人が人払い
拳一視点 ①
黒蝶 舞・剛力 拳一vs前金 鉱平・黒虎
「たいがくん!」
坊っちゃんが大きな声で黒い虎に向かって叫ぶと、虎と隣を歩く男は止まった。
男は振り返りざまに魔法を唱えた。
「ラキースター☆」
男の指鉄砲からたくさんの星が飛んできた。
坊っちゃん達は難なくいなしている。
おれと舞は最初避けたが、通りすぎた星が戻ってきて当たってしまった。
星は弾けるように消えたが、ダメージも状態異常も感じない。
「アン☆ラッキー。おれの名前は、前金 鉱平。転移者で勇者と王子とこの街にきたわけなんだけど、勇者死んじゃってたね。おれのオリジナルスキル、ラキースター☆の確率が0なんて、運を黒虎に極振りしちゃったかね。」
言っている事の意味は分からないが、勇者はさっきえぐい死に方をしていたな。
謎の魔法は効果が発動しなかったのだろうか、少しホッとした。
「坊っちゃん、ここはあたし達がやるから他をお願いしていいかな。黒虎くんには悪いことしたと思ってるし、ここでチャラにしておきたいからさ。」
舞が残ると宣言した。
まだ手足に付いている枷はこいつにやられた物だし、悔しいがおれ達では王子には勝てない。
正直なところ頼るしかなかった。
「それならおれも残るぜ。パピノア無しで1人じゃしんどいだろ。おれも舞と一緒の方がスキル発動するしな」
おれの固有スキル、ボディガードは何かを守りながら戦うことで発動する。
坊っちゃん達が去って、おれ達は黒い虎と相対することとなった。
「おまえらさぁ、しぶとくね?男の方は王子にボコられてたよな。女の方も、おれの枷があってここまでこれただけで大健闘だよ。ただ面倒だからさ、もう死んで☆」
男は先端に輪っかの付いた鎖をおれに向かって投げてきた。
ジャラジャラ言わせながら飛んでくる輪っか。
前回舞が不意をつかれて当たってしまったら、枷が付けられ鎖によって行動制限されてしまった。
ただ直線行動だから、不意打ちじゃなければ避けることは容易い。
注意するのは戻ってくる時と、枷と繋がった鎖にも触れてはならないことだ。
舞に付けられてしまった枷はおれが外してやる。
そう強く決意したのに…
ジャラララと、うるさい鎖を避けたら、おれの後ろの舞に当たってしまった。
「おまえはバカだねぇ。脳みそまで筋肉マッチョなんじゃないの?」
言い返す言葉がない。
「クソ!」
おれは悔しくって地面を殴った。
闘いは始まったばかり。
それなのに、早々に大失態をしてしまった。ついさっき守ると決めたのに…
精神的なダメージが大きく足に力が入らないおれに、真っ正面から黒虎が体当たりをしてきた。
そのまま鋭い爪でされるがままに引っ掻かれる。
「おまえ見た目だけで、なんにもできないじゃん。弱すぎじゃない?黒虎、そのまま殺っちゃって☆」
一旦戻ってた黒い虎がこちらに迫ってくるらしい。
おれは仰向けで空を見ていたが、諦めて目を瞑った。
ドゴッと大きな音がして思わず飛び起きた。
おれの目の前には枷を付けていながらも逞しい舞が立っていた。
「拳一、あたしは大丈夫だから。元々あんたよりも強いし。でも、あの黒虎に早く勝って、帰ってきてくれたら…うれしいかな。」
全身が奮い立った。
おれは舞の事が昔から大好きだった。
だからこの世界に来ても一緒ですごくうれしかった。
こんな時にも舞に守ってもらうなんて、情けない。
何もできずにここで死んでいいはずがない!
おれは立ち上がり、拳を強く握る。
「あんたは昔っからメンタルが弱すぎるんだよ」
ボソッと舞が呟いたが、その言葉はおれの耳に届かなかった。
おれは黒い虎の肩を狙ってパンチをぶちこんだ。
黒い虎を吹き飛ばして、追い打ちをかけるように殴りかかった。
黒い虎も反撃して噛みついてくる。
噛みつき、ひっかき、体当たり、黒い虎はどの攻撃も威力が高い。
だがおれだってもう下がるわけにはいかない。
殴って蹴って、対抗する。
しばらく殴り合って、おれも黒い虎もまあまあの血を流していた。
「はぁはぁ。 しぶといな。おれは負けられねぇんだよな」
そう言いながらも次の体当たりを受けて片膝をつけると、立てなくなってしまった。
守られてばかりじゃなく、今度こそは必ず守るんだ。
全身の力を振り絞って立とうとする。
すると、黒い虎の後ろから1人の子どもが歩いていた。
(坊っちゃんよりは大きいな。あんな子どもこの街にいたっけ?)
子どもはおれの前で止まった。
「力が欲しいか?この人属領で魔物に負けるのは見過ごせないな。おまえが諦めないなら、拳を突き合わせてみろ。武運を祈る」
子どもはそう言って、おれを通りすぎて行った。
目が霞んでよく見えなかったが、なんか言ってたな。
あの子どもを信じて、最後の力を振り絞り拳を突き合わせてみた。
すると突き合わせた拳が激しく光った。
光りが落ち着くと、おれの拳にメリケンサックが装着されていた。
傷がみるみる癒えていき、力がみなぎってくる。
新しく手に入ったメリケンサックで、満身創痍の黒い虎に打ち勝った。
「舞~!終わったぞ」
振り返って、ガッツポーズをしたおれの視界には、鎖で拘束された舞が映っていた。




