38頁:MPKには気をつけましょう
次の土曜あたり一気に二章の最後まで投稿する予定です。
MPK……それは『モンスタープレイヤーキル』の略だ。
モンスターに他のプレイヤーを襲わせて自分は手を汚さず人を殺す。それは、ある意味ただのプレイヤーキラーよりもたちが悪い。
「たまに集めたモンスターをそのままにして消える人とかいますが、あれはすごく迷惑です。指揮官としての責任放棄です。後片付けくらいしていって欲しいですね」
「あれ? 作戦が卑怯だとかは言わないのか?」
8月の初め頃、行幸正記とその『妹のような存在』である小学一年生の少女……友は将棋をさしながらそんな世間話をした。なんでも、最近始めたオンラインゲームでMPKを仕掛けてくるプレイヤーがいたそうなのだが、友はその杜撰な作戦に腹が立ったらしい。
小学一年生ってこんなに知能高かったっけ?と思わずにはいられないような内容の話だったが、正記は将棋を指しながら真面目に聞く。
「卑怯だなんて言いませんよ、むしろ、その発想自体は悪くないですよ? ただ、それで自滅されて、集まったモンスターの後片付けする身にもなってください!! 敗戦処理くらいしていくのが常識だと思いませんか!?」
「まあまあ、落ち着いて」
「私ならもっとうまくやれます!!」
「そうだろうね、そりゃ友以上にうまくやれる奴なんて、なかなかいないだろうね。ただ、その『弱い者が強い者を小細工で倒す』みたいなことについての感想を聞きたいだけだよ」
「そんなもの、『当然だ』としか言えませんよ。弱い者が強い者を倒すのが作戦じゃないですか。『変身ヒーロー五人を倒すために一人の怪人が小細工を凝らす』、みんな人質とか卑怯だって言いますけど、5対1は卑怯じゃないのかって話です。ただ『強い』だけで勝ち負けを決めるのはただの決闘。相手が強いって知ってたらバカ正直にそんなことしませんよ」
ジャックと一緒にいるとき、ふとこの会話を思い出した。
ただ『強い』ジャックは、きっと『弱い』友やスカイとの相性は最悪だ。
そもそも、ジャックは『強い』と『勝つ』をイコールで考えてしまっている。
『強さ』の才能に恵まれ、自分より『強い』相手と戦った経験が少ないジャックはまだ知らないのだ。
『勝っている』からといって『勝つ』とは限らないということを。
《現在 DBO》
「破!!」
宝石でできた貝が割れる。
手に入れたアイテムの確認もそこそこに、すぐ近くの別の貝を見つけてまた攻撃する。
ジャックはそれを一時間近く続けている。
「これで、どうだ!!」
ここは『車輪の町』の地下二階層の隠し扉の奥の一本道の先にある隠し部屋。レアメタルの巻貝や宝石の二枚貝のモンスターが大量にとれる『稼ぎどころ』。
ジャックはライトへのプレゼントを買うための資金をここで稼いでいるのだ。
もういくつ目かわからない貝を割り、ようやくジャックは手を止める。
「ふう……相変わらず硬くて疲れたけど……これだけ宝石があれば大丈夫だよね」
ここの二枚貝のドロップする貝殻や真珠は小さいながらも宝石であり、売ればそこそこ良い値段になる。部屋が狭いので一人か二人での狩りが限度だが、クエスト報酬の地図でしかわからない場所なので今はまだ人もほとんど来ず、効率良く金を稼ぐには打ってつけのポイントだ。(だがそれもライトが攻略本に載せれば人が殺到するはずなので今だけの話だ。ジャックとしてはもったいないと思っている)
「あ……ナイフの刃が欠けてる。帰ったら修理しないと」
しかし、ここは本当に効率良く稼げる穴場だ。もう少し続けても、走れば夜までには『時計の街』に帰れるからもう少しだけ狩るか……
つい、VRMMOのベテランとしての欲が頭の中に浮上する。
そして、タイミングを逃した。
小部屋の唯一の入り口である石の扉の隙間から、『何か』が投げ込まれた事に気が付くのに遅れた。
ここには自分しかいないと油断していたのだ。そうでなければこんな致命的な隙は見せなかった。
床に『何か』が落下した音で、ジャックはそれを認識した。
落ちたのは『鉄鍋の町』で売っている薬物系のアイテムの入った瓶。本来モンスターの動きを鈍らせるのに使うが、屋外では効果が薄くマイナーなアイテム。
パッケージは……揮発性の『睡魔』を付加する使い捨てアイテム《睡眠ガス》。
「な!!」
瓶が割れる。反射的に口を塞ぐが、ガス系のアイテムは息を止める意識をしていないと吸ってしまう。屋外のフィールドなら離れれば良いが、この密室では逃げ場がない。
