18頁:クエストの準備は万端にしましょう
今回少し長いです。
過去話になるといつも長いなぁ……
随時と前。
『我が永遠の親友へ
そういえば、部活の後輩の話よくするけど、何部なの?』
『我が最大の親友へ
演劇部だよ。今度の文化祭が今年度最大のイベント。』
『我が永遠の親友へ
いいな~。私も演劇の中で今と違う人生をやってみたいよ』
それは、叶わぬ夢だった。
私はそんな風に外出なんて到底出来ない状況にいる。メール相手も自分と似た境遇らしい。もっとも、物理的な拘束はないようだが、社会的拘束なのか出来ないことがあるらしい。
『我が最大の親友へ
悪いけど、私にはあなたをそこから出すことは出来ない』
『我が永遠の親友へ
うん。わかってる。』
『我が最大の親友へ
でも、待っててほしい。今は行けないけど、いつか必ず何とかするから』
《現在 DBO》
祭り準備期間一日目の夕方。
『サーカス』のクエストをやるに当たり、そのために集められたパーティーメンバーがミーティングのためにスカイのプレイヤーショップの前に集まった。
そこで、まず中学一年生の二人組が自己紹介する事になった。
セミロングの女の子の方が先に口を開く。
「わたしはマイマイです。こっちはライライ、双子の弟です。よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします!!」
礼儀正しい。
双子と言うだけあって髪型が違わなければ間違えそうなくらいだ。
スカイは二人を指して付け加える。
「この子たちも使えるわよ~。ずっとレストランでバイトクエスト受けてたから『料理スキル』が結構高いのよ~。ほんと、良い買い物したわ」
「社長、それじゃまるで人身売買みたいだ。『良い人材を見つけた』くらいにしておけ」
二人はマリーの紹介で他の子ども達を養うために出稼ぎに来たのだ。人身売買とか言われたら否定しにくい。
「はっ、料理なんて出来なくても食べもんなんて買えばいいだろ」
草辰が二人をバカにしたように言い放つ。草辰は生産職が嫌いらしいのだ。ライトに負けたので今はクエストを手伝う気はあるが、まだ考え方を改めたわけではない。
だが、草辰がそういうこともスカイにはお見通しだった。
「今からミーティングを始めます。勿論全員強制参加でね。で、そのついでに一緒に晩御飯と思ってさっそくマイマイとライライに作ってもらったんだけど……仲良くしないならあなただけ抜きよ~」
スカイは大きな布を出して地面に敷き、その上に《弁当箱》を実体化して蓋を開いた。さながらピクニックの弁当だが、蓋が開くとライト、ナビキ、そして草辰は思わず感想を洩らす。
「おお、うまそうだな。ナビキの手料理以上だ」
「美味しそうです」
「これは……」
「いやライト? いつそんなイベントやってたの? ナビキの手料理なんていつ食べたの?」
材料はライトがさんざん狩りで手に入れた肉やキノコ。調理法も切って焼いただけというのがほとんど。しかし、ライトが『園芸スキル』で集めたハーブが食欲を促進する香りを放ち、見た目も良くしている。
これを一人だけ食べれないのは拷問だ。
「ちっ……謝りゃいんだろ、悪かったよ」
「わかればよろしい」
さらに五つの弁当が実体化して各人に支給される。そして、全員が座って食べ始める前にスカイは身を乗り出して主題を宣言した。
「注目!! 私達は明後日の『サーカス』のアシスタントのクエストをやります。しかし、本命はそれに付随した特典、プログラムの間の場をつなぐ『プレイヤーアピールタイム』です。そこで出し物をしてこの店を宣伝します。そして、その『出し物』の内容は……『演劇』よ!!」
翌日、本格的にアシスタントとしての仕事が始まった。
その主な内容は『荷物運び』『テントの組み立て』『出演者の身の回りの雑用』『ビラ配り』などで、常に全員がいる必要はないので交代で作業を進めながら、演劇の準備も同時進行する。
「草辰、力強いだろ!! こっち手伝ってくれ!!」
「うっせい!! 今テントやってるのが見えねえのか!!」
「まだ出来てないのか不器用だな!! しょうがない、オレが代わるからこっちを運べ!!」
「先輩!! ビラ配りを頼まれました!!」
「こっちは手が回らない……社長に相談しろ!! 社長!!!! どこにいる!?」
「何よ!? こっちはそろそろあれを大量生産し始めないといけないのよ!!」
「ビラが!!」
「マイマイかライライに連絡取ってマリーに頼んでもらいなさい!! 二人の給料は上げるし、子ども達を使えばすぐはけるわ!!」
