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1-27 5歳になった

こうして時が過ぎ、公国では、七輪と銅鍋と燃料が行きわたった結果、平民でもマッツァナンと米と、十分な量の葉物が食べられるようになり、飢えることは無くなった。米だけで腹いっぱいになるのには、もう少し時間がかかるかな。


ま、現状、米だけ食べてたら栄養不足になっちゃうから、副菜ができないとダメなんだけどね。今のところマッツァも食べないといけない。


飢えることは無くなったのだけれど、調味料は相変わらず塩だけ。おかげさまで、塩はふんだんに使えるんだけどさ。


調味料どころか、そもそも調理という概念が無かった。ようやく、ナンを焼き、ご飯を炊き、葉物に塩をふって、というレベルに到達したばかりだし、これから調理を増やしていかないとね。


何か新たな調味料が欲しい。


麴菌とかあれば、米もあるし酒もみりんも作れるよね。大豆があれば、もっと世界が広がるな……


「ねえアイちゃん」


『はい、救い主様』


「異世界食文化召喚スキル、使えないかなぁ?」


『そのスキルは、数あるスキルの中でも、魔力だけではなく、多量の星神力を使用しますので、現状、わずかに女神(くそ)の星神力が足りていないと思います』


「そっか……何かほかに方法はないかなあ」


『救い主様は、その方法……スキルを既にお使いになられています』


「へ? 全然わからないんだけど……」


『目の前に材料がなくとも、魔法を使って建物を建てたりなさっていますが』


「ああ、そういえば……材料が無くても、この星のどこかから誰かの所有物じゃないものを、お取り寄せしている状態なん」




***




――ピロン お取り寄せスキルが使えるようになりました。この世界の誰のものでもないものを、何でも取り寄せられます。宅配ボックスが必要です




***




「だ……よね……って、スキルが生えたね」


『左様でございますね』


「うん。宅配ボックスが必要とか……地球じゃないし、別に石の箱でもなんでもいいよね? きっと」


『はい。素材はどんなものでも、数も一つでも二つでも、場所もどこにでも設置可能です』


「ハハ ありがと。じゃ、とりあえず部屋の中に作ろう。『漬物石』 ピカッ ドゴン 」




***




部屋に宅配ボックスを設置した。ただの石の箱だけどね。


さて、麹菌麹菌、麹菌はこの世界に居ないかな~と思ってお取り寄せしてみたけど、無し。


じゃあ、砂糖だ! と試しても、無し。あ、そもそも砂糖はこの世界に存在してないよね……




――ピロン 砂糖魔法が使えるようになりました。原料が充分あれば砂糖を作れます




って砂糖魔法が解禁されても原料無いじゃん! 気を取り直して、サトウキビ! と試したけど、無し。ま、そんな気はしてたよ。


ま、一応、砂糖魔法を試してみよう。 ピカッ …………パラ


……なんか上から耳かきいっぱいくらいの茶色い砂糖?が降って来たような気がしたけど、鼻息で飛んでなくなっちゃったよ……ああ、砂糖が……


砂糖の原料が、この星にはあんまりないんだね、きっと。いやいや、エデンではフルーツあるって言ってたし、原料はたくさんあるはずでしょ? あ、エデンの果樹とかは王家の所有だった……でも、たとえ耳かきいっぱいでも砂糖?ができたんだから、他の原料も皆無ではないはず。


そういえば、平民でもまずくて食べられない雑草もあるって聞いたような気がするな……もしかしたら、葉物野菜以外にも種類あるよね、ってか、全種類の雑草を確認してないんだから、違うのも当然あるよね。テンサイとかはあるかも知れない。


それに、公国じゃなくても北部の他の土地とかさ、南部とか、何ならエデンの王国とかさ、どこに何があるかわかんないんだから、片っ端から試してみよう。



「さあ出でよ! 『お取り寄せスキルでテンサイ!』 ヘイカモン 」 ピッカリンコ ……………………………………………………パサ



あ、宅配ボックスが初めて反応した~ でもなんか、ずいぶん時間かかって絞り出したような控えめな音じゃない?


で、当然のようにテンサイが届いた訳なんだけど……触っただけでジャキジャキが伝わってくる硬いビリジアン色の葉っぱに、5cmくらいの細いゴボウ状の根がついてる、全高10cmの植物。


とても信じられないけど、これがテンサイ、なのね、多分。ま、原種みたいな感じなのかな。もともとヒユだか何だかの種類らしいしね、こんなまずそうな草でもおかしくないわ。スキルも探すの大変だったみたいだしね……


ふむ、ほっそいゴボウみたいな根っこを齧る気分じゃ無いから、とりあえず、根がカブ状くらいになるよう品種改良をしよう。


ピッカリンコ ピッカリンコ ピッカリンコ……………………


とりあえず、高さは大きくなくてもいいから、根が太って大きいものを選別してみた。って、聖護院大根みたいな大きさになっちゃったけどね……意を決して、根っこの端を少しだけ齧ってみる。


うげー まあまあ甘いけど、エグイ、臭い……


でも、テンサイはこれで正しいはず。とりあえず、これを種にしとこう。


最初のはとてもテンサイには見えなかったから、自分で探し歩いていたんじゃ絶対に見つけられなかったと思う。スキルでさえ、あんな時間かかったしね。でもお取り寄せスキルは、自分で見つけられそうもないものでも、スキルがミラクルな力で勝手に探してくれるんだから、失敗しないし、楽だよね~


とっても有用なスキルじゃない?


