大切な人
拳一視点 ②
黒い虎に勝ったおれの目に映ったのは、鎖で拘束されている舞の姿だった。
「舞!」
舞に鎖野郎がゆっくり近づいている。
おれは一心不乱に地面を殴った。
すると、鎖野郎と舞の間に分厚く大ときな壁が立ちはだかり、鎖野郎が睨んできた。
それに気づける程の気持ちの余裕は無く、一目散に舞の元へ駆けつけた。
「帰ってきたぞ!おれがなんとかするから」
舞の四肢に付いている枷から出る鎖が地面にしっかり突き刺さっており、体にも鎖が巻き付いて地面に固定されている。
おれは枷を壊すため、力任せに殴った。
カシャン
思いの外簡単に外すことができた。
一瞬驚いて固まってしまったが、すぐに他の枷も壊して、体の鎖も殴ると壊すことができた。
舞をようやく枷から解放できたおれは、うれしくなって舞に抱きしめた。
舞も嫌がること無く抱き返して、「おかえり」と言った。
ジャラララ
水を差すように鎖がおれ達の間に飛んできた。
「おれのこと忘れてないよね?」
鎖野郎は笑顔で怒っていた。
だがもう負ける要素がない。
舞の近くに戻っていた、精霊のパピノアが鎖野郎の近くを飛ぶとすぐに眠った。
おれはうつ伏せになった鎖野郎にゆっくり近づき、背中を思いっきり殴ってやった。
ボキッと大きな音がした後、男は白目で泡を吹いていた。
勝利を確信したおれは、舞の方に笑顔で親指を立てると、舞も笑顔で親指を立て返してくれた。
「お疲れ様~。新しい力はどうだった?」
舞の後ろから子どもが歩いてきた。
さっきの男の子だ。
「ぼく神様なんだ。さっきあげたのはぼくからの贈り物。君に必要だと思ってね」
「助かったよ。ありがとう神様」
本当に神様かは知らないが、この武器が無かったら勝てなかったと思って礼を伝えた。
そんな自称神様はおれの後ろを睨んでいるように見えた。
「来たよ、規格外」
その言葉を聞いて振り返ると、坊っちゃん達が戻っていた。
その中には自称神様とそっくりな子どもがいた。
「なんだ、ゴルフもいたんだ」
「マーノアこそわざわざこっちに何の用だ?」
「こいつにメッセージを伝えに来ただけだからすぐ戻るよ。」
そっくりさんはそう言って坊っちゃんの肩を組むと、そのまま小声で会話をしていた。
「人神だな。おれに神器をくれ」
鬼さんが自称神様に歩み寄った。
「やだよ。鬼族に神器をあげるわけないじゃん」
即答だった。
鬼さんがなぜ神器を求めてるかは知らないし、欲しいと言えば本来もらえる物かは分からないから、おれは口を挟まずにいた。
だが舞はそうではなかった。
「神様、神器ってどういうもんなん?」
「本来ぼくが神器を送るのは人間のみ。多種族にあげると人族が滅ぼされる可能性があるからね。あと、言葉遣いは気を付けな。ぼく神様。」
質問の答えを受けて、舞は少し考えて神様に提案をした。
「じゃああたしに頂戴よ。それはいいでしょ?」
この状況でまさか自分の物を頼むとは。
舞のこのメンタルの強さと言うか、どこか変わっている感じにいつも助けられている。
それでも今回は意表を突かれた。
「それはいいよ。どんなものが欲しいの?言葉遣い直せ、ね」
舞は後半部分を無視して自分の頼みだけをしっかりした。
「好きな場所に一瞬で移動できる道具が欲しい」
瞬間移動ができる道具。長い間ここに滞在していて飽きたのか。どこか行きたいところがあるのか。
おれにはその意図が分からないが、舞が望むなら用意するのが神様だろう。
「いいけど、少し条件付きだね。1つ目、移動ができるのは行ったことのある場所のみ。2つ目、移動できる対象は所有者個人に限る。3つ目、人族にしか扱えない。ぼくは神様だぞ?君の考えることなんてお見通しさ。それでもよければあげるよ」