本来は六人いればここまでハードなクエストではないのだが、開店の準備でスカイ、ナビキ、マイマイ、ライライが頻繁に抜け出すので仕事の出される速さに仕事をする速さがついて行かない。
いつしか、草辰は生産職をバカにするような言動をやめた。むしろ、仕事を頼みにくる司会者役のNPCが近づいてくるとライトを盾にして逃げるようになった。
そんな仕事も昼には一段落し、全員に昼休みが言い渡された。テント設営も終わったので午後は仕事が減るし、当日は開演直前まで自由だと言われた。
だが、それを立って聞いていられたのはライト一人であった。
昼休み。
「……あとは、行商人から買い占めた容器に中身を詰めて……ライトにあっちを縫ってもらって……セリフも覚えなきゃ」
スカイはフラフラしながらテントの外の手頃な角材の上に座った。限界だ。ぶっちゃけ、これでまだ立ってるライトが信じられない。
これからも仕事があるが、もう一旦休憩しないと動けないので一息つく。
「あ、社長。大丈夫ですか?」
少女の声。
スカイは顔を上げて声の主を確認した。
「あ、ナビキ。そういえばさっきからいなかったけど、ビラ配りだっけ?」
「いえ、先輩の指示で教会で『歌唱スキル』を修得してきたんです」
「ああ、そうだったわね。ちなみにアナタがいない間に昼休みになったから、休んでていいわよ」
「他の人たちは?」
「ライト以外はみんな倒れてるわよ~。ライトは出演者のクエストをコンプリートするって言ってたけど……ほんと、あの精神力はもう人間とは思えないわ。結局昨日の夜も屑鉄山で大鍋とか拾ってたし」
スカイの見立てではライトは4日間ほぼ不眠不休だ。スタートダッシュとか言うレベルではない。
それを聞いて、ナビキは何故か安心したように苦笑する。
「流石は『ゾンビ』ってところですね。同族と言っても物が違います」
その言葉に、スカイは一瞬疑問を感じる。
『ゾンビ』というのは前ライトが『どうして動き続けるのか』という意味の問に対して返したたとえで出て来た。
本人の意志に関わらずその役目を果たすための存在……みたいなたとえだったとおもう。
ナビキもその類のたとえ話を聞いているなら、ライトを『ゾンビ』と呼んでもおかしくない。
だが、その後が気になる。
『同族』とはどういう意味だろうか?
「ナビキ? ナビキって……ライトと親戚なの? 同族って……」
そのスカイなりに合理的な解釈を加えた質問に、ナビキは苦笑する。そして、周りにスカイと自分以外いないのを確認して、スカイに向き合う。
「社長……いえ、スカイさん。あなたにとって、私は何ですか?」
唐突な質問に、スカイは言葉に詰まる。
最初は『部下』と答えようかとも思ったのだが、それは適切ではない気がした。
そもそも、スカイはライトを部下だと思っている。もちろん、ただの『部下』ではなく最も信頼のおける腹心であると同時に、いつも自分の予測の斜め上を行く油断ならない好敵手に近い存在。
便宜上自分が少々上だが、実質的には対等な『パートナー』のようなものだ。
しかし、ナビキは実のところスカイと上下関係がない。ナビキはライトの後輩で、ただそれだけなのだ。マイマイとライライのように給料を約束した契約があるわけでもなく、草辰のように『部下』のライトが屈服させた『部下の部下』でもない。
実のところ、最初に雇用した時の契約も報酬を渡して切れてしまっている。
『一日でいいから先輩とデートさせてください』
まあ、それで契約成立とした自分もどうかと思うが……
それからは、ナビキはライトと共に行動していて成り行きでここまで手伝わせている。いや、ナビキの知り合いは本来ライトしかおらず、離れるわけにはいかないのを考えると、スカイは人質をとっているに等しい。
だが、ナビキの質問はそれを非難するようなニュアンスではなかった。ライトを抜きにした人間関係を問われている。
つまり、最初の仕事も報酬を抜きにして考える。
一緒に作って、話して、笑って……それはもう……
「友達……少なくとも敵ではないし、直接の部下なんて上下関係もない。それに、あなたとの話は損得抜きに楽しめる」
ナビキが欲しかった答えのようで、彼女は嬉しそうな目をする。
そして、覚悟を決めた表情で、言葉を発する。
「スカイさん。私はこれから私の秘密を教えます。それは、スカイさんを友達として信頼するからです。だから、他人には話さないでくださいね」
ナビキの告白は思いがけない言葉から始まった。
「私は一度死んでます。事故にあって、両親と一緒に事故死しました……したそうです」
「……死んだ? えっと……心停止して蘇生したってこと?」