『はい、左様でございますね、救い主様』


「え? 僕、声に出したかな…念話の覚えもないけど…」


『何も問題ありません』


「アイちゃん、もしかして、僕の心の中とか、読めたりする?」


『救い主様の心の中を読むなどと……そのようなことは一切ございません。そもそも、能力ならともかく、人の精神に干渉、作用させるような魔法は、この世界には存在しませんので、ご安心くださいませ』


「そうなんだ……なんか僕の考えていることが伝わっている気がするんだけど……」


『私め、救い主様のお考えを少しでも理解するべく、日々、精進いたしておりますので』


「ハハ ありがと。アイちゃんは相変わらずだね~ そのままお願いね」


『はい。救い主様も、今のままで大丈夫でございます』


「?…………」




***




――ミチイルは、思考時に無意識で念話になっている事があるだけである




***




「ミチイル~ いるかしら?」


「はーい」


「あら、お部屋の中が何が大変なことになっているわねぇ。ゴミはそのゴミ箱に入れておきなさいね、あら? ずいぶん大きなゴミ箱ね」


「う、うん、これはゴミ箱じゃないんだけどね……昨日、いろいろしたの……後でこの残骸は処理しておくから~」


「そうしなさいね、それはそうと、お散歩にでも行かないかしら?」


「うん、行こう!」




***




「ミチイルはどこか、行きたいことろがある? 畑?田んぼ?」


「畑方面はね、ずいぶん通ってたくさん作業したから、特に行かなくてもいいかな~ リサに任せておけるしね~」


「そうね、リサはとても頑張ってくれているわね。じゃあ、反対の北の方にでも歩きましょうか~」


「うん!」


「……公都でも、ああやって、七輪でご飯を炊いている光景が普通になってきたわね。ミチイルのおかげよ」


「エヘヘ もっともっと、色々な美味しいものを作るよ!」


「たのしみだわ。それで今日はまた、何を持っているの?」


「わかっちゃった~? こっそりもってきたのに。これはね、昨日出来立てほやほやの種~ せっかくだから、北の方にでも植えてみようと思ってね、持ってきたの~」


「あら、そう。今日もミチイルの魔法が見られるのね、うふふ」


「うん、畑作ろうと思ってるからね。ブッシュあたりの畑でもいいんだけどさ、リサが忙しくしてるでしょ? 今日持ってきている種は実験だから、違うところでコッソリやるの!」


「まあ、わたしとミチイルの二人だけの秘密ね、うふふ」


「じゃ、この辺りでいいかな。家も無いし、川も離れてるから人も来ないと思うし、いっちょ、ここに畑を作ろう」




***




ピカッ ピカッ ピカッ……


こんなもんでいいかな。ここにテンサイの種を種まき~


ピカッ




***




「はい、おわり~」


「あいかわらずミチイルの魔法はすごいわね~ あっという間に畑もできて、種まきもできるんだから」


「ほんとだよねー、僕もびっくりだよ」


「うふふ」


「アハハ」


「じゃ、散歩しながら帰りましょう」


「はーい」




***





(とりあえず、昨日の残骸と聖護院大根みたいなテンサイをキッチンに運んでもらおう)


「ねーねー、誰かいなーいー?」


「はい、ミチイル様、お呼びでしょうか」


「あ、カンナ、悪いんだけど、この植物をキッチンに運んでくれない? 僕も一緒に行くけど」


「かしこまりました」


「あ、そうそうカンナ、ずいぶん前にカンナの布仕事見たいってお願いしてたのに、ぜんぜん見れなくてごめんね」


「とんでもないことでございます、ミチイル様は大変お忙しくいらっしゃいますから、何もお気になさることはございませんよ」


「うん、今度、よろしくね」


「かしこまりました。それで、こちらのゴミ?はどういたしましょう?」


「うん、とりあえず、白くて丸くて大きいの以外は全部、後でコンポストするから、外に出して~ 白いのは今から魔法に使うから」


「かしこまりました。コンポストなら、私が致しておきます」


「ありがと~ じゃあ、銅のボウルを二つ、石の台の上に用意してくれる?」




***




『砂糖』 ピカッ ザザッ トローリ




***




「やった!」


「ミチイル様、これはまた……薄茶色の粉と、黒い汁が入れ物に……」


「うん、粉の方は砂糖っていう調味料で、黒い液は廃糖蜜っていう、蜜だね」


「そうなのですか……それで、こちらはどういたしましょうか?」


「うん、廃糖蜜はそんなに美味しくないから棚に置いておいて~ それで、ちょっと砂糖の方を味見してみよう。はい、カンナも」


「恐れ入ります」


「 !!! 砂糖だ! おいしい!! 何年ぶりだろ! 」


「 ! これは……この様に甘いものは、エデンの果樹の一部くらいしかございません。それが、このゴミから出来るとは」


「ハハ 外に出してもらったのはゴミだけど、この白いのはね、テンサイと言って、いま味見した砂糖の原料になるんだよ。搾りカスは……ああ、なんかカスがスッカスカになってる。これも外に出しておいて~」


「かしこまりました」


「砂糖の残りはね、母上とかお祖父さまとかセバスとか、もちろんカンナもジョーンも、とにかく大公屋敷のみんなに味見してもらって~ 量が少ないけど」


「ありがとうございます。みなさん、びっくりされるでしょう」


「へへ じゃあ、僕は部屋に戻るね~ カンナ、ありがとう」




***




――この世界に、砂糖が誕生した


――スキルも大変だったらしい




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― 新着の感想 ―
ここまでに作られた物の原理とか手順て大人がまとめたりしてるのかな
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