「まさか、鬼さんに…?」
おれは思わず声に出てしまったが、他のみんなも驚いている。
もちろん鬼さん本人もだ。
「それで構わない。」
舞に迷いはなかった。
自称神様は舞に近づき、手首に腕時計のようなものを着けた。
ただそれに時刻を示すものは無く、この世界では珍しい画面が付いていた。
「行きたい場所をイメージするか、行ったことのある地名を言えば、その画面に表示される。表示された場所で間違いなければ、画面に触れるだけで移動できるよ」
舞は説明を聞いた後、すぐに腕時計を外して鬼さんの所へ持って行った。
「あたし達と街を助けてくれてありがとう。あんたに使えるかは分かんないけど、必要なら持って行って。」
舞が差し出した腕時計を受け取った鬼さんは、黙ったままそれを手首にはめた。
「人族にしか使えないって言ったよねぇ。勿体無いことしちゃって。」
自称神様がため息をついたのも束の間、今は驚き、目を見開いて口まで開いている。
「まさかこんな形で役に立つなんてね」
そっくりさんが言ったが、誰にも理解できていない。
鬼さんが人にしか使えない神様からの贈り物を、起動させてどこかへ消えてしまったのだ。
すぐに鬼さんは戻ってきたので、神器を使いこなしているのだろう。
「なんで? 使用制限をしたのに使えてるの?」
自称神様が誰もが疑問に思っている質問をしたが、それに答えたのはそっくりさんだった。
「おれの渡した神器がここで役に立つとはなぁ。おれが渡した神器は隠れ蓑って言ってな、見た目だけじゃなくてステータスとかも人族になる装備なんだ。だから頭にあれを巻いていると、その神器も使えるみたいだな」
自称神様が地団駄を踏んでる。
それを横目に坊っちゃんが近づいてきた。
「おうちにかえるから、またね。ネフルにじんぎをありがとう」
次にそっくりさんも近くにくると、小さな箱を渡してくれた。
「さっきの女の子にあげな。神器を多種族に譲ったから、今回だけ特別な」
おれは小さな箱を受け取ると、中身を確認する前に坊っちゃん達はみんな消えてしまった。
おれは言われたまま、小さな箱を舞に渡した。
舞が箱を開けると、中には指輪が入っていた。
指輪の上には5本の爪のような物が装飾がされてある。何かを掴もうとしているように感じた。
「よかったね、神器もらえて。魔神のだけど。そこのお姉ちゃんが指輪をはめて、おまえがそこの爪に血を垂らすと神器の完成だよ。じゃあおれも帰るね」
自称神様は何故かばつが悪そうに帰っていった。
おれと舞の2人と指輪だけが残されて、急に緊張感がでてきた。
舞は静かに箱をおれに返して左手を出している。
おれは手が震えるのを抑えながら、両手で舞の人差し指にはめようとした。
それを舞がずらして薬指に入れた。
おれは頭が真っ白になって箱を落としてしまったことにすら気づけない。
舞はおれの胸ぐらを掴んで引っ張ってキスをした。
「よろしく」
一言発した後差し出す左手。
おれは近くに落ちている鋭く尖った石で指を切り、舞の指輪に垂らした。
指輪は光り、爪の部分に赤く綺麗な石がはまっている。
「帰るよ」
舞が帰ろうとするのを走って追いかけ、いつものようについていく。
これからは街のみんなと協力して復興作業をしていかなければならない。
神様への感謝を忘れず、これからもおれ達は生きていく。
たとえピンチになっても、神器と舞がいる限りおれは強く生きる。
おれは改めて胸に強く誓った。
来週からは主人公が戻ります。
お付き合いいただきありがとうございました