スカイは合理的に解釈する。死んでも生きているのなら、それは蘇ったというのが一番矛盾がない。
「はい、その通りです。両親は不可能でしたが、私は間一髪蘇生が間に合ったそうです。でも、脳に重大な損傷が残って、完全に『治す』ことは事故当時の技術では不可能でした」
事故当時ではということは、今なら出来るのかとスカイは考える。だが、話の展開はそうではなかった。
「私の脳は海馬や小脳を中心に欠損がひどく、そのままでは生命維持も難しく、生き返っただけで奇跡だったそうです。そして、一番幸運だったのがそれが3年前だったこと」
生命維持も難しいはずの欠損からの回復。
そして3年前。
この二つが示す物は……
「『MBIチップ』? 3年くらい前から一気に発達して普及し始めたってよく聞くけど……まさか」
「私の脳の機能の大部分は海馬の司っていた記憶をはじめ、ほとんどが特殊なチップに支えられています。だから私は、半分人間じゃない。死体に機械を埋め込んだも同然の『ゾンビ』なんです」
スカイは絶句した。
信じられなかったからではない。理論上は出来るとは思っていた現代の死霊魔術、それを本当にやった例があるとは思わなかったのだ。
「……でも、機能が回復したことには変わりないでしょ? だったら義手とかと同じようなものじゃない?」
とりあえず、ナビキを差別する気はないことを示したかった。違うとは思っていたが、受け入れやすそうなたとえをした。
しかし、ナビキは首を横に振る。
「確かに、見た目はちゃんとした人間ですよ? でも、機能は人間には及びませんよ。……私の記憶力は前世代のゲーム機以下です。リセットボタンを押さずに電源を切ったらデータが消えるレベルです」
その比喩表現はとても分かりやすく、彼女の『欠陥』を表現していた。
「私は、強いストレスを受けると記憶が消えるんです。最低でもその日の出来事全て、場合によっては三日分は消えます。その間に友達ができていようと、喧嘩をしていようと、恋をしていようと、全て忘れてしまうんです」
どんな出来事も、どんな感動も、どんな成功も、どんな失敗も、どんな幸運も、どんな偶然も、全て忘れて、全て無意味になる。
「唯一救いなのは知識は消えないあたりですね。友達はできなくても、勉強にはついていけます。それに、メモや日記を見れば消える直前以外の記憶は補完できますから」
そのためのメモ。あらゆる出来事を記録して自分の記憶の代わりにする。
メモ帳は彼女の記憶そのもの。
だが、それでは……
「このゲームが始まったときはどうだったの?」
日記やメモ帳は現実世界に置いて来ている。
そして、デスゲーム開始に伴うストレスは日常で発生しうる許容量を遥かに超える。
ナビキにとって最悪の状況だ。
「たぶんですけど、危うく全ての記憶が消えそうでしたね。実際日付を考えると、二か月分の記憶が一気に消えました。そのあとも記憶が消えないように『これは夢だ』って自分に言い聞かせてました……先輩がいなければ、きっと全部消えてました」
その言葉に、スカイは慎重に聞く。
「ライトは……知ってるの?」
「知ってますよ。私以上に」
ナビキは安らかな表情で笑う。
「『忘れてたらこっそり教えるから、ここでは安心して友達を作れ』だそうです。秘密がばれるのを怖がってたら『最悪全ての人間に見捨てられても、オレは見捨てないから安心しろ』……全く、さらっとすごい口説き文句吐いてましたよ」
ナビキはきっと、現実世界では友達なんていなかったのだろう。友達になっても忘れてしまう。そうでなくても秘密がばれれば離れてしまう。喧嘩などしようものなら、誰が敵で誰が味方かわからない。
「……どうして、私にそんな大事な秘密を?」
ナビキの答えは単純だった。
「この秘密を知った上で、もう一度友達になってください。今まで、人間のふりしててごめんなさい」
その答えを、スカイは迷わなかった。
『その程度』のことで、『手放す』なんてありえない。
半分機械だろうと嫌いになる理由にはならない。機械なんて、スカイにとっては手足も同然のものだ。むしろ、生身の人間よりつきあいは長い。
「ええ、改めてよろしくね。あと、人間かどうかとかは気にしなくていいわ。私、これでもあっちでは『悪魔』って二つ名があったくらいだから」
ナビキの表情が一気に明るくなる。そして、スカイの手を握る。
「じゃあ、このクエストが無事終わったら一緒に『女子トーク』とか、『パジャマパーティー』とか、『恋バナ』とか、あと……」
「はいはい、いっぱい『友達』しましょ」
どうやらナビキは同性の友達に飢えていたようだった。なんか、未来への希望が押さえきれてない。
