追う者と追われる者
世界が白一色に染まったのかと錯覚しそうなほどの雪原に男女三人組が足跡を残していく。
「さすがに寒いねぇ。しかし、ただでさえ寒いうえに雪が積もってて面倒くさいのに吹雪とは、幸先がいいことでぇ」
2mは越えているだろう大男がおどけた様にそう言うと、
「レギンさん、無駄口叩く暇があるなら風避けぐらいにはなってくれませんかね。現在貴方のその無駄にでかい身体が役立つ唯一の仕事なんですが」
無表情の女性がつまらなそうにそう答えた。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。喧嘩はその辺にして、今後の予定の再確認をしますよ」
先頭を歩く年老いた男が首だけで振り返ると、にこやかにそう告げる。
「喧嘩などしていませんが」
無表情の女性が特に感情もなく機械的に先ほどの年老いた男の発言を訂正する。
「ほっほっ、相変わらずシグルくんは厳しいねぇ」
シグルと呼ばれた女性の発言に対し、年老いた男は愉快そうに笑ってそう答えた。
「私はただ事実をありのまま述べただけです」
そう答える表情や声からもおよそ感情らしきものが感じられないシグルにレギンは、
「事実だけが全てではないんだよぉ」
と、茶化すように告げる。
「確かこれから私たちはノヒンに向かう予定ですよね、ファン様」
シグルはレギンの事は無視して先頭を歩く年老いた男、ファンに話しかける。
「そうですよ、今ノヒンに向かっている途中です。ノヒンに着いたら落ち着ける場所を探さないといけませんね、もしかしたら長居する事になるかも知れませんから」
ファンは楽しそうに予定を告げる。
「ノヒンでは予定通りノヒンに居る人々で実験していくつもりですよ。もうすぐ本来の力が使えそうですし、待ち遠しいですね」
そう言うと夢見るように目的地の方角を見つめるファン。
「あまり派手にやらないでくださいね、後片付けが大変なんですから」
何かを思い出したのか、無機質な声に僅かだがうんざりした様な声音が混じる。
「善処するよ」
前を見たままそう告げるファンの背中を諦念の視線で見つめるシグル。
「相変わらずのステキ無視っぷりにシグルちゃんに惚れそうだよぉ」
そんなシグルに空気を読まず絡むレギン。
「ありがとうございます。その好意はドブにでも棄てておいてください」
シグルはそう言うレギンを一瞥もせずにそう切り捨てる。
レギンはそんなシグルを気にすることなく楽しそうに笑って見ているのだった。
◆
「この辺りにはもう居ないみたいですね」
レーシ地方中央よりやや北側にある街ポロロ。人口が五百人にとどくかどうかぐらいしかない小さなその街のとある民家から出てきたモナルカはため息を吐く。
白く染まる自分の息を見ながらモナルカは次の目的地を考える。
(さっきの狂化の患者の元凶の魔力は最近のものでした。あの強さから考えて狂化を引き起こしている犯人は最近までこの辺りに居たという事ですが…もうこの辺りからは魔力を感じられませんね…)
精神を集中して辺りを索敵するも、結果はあまり芳しくはなかった。
(ですが、収穫がなかったわけではないのがせめてもの救いですかね)
索敵の結果この辺りから犯人は探し当てられなかったが、魔力の残滓は見つける事が出来たのだった。
(ここから南東の方角ですか。時間が掛かるかも知れないので追う前にそろそろ一度王都に寄るべきか否か…。まぁとにかく、少しは近づいたと考えていいんですかね)
見失いそうな程の細い糸だけど、犯人に繋がる手がかりを見つけた事で長い鬼ごっこに終演の兆しが見えた気がしたモナルカだった。