「く、外!!」
ジャックは慌てて小部屋を出る。反射的にガスから逃げ出す。
だが、外に出たジャックを待っていた物は……
ガシャン
「あ…ぅぐ…何これ……」
左足に激痛を感じて走り出そうとした足を止める。足に目を向けると、そこには自分の足をがっちりと噛んだ金属製の罠があった。
さらに、動きの止まったジャックの足元に複数の瓶が投げ込まれる。睡魔、麻痺、毒、幻覚、どれも状態異常を引き起こす薬品だ。
「!!」
トラバサミを外そうとしていた分反応が遅れた。睡魔のガスを僅かに吸ってしまい『睡魔 LV1』のアイコンが表示され、体が重くなる。
それでもなんとか息を止めながらトラバサミを外すが、その姿をバカにするような声が聞こえた。
「いい様だな!! マスクドォジャァック!!」
「悪いが、賞金は俺達が貰う」
その声の方を見る。
そこには、スコップを背負った剣士と、ここらでは珍しい杖を持った魔導師型の男。その男の声には覚えがある。
「おまえら……一週間前の!!」
「そうだよー! てめえからアイテムも金も全部奪った奴らだよーだ! 偶然だなぁあ!!」
「ふざけるな!! ボクは前とは違う!! 今度は今すぐバラバラにしてやる!!」
ジャックが二人の無法者に向かって走り出そうとする。一本道で距離は30mといった所だろうか。そのくらいの距離、足の痛みや睡魔があったところで詰めるのは簡単だ。
あちらの二人も装備を見る限りレベルが上がったようだが、それでもジャックなら2対1くらいハンデにもならない。そのはずだった。
だが、魔導師型の男は余裕を崩さない。
「おーこわいこわい、じゃあ俺らは援軍呼ばなきゃなぁぁあ!!」
そう言って、男は大量に石ころのような物をぶち撒いた。
それは、一斉にに光を放ち、それが地面へと伝播する。
「それは、まさか!!」
急激にポップし、狭い道を埋め尽くすモンスター。岩の貝殻と触手の先に付いた金属の爪を武器にするアンモナイト型のモンスター〖エンシェントナイト〗。レベルは20から25まで。
一体一体なら手間がかかる程度のモンスターだが、それがこの狭い空間で何十といれば、それは十分脅威だ。しかも、何故かモンスターの群れの反対側の二人は襲われない。
何十という硬いモンスターの群れ、そして、その向こうから妨害してくるであろう犯罪者二人。状況は絶体絶命だ。
「いったい……何が起こってるの?」
「《ポップストーン》と《パンの耳》? それがジャックちゃんを襲ったモンスターのイベントの正体?」
スカイは『大空商社』でライトの報告を聞き声を上げた。
ライトは周囲の町で集めた情報の報告書の中のいくつかに印を書き込みながら頷く。
「ポップストーンがモンスターを大量に出現させる効果を持つのは知ってるだろ?」
「ええ、でもそれはフィールドで使った時の話だし、みんな知ってても使わないでしょ? 危ないし」
「まあ、モンスターを大量に狩りたいだけなら原石の周りで狩りをした方が速いからな……だが、見方を変えればその『危ない』を強制的に他人に押し付けることもできる。狙った相手の傍で使えば、そのプレイヤーを襲わせる道具になるんだ」
「それって本末転倒じゃない? モンスターを大量発生させても自分も襲われたら元も子もないでしょ?」
「スカイはマジックペンでアリを誘導する実験を見たことないか? あれと一緒だよ。発想の元は『ヘンゼルとグレーテル』かな」
「ヘンゼルとグレーテル……なるほど、パンくず……《パンの耳》ね。撒き餌を使って発生させたモンスターを誘導してるわけね」
「あと自分達が襲われないように『威風堂々』……はないにしても、代わりのスキルかアイテムを使って安全を確保してる。多分、《異臭ハーブ》辺りのお香だろう。あそこらへんは効果は薄くても長持ちするし、《パンの耳》を組み合わせればまず安心だ」
「お香はともかく、撒き餌は《パンの耳》とは限らないんじゃない? 食べ物には他にも安いのなんていくつもあるし」
「これを見てくれ。オレが『鉄鍋の町』のクエストで手に入れたパンの秘伝レシピだ。テイム率を上げる効果がある。他の食べ物よりモンスターが食べてくれるのはファンファンで確認済み」
「まさか……偶然このレシピを手に入れたわけじゃないわよね?」