「さあ!! そうと決まったら、絶対に成功させますよ!!」
ナビキは元気溌剌になってテントの方に走って行った。
その後ろ姿を見送ったスカイは、一つ聞き忘れたことを思い出した。
「あ、ライトのこと聞いてない」
ナビキは『同族』、そして『ゾンビ』と言っていた。それはつまり……
「ライトはゾンビ……ってことだろ? 別にそこまで隠してるわけでもない。ナビキもスカイがオレのことを全部知ってると思ったのかもな」
という声が頭上から降りてきた。
スカイは思わず真上を見上げ、驚愕した。
そこには壁面に『垂直に立って』腕を組むライトがいた。
「あ、ライト……ってええええええ!! いつからそこにいたの!? しかも壁!!」
「サーカスのクエストクリアして来るって言ったろ? 『玉乗りスキル』『手品スキル』『軽業スキル』『ジャグリングスキル』を習得して見せに来たら告白タイム。自分の後輩がスカイに恋心でも抱いたんじゃないかと思って、影から応援しようと『軽業スキル』と『糸スキル』の合わせ技で待機してたんだ」
「何さらっととんでもない誤解してんのよ。ただ、『友達になってください』って言われただけよ」
「意味的には『友達からはじめましょう』かもしれないぞ? まあ、安心しろ。もしそのまま進展しても『死体愛好家』とか言わないから」
「いや、私はそれより女同士なほうが問題だと……え、てか、もしかしてナビキってそういう嗜好の持ち主なの!? うわどうしよ……結構軽々しく友達になっちゃったわよ……ナビキは嫌いじゃないけど……」
「ハハハハハハハハ!!」
「笑い事じゃないわよ!!」
「いや、良かったと思って……ナビキを嫌いじゃないって言ってくれて」
ライトは一度壁に手をついて、スカイの頭上を飛び越えて着地した。
そして、手を小さく振った。糸を回収したのだろう。
「オレはスカイが拒絶しないかと心配してたんだ。なんかスカイってMBIチップ嫌いみたいだし」
「頭に機械入れてるのなんてここにいる全員でしょ。 それより、ホントにどうなの? 本人より詳しいんでしょ?」
「まあ聞いたことはないが……もし『そう』なら初恋だろうな。……って、冗談に決まってるだろ!! そこまで退くなよ」
嘘が紛らわしい。
というか、『初恋』ということは、ライトはナビキの気持ちに気が付いてないのか。そう、スカイは判断する。
そこで、一つの疑問を思い出す。
「そういえば、ライトも『ゾンビ』って言ってたけど、もしかしてチップで脳の性能上げたりしてるの? それならその化け物みたいなゲームプレイに説明がつくんだけど」
バカみたいなハードワーク、大工仕事を突貫で仕上げる技術力、初心者用の五種類の武器を全て使いこなし、違う種類の武器を両手で同時に操る汎用性、前線の戦闘職に勝てる戦闘技術。才能では説明できない、全く違うベクトルの高い『プレイヤーとしてのスキル』はスカイが以前から疑問に思っていた点だ。
「化け物とは失礼な。言っとくけどな、オレはそんな反則みたいなことはしてない。てか、そんなことしたら師匠に破門される」
「師匠?」
スカイは首を傾げる。
「師匠はオレのたった一つの使えない『才能』の使い方を教えてくれた人だ……まあ、あの人なら三日でこのゲームをクリアしても驚かないな」
「いやそれは驚きなさいよ!! どんな人!?」
もし本当なら想像でも是非その方法を教えてほしい。ゲーム攻略の助けになるかもしれない。
「ここにいない主人公の話をしても意味はない。オレたちは出来る範囲で地道に進むしかないんだ。今回のクエストもただの通過点だ。攻略自体は何年かかるかオレにもわからない……だが、それに際してスカイには謝らないといけないことがある」
ライトは帽子を目深に被ってスカイの隣に座る。
「オレは最悪のシナリオを想定してそれを防ぐためにスカイを利用している。だが、シナリオ展開によっては、オレたちが何もしなくてもそんな事態は起きないのかもしれない。この祭りを期に前線からプレイヤーがこの街のプレイヤーを気にかけるようになるかもしれない。今回来たプレイヤーやNPCが持ち込んだ食料のおかげで急がなくても一ヶ月くらいはもつかもしれない。他のプレイヤーがなんとかするかもしれない。もしそうだったら……勝手に根拠のない危機感持たせてごめん」
ライトの見立てた一週間という期限には全く根拠がない。そもそも、今はこんなに賑やかなこの街が祭りの後で恐慌を迎えるという確証もない。
起こるかもしれない惨事に怯えて夜眠ることも出来ないなど、二人のやっているのはまさに『杞憂』出はないのか?
