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寒川隊員のぼやきが続いてます。
「そいつ、お前の家に火をつけたうえに、それをインターネットで配信しようとしてたんだぞ。いや、もしかしたらライヴ中継してたかもしれないな?・・・
放火してもなんとも思わない。おもしろきゃ何をしても構わない、か・・・ インターネットてーところは、恐ろしいところだな・・・
ところで、なぁ、日向、お前、お医者さんに寝てろっと言われてたんじゃないのか?」
「あは、どうしても弾きたくなっちゃって、ギターを・・・」
寒川隊員は今度は女神隊員に、
「それを聴いてたっていうわけか、あなたが?」
「まあ、そんなものです」
「さっきも話した通り、日向は頭にけがしてるんだ。早く寝させないと!」
「あは、もう自分の部屋に帰りますよ」
「そうしてください。じゃ!」
寒川隊員はそう言うと振り向きかけますが、その瞬間日向隊員の弦を弾く右手に何かを発見しました。
「ん? なんだ、それ? ピック・・・ じゃないのか?・・・」
日向隊員は右手の指に持つ銀色の物体を見て、
「あ、これですか?」
日向隊員はそれを寒川隊員に見せました。それは100円硬貨でした。
「あは、お金ですよ」
「え、100円?」
「今日校門の前でギターを弾いてたら、ものすごくギターがうまい女の人が来て、いろいろとギターテクニックを見せてくれたんですよ!
彼女、コインをピックにしてギターを弾いてたんですよ。それがとってもかっこよくって、私、一発でその人のファンになっちゃったんです!」
それを聞いた途端、寒川隊員の脳裏に嫌な記憶が蘇ってきました。寒川隊員にトラウマを植え付けたギタリスト。その人物もやはり硬貨をピックとして使ってたからです。
日向隊員はひざの上に抱えたギターを見て、
「ギターの弦もガット弦よりスティール弦の方がいいとアドバイスもらったから、以前使ってたギターを引っ張り出して、弾いてたところなんですよ」
と、日向隊員はここであることに気づきました。
「あっ・・・」
で、平謝り。
「あ、すみません・・・」
「ん、どうした?」
「せっかく私のためにガット弦ギターを用意してもらったのに、勝手に前のギターを引っ張り出してきちゃって・・・」
「いや、構わないさ。オレもスティール弦の方がずーっといいと思ってたんだ」
「あは、そう言ってもらえると嬉しいです。
彼女、いろいろと知ってるみたいでした、ギターのことを! 彼女について行ってギターを教えてもらおうと思ったんですけど、ほら、私、今頭にケガしちゃってるから・・・ 2日後にまた会おうって約束して今日は別れてきたんです。
あは、早くギター教わりたいなあ、彼女から・・・」
「そっか・・・」
「すみません。せっかく寒川さんからギターを教わったのに・・・」
「別に謝ることないさ。オレの知ってるギターテクニックなんか、プロからみたらほんのわずかだ。もっとうまい人はたくさんいるよ。そんな人から教えてもらうがいいさ。
邪魔したな」
と言うと、寒川隊員は自動ドアを開け、出て行きました。
廊下に出て歩く寒川隊員。その顔は苦虫を噛み潰したような表情です。前述の通り思い出したくもない記憶が蘇ってきたからです。
寒川隊員は高校に入ると同時に軽音部に入り、1年生ながら部のリーダーになりました。軽音部では毎日のように尾崎豊の曲を歌ってました。充実の1年でした。
けど、2年生になると事態は一変しました。中里という男子が軽音部に入ってきたのです。
彼は高1とは思えないほどのギタリストでした。誰もが