ?王都にはたくさん人が居るからね、名前だけじゃ分かんないな」

 王都中央広場、最も人が集まるその場所の一角で、食べ物を売っている露店の店主は首を横に振る。

「ヨール・カイト・カルマという私と同じ位の背丈の少年なのですが」

 改めて店主にそう問い直す少年は、僅かに笑ってはいたが、初対面の店主には無表情とさほど変わらないように見えていた。

「あぁ、ヨールって王都の南西にあるヨール村の事かい?そこのカルマって少年なら知ってるよ。この辺りじゃちょっとした有名人だからな、確か『夜天光』ってギルドに所属してるはずだよ」

 無表情に見えるが、親しげな雰囲気を持つその少年に、店主はあまり警戒せずにそう気楽に答える。

「有名、ですか?」

「あぁ、ここいらの雑用から探し物まで色々やってくれたからな、感じのいい少年だったし、応援してるやつも結構居るみたいだよ」

 その他にもカルマにまつわる話を楽しそうに話す店主。

「そうでしたか、楽しいお話、ありがとうございます」

 店主の話を時折頷きながらも静かに聞いていた少年は、そう言って一礼すると露店から離れていく。

「毎度、またどうぞ」

 店主は少年にそう挨拶すると、少年が払っていった代金を片付け始める。

「『夜天光』ね、確か委員会の1人、オグンさんのギルドでしたね。兄さんがちゃんとギルドに入れたのはいいですが、まさかそんな有名ギルドとは。…まぁ、もう昼時ですし、会いに行く前にせっかく買ったのですからどこか静かな場所で食事でもしたいものですね」

 そう言うとモナルカは中央広場をあとにする。

「はぁ、さすがは王都。ペドゥール大陸で最も人が集まる場所なだけありますね、相変わらずどこを見ても人、人、人。ノヒンでも人通りは出来るだけ避けていただけに人の波に酔いそうですね。どこか人が少ない場所は…」

 精神的な疲労を感じながらも街をさ迷うモナルカ。

「ああ、あそこの公園にしましょう」

 大通りから外れた路地にある、小さいながらも少人数の子どもならそれなりに遊べる広さと、脇に休憩用のベンチが置かれた公園を見つけたモナルカはそこに入っていく。

「ふぅ、さすがに大通りを外れると人が減りますね」

 自分以外には少年が1人居るだけの静かな空間に、安堵の息を吐くと、先ほど買った食べ物を袋から1つ取り出す。

「こう持ち運びが楽な食べ物はいいですね」

 モナルカは手のひらサイズの白い塊で、小麦粉で出来たその食べ物を食べようとして、

「さすがにそれだけ見られていたら無視するワケにはいかないですよね」

 そうぼやきながら目の前の10にも満たないであろう少年に目を向ける。

「………」

 少年は何も言わずじっとモナルカ…の持つ食べ物を見ていた。

「どうぞ、欲しいならあげますよ」

 モナルカは食べ物を袋に戻すと、少年にその袋を差し出す。

 少年はそんなモナルカと差し出された袋を交互に見る。…どうやら本当に貰っていいのか悩んでいるようだった。

「遠慮せずにどうぞ、私はそんなに空腹というワケでもありませんし」

「………ありがとう」

 モナルカが微かな笑顔とともにそう述べると、少年は消え入りそうな声でお礼を言ってモナルカから食べ物の入った袋を受け取ると、そのままどこかへと駆けていった。

「それじゃ、兄さんに会いにいきますかね」

 モナルカは少年が見えなくなると、ベンチから立ち上がり、また移動を開始したのであった。


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