だが、スカイはあっけないくらい軽い返事をした。
「その時は、ただアナタが損をして私が得をする。それだけの話よ。よくある話じゃない」
スカイはむしろ楽しそうに続ける。
「災害の無根拠な予言で馬鹿なヤツらが非常用品を買って、それを利用して不良品を売りつけたり高騰した株を売ったりして儲ける。いつものことよ」
今回、スカイはどう転んでも念願の『プレイヤーショップ』を手に入れる。予測が的外れだろうが、スカイは損しない。
「そういえば、《ハードグローブ》をもう一つだっけ? それくらい自力で買えるでしょ? てか、あれただ私と組むための口実でしょ? もういらないんじゃない? 普通の武器でも戦えるんだし」
もう忘れていたような契約だが、もともとは《ハードグローブ》をもう一つという条件だったはずだ。
「いや、やっぱりもう一つ欲しいな。両手で操作できれば、さっきみたいなのを応用して『空中浮遊』とか出来そうだ。むしろ、それは先に買っといていいか?」
「あらそう。別に良いわよ。あの時のは『借りる権利』自体の取引だから、無理に借りなくても良いし……ところで、あの時私が『店』を注文しなければどうするつもりだったの?」
「……勝手にスカイを支配者に祭り上げて独裁政治で食料配給とかやらせてたよ。スカイの名前で食料を配ったりとかな」
スカイの脳裏にはこの街に君臨する自分を象った象や、自分の目の前で並んで敬礼する愚民のようなプレイヤー達が映った。
「アッハハハハハ!! 何それ、それでライトは影の支配者? 似合わないわアッハハハハハ!!」
「まあ、実行しなくて良かったよ」
爆笑するスカイを見たライトは、角材から立ち上がる。
「ふう、すっきりした。これでクエストに集中出来る」
その時、スカイは少々違和感を覚えた。
なぜ、この二人はこんな立て続けに重要な話をしたのか、これではまるで死地に向かう前の身辺整理ではないか?
このクエストには戦闘や危険が絡むような内容は含まれていない。しかし、疑念が払えない。
だが、仮に何かあるとして、ライトはそれを教えてはくれないだろう。ナビキには話せてもスカイには話せないことなのだろう。
ライトはテントの入り口に向かって歩き出す。その目は、スカイを見てはいない。
だから、スカイは彼女なりに精一杯の応援を贈る。
「全部うまく行ったら、皆で祝勝会しましょ。必ずね」
同刻。テントの奥。
「これかな?」
「これでしょうね。全体が錆びついてるもの。ライトさんの行った通りよ」
双子の姉弟、マイマイとライライは互いに手を握りながら、震えをこらえていた。
この部屋をすぐにでも逃げ出したい。
こんなところにいたくない。
だが、逃げるわけには行かないのだ。『これ』とはきっと向き合わなければならない。そうでなければ、みんなの努力が無駄になる。
「ぼくたち、勝てるかな?」
「……わからない。けど、ライトさんは言ってたよ」
ライトが朝に二人に頼んだことを思い出す。
『みんなが笑って明日も明後日も生きるためには、おまえたちの力が必要だ。おまえたちはオレが守る。だから、おまえたちはもっと小さいヤツらを守るために協力してくれ』
目の前の闇から血の色に輝く眼が双子を睨み付ける。
しかし、双子は震えながらも逃げない。
巨大な恐怖を前に堂々と宣言する。
「わたしたちは戦う。ライトさんやスカイさんを助けるために」
「ぼくたちは戦う。マリーさんや教会のみんなを守るために」
人知れず、この世界の運命が決まる決戦が始まる。
イザナ「はい第一章も佳境に入りました、NPC会議室です」
キサキ「談話室じゃなかった?」
イザナ「次回の……その次回の次回には新ゲストがくる予定ですのでご期待を!!」
キサキ「誤魔化したいからって三話も先のゲストを予告されても……」