「チョキちゃんが言ってたことが気にかかってな…『パンの耳が好物だけど、朝早くじゃないとなくなっちゃう』って、それは他にも大量に買ってるやつが居るってことだろ? だからバイトとして張り込んでみたんだ。もう容疑者はほぼ絞り込めてるから、あとはその仲間を探して芋蔓式に捕まえるだけでいい。写真これ」
ライトはスカートの隙間から隠し撮りしたらしい写真をスカイの前に出す。
これが、ジャックに話さなかった最後の目的。報告書でそのクエストを受けたことを知っていたスカイは思わず嘆息する。
「はあ……一週間ただクエストばっかりしてたわけじゃないのね。しかも、一緒に町を巡ってたジャックに秘密で……というか、ジャックちゃんには話して良かったんじゃない。ライトなら目さえ見れば裏切ってるかどうか分かるんでしょ?」
「そういうことしたくないから帽子かぶってるんだけどな……まあいいや。ジャックに話していないのは別にジャックがスパイだとかそういう可能性を考慮したわけじゃない。ただ……ジャックにはまだしばらく、自分が『偶然』モンスターの群れに襲われた後、犯罪者に襲われたと思ってて欲しいんだ」
「どうして? 被害者には知る権利もあると思うけど」
「ああ見えて、ジャックはすごく繊細で危うい。『不運』には慣れてるが、『悪意』を向けられるのには慣れてないんだ。あの戦闘能力で忘れそうになるが、ジャックは本当は寂しがり屋で、友達想いなだけの一人の女の子なんだよ」
ライトはジャックを高く評価しているが、買いかぶりはしない。だからこそ、心配なのだ。
未だに未完成なジャックが『どんな風に』完成するのか、心配でしょうがない。
「くっ!!」
「オラオラ!! どんどんいくぞぉお!!」
ジャックは苦戦していた。
まず第一に、一本道の実質行き止まりの地形で道を大量のモンスターに塞がれているのは辛い。しかも、相手はレベル差があっても一撃で倒すのが難しく、しかも触手で手数を稼いでくる〖エンシェントナイト〗だ。無理やり突破しようとしても捕まって終わる。
さらに、洞窟の床の所々に罠が仕掛けられている。マキビシや足を引っ掛けるロープなどの単純で回避しやすい物でも、この数の敵を相手にしていると致命的な隙を作る要因になりかねない。
そして、極めつけが魔導師型の犯罪者の妨害だ。
足止めで余裕があるからなのか、長い詠唱でやたら強力な魔法……それも、闇魔法系の反支援をとばしてくる。通常なら楽に避けられるが、戦いながら避けるのは難しい。
本来、ここまでの厳重な罠を張られたら生き残れている方がおかしいのだ。普通ならモンスターの群れに追いつめられただけで終わりだ。
「結構粘るな、さすが伝説のPKだ」
盾剣士が呟いたのを『聴音スキル』を持つジャックは聞き逃さなかった。
「おまえら、ボクに恨みでもあるのか!! GWOでボクに殺されたことがあるから、このゲームで、よりにもよってこのデスゲームで復讐しに来たのか!!」
だが、盾剣士は落ち着いた声音で応えた。
「オレ達には個人的な恨みはない。だが、襲われる心当たりがあるのなら、その強さと合わせて考えても、やはり『マスクドジャック』本人のようだな……オマエには懸賞金がかかっている!! 大人しく降参しろ!!」
「け、懸賞金!?」
驚くジャックを見て、魔導師型の男が詠唱を止め、腹を抱えて笑う。
「傑作だよなぁあ!! 伝説のPKが実はこんな女で、しかもこいつを狩るだけで莫大な金が手にはいるんだからなぁあ!!」
「な……」
盾剣士が諭すように言う。
「俺達のギルドは既におまえの素顔の写真を入手している。明日にはギルドメンバー以外にも公表する予定だ……今のうちに諦めろ」
「こ、公表……なんで……」
「うちの親分がよ、『こんな危ないやつを野放しにするな』って言ってんだ。俺も驚いたぜ、あのバンダナ見せたら、その持ち主が名の知れたPKだってんだから。しっかし、顔知ってるからって写真撮ってきたら、召集かけて総動員で探すとか言い出すんだ。困ったもんだろ? だから、その前に俺らだけで賞金貰っちまおうって話になったんだ」
「逃げ場などない。さっさと諦めてくれ。でないとモンスターに殺されてしまうぞ?」
「別にぼろ雑巾みたいになってからダルマしにて持って行ってもいいけどなぁあ!! なんなら、死体でも問題ねえかぁあ? 知ってるか? プレイヤーって死んでも何時間か死体が残るんだぜ? その間アイテムも金も奪い放題だけどなぁあ!!」
「っ!! まさか、殺しを……」
