表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/73

報酬は受け取ったじゃない

「ん〜おいしい♪」

 雑貨屋でなにやらファンシーな小さいぬいぐるみを購入したミリは、そのままカルマを連れて甘味処に移動する。

 甘味処で適当に甘味を買い、その場で食べられるように店内に設置されているテーブルに移動して、今に至る。

「それはなによりで」

 カルマも甘味を一口食べる。

「…甘い」

「あれ?甘いもの苦手だったっけ?」

 一口食べて顔をしかめるカルマに、不思議そうに問いかけるミリ。

「いや、別段得意という訳ではないが、苦手でもないよ。普段から普通に甘いものは食べるし。ただ、この甘味は甘すぎるだけ」

 そこで「はぁ」と1つ息を吐き出すと、

「これ、甘すぎでしょう、一口で十分だよ。コーヒーってあったっけ、もちろんブラックで」

 そう言って店内を見回すカルマ。

「ん〜そんなに?…ちょっと一口頂戴」

 ミリは人差し指を頬に当て、少しの間何かを考える仕草をすると、コーヒーがなかったのか紅茶を購入してきたカルマに向けてそう言葉をかけて口を開けるミリ。

「へ?…あ〜、うん、はい」

 ミリのその行動に一瞬ぽかんとしたカルマだったが、その仕草の意味を理解すると恥ずかしさから躊躇するも、相手がミリである事で思い直し、それでもやはり恥ずかしさを感じつつもミリに甘味を食べさせる。

「フムフム、確かに甘いけど、そんなに驚くほどではないね。っていうかおいしいし、甘味なんだから甘さはこんなもんでしょう。これぐらいなら余裕で食べられるよ」

 ミリは食べた感想を述べながら、今度は自分の甘味を一口大に切り分けてフォークで刺すと、それをカルマに向けて差し出す。

「えっと?」

 その行動の意味が分からず差し出された甘味を見たまま硬直するカルマに、

「さっきのお返しだよ」

「………」

 それでも躊躇して動かないカルマに、「ほら早く」とフォークを軽く揺すって急かすミリ。

 食べさせるより食べさせられる方が恥ずかしいな。と心の中で思いつつも、変わらず普段通りのミリの態度に、なんだか負けた気がしたカルマは、意を決して口を開けると、それを食べる。

「甘!」

 食べた瞬間、その甘さにさっきまでの恥ずかしさは何処かへと霧散してしまう。

「そう?」

「凄い甘いよ、砂糖の塊みたいだよ」

「まぁ多少は甘いかな」

「多少じゃなく凄く、ね」

 少しむきになってそう反論してくるカルマにミリは可笑しそうに笑うと、甘味を食べるのを再開する。

「それで、今日はどうしたんだ?」

「なにが?」

 2人が買ったものを一通り食べ終えた頃、突然そう問いかけてくるカルマに、首を傾げるミリ。

「なにか用があったから、朝っぱらから外に連れ出したんじゃないのか?」

「あぁ、うんまぁ、そうなんだけどね」

「………」

「………」

 そう言ったきり黙り込むミリが話始めるのを静かに待つカルマ。

「カルマはさ、確か兄弟がいたよね?」

「え?うん、弟がいるけど」

 いきなりの予想外の問いに一瞬面喰らうカルマ。

「弟くんってどんな人?」

「えっと…面倒くさがり屋だけど、自分がやると決めた事はとことんやるヤツだけど、どうした突然」

 律儀に答えながらも、話の続きを促すカルマ。

「あ〜…、わたしね、実は7人兄弟なんだけどね、今度わたしの様子を見に長男と長女が来るらしくてね」

「へぇー、ミリは兄弟多いんだ。それで?」

「長男にはここでの生活の事を手紙で報告してたんだ、今は兄さんが家継いで父さんと母さんと一緒に暮らしてるから心配させないようにね…」

 そこで一旦言葉を切って深呼吸をすると、言いづらそうに話を続ける。

「それでね、手紙に付き合ってる人がいるって書いちゃって…、いや、あの、何て言うか話の流れというか、見栄というか、…とにかくね、」

 途中から早口になるミリ。

「2人が来てる間だけでいいからわたしと付き合ってるふりをしてくれないかな?お願い!」

「……は?」

 一気にそうまくし立てるミリに、わりと間抜けな声を出すカルマ。

「え、なんで俺?俺そういうの苦手なんですけど」

「お願い!相棒を助けると思って」

 拝むように手を合わせて頼むミリ。

 ミリとカルマは少し前から新人同士という事でコンビを組まされていた。

「え〜、ん〜」

「歳が近いって書いちゃったのよ」

「歳が近いなら他にもいる――」

「同じギルドの人って書いたの」

「それも他に――」

「カルマ以外とはあんまり交流ないし」

「でも――」

「報酬は受け取ったじゃない」

「は?」

 それはカルマにとって寝耳に水の話だった。

「ほら、甘味食べたじゃない」

 ミリのその言葉でさっきの話の意味を理解したカルマ。

「だから珍しくおごるなんて言い出したのか」

「お願い聞いてくれたら別にお礼は用意するから」

 ミリは手を合わせたままちらりとカルマを見る。

「……はぁ〜、わかったよ。それで、いつ来るの?」

 そんなミリの様子にため息を吐くと、何を言っても聞き入れてもらえないと諦めて渋々承諾するカルマ。

「ありがとう!さっすがカルマ!話がわっかる〜!兄さんと姉さんは3日後に来る予定らしいけど、初日は何か用事があるらしいから、会うのは4日後だね」

 そう話すミリは、カルマが承諾してくれた事に満面の笑みを浮かべていた。

「はぁ〜」

 そんなミリの姿がこれから起こるであろう災難の前触れのように見えて、静かにため息を吐くカルマだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