「バカ言うなよ、てめえみたいな人間の屑じゃあるまいし、そんなことしねえよ!! モンスターに囲まれてるのに『金を払えば助けてやる』って言っても聞かない奴が悪い」
「そんなの殺しと同じじゃ……」
「そいつらは『モンスター』に殺されたんだ、悪いのは俺じゃなく、こんなゲームを作った奴らなんだよぉお!!」
狂っている。
盾剣士は比較的冷静らしいが、魔導師型の方は交渉の余地もない。
盾剣士も口調は柔らかいが、『手を汚したくはない』、そんな風にしか思っていない。
ジャックの集中力ももう限界に近い。本気でピンチだ。武器の耐久力も硬い相手ばかりで危なくなってきているし、切れ味も落ちてきている。
ジャックの焦燥感が伝わったのか、男たちは短くタイミングを合わせる合図をした。
「そろそろだ」
「食らいやがれ!!」
盾剣士から投擲されるボール状のアイテム。
杖から放たれる光魔法系の攻撃魔法……雷撃の魔法。
ジャックは雷撃を避けようと身構えるが、予想外のことが起こる。
投擲されたボールが開き、金属製の紐で編まれた網になった。そして、その網に雷撃が『通電』する。
「しまった!!」
「さて、思ったより時間がかかったな……ジャックも痺れをきらしてるかも」
「お互い、この一週間いろいろやってたからね。その報告に時間がかかるのは当然といえば当然だけど」
「だが、この『組合』っていうのはなんだ? オレがいない間に大事業が始まってて驚いたんだが……」
「ライトの出したアイデアを実現するついでに造ったのよ。ちなみに、ライトのアイデアは『指導室』って名前になってるから」
「『ついで』の規模じゃないだろこれ。明らかにオレの方がついでだろ?」
「まあ確かに、以前から生産職の協力関係を確立してそのトップに立とうって思惑があったことは否定しないわ。絶対に」
「そこまで自分の欲望に素直になれるスカイのことは心から尊敬するよ」
「それはどうもありがとう。でも、これからどうするつもり? 前線のボス戦を手伝うならこっちの『指導室』は前線から戻ってから?」
「いや、そっちも放置できないし、次の『先行発売』の攻略本発行は確か明後日だろ? そのときに来た奴らを巻き込んで解決してしまおう。それまでにジャックにはタイミングを見計らって話しておくよ」
「集めた情報によると、犯罪者達はフィールドの隠しダンジョンを幾つか独占してる。そこを訓練場兼稼ぎ場にして経験値と軍資金を集めてるらしいわ。推定平均レベルは35前後……それが数十人。勝てる?」
「前線の平均が40前後。しかも、今回はナビキも来ることになってるし、ジャックもいる。それに、オレ自身も策がないわけじゃない。まあ、期待して安全地帯から見ていてくれ」
ライトは自信があるようだった。
スカイも、必要以上に脅かすようなことはせず、ライトが屑鉄山から拾ってきたのを修理した時計を見る。
「そうね……って、そろそろ夜になるけど、ジャックとの約束はいいの? ここで拗ねられては協力してもらえないとかは嫌よ~。戦力的に
大赤字だから~」
「おっと、それはまずいな。じゃあそろそろメールして……」
そこで、ライトとスカイ両方に同時にメールが入った。完璧に同じタイミング。偶然でなければ……
二人は顔を見合わせ、メールを開く。
「え、何これ……」
「これはヤバいな……ジャック!!」
ライトはジャックを探すため店を飛び出した。スカイは机の上の報告書を急いでしまい、出来たばかりの連絡網に従ってメールを送り始める。
そのタイトルは『緊急事態発生』。
会議で取り決めた中で最上級の優先連絡用タイトルだった。
『イージーシリーズ』
《イージー○○》という名前の武器のシリーズ。
初心者でも簡単に使える使いやすい武器。
武器を使用するためのスキルを修得する機能もある。(一回のみ)
(イザナ)「スカイさんが一大財産を築いた商品ですよね」
(スカイ)「このゲーム初期武器が早い者勝ちだったからね。飛ぶように売れたよ」
(イザナ)「買えなかったのはライトさんだけだったんですよね。武器屋まで案内しましたが」
(スカイ)「ほんと、どっか抜けてんのよね~」
(イザナ)「ライトさんも、フィールドで熟睡してた人に言われたくないでしょうね」
(スカイ)「結果として未だに借金まみれのライトよりはマシじゃない?」
(イザナ)「それはスカイさんのせいのような……それ以前に武器を売りつくしたのも……」
(スカイ)「ではまた次回に!」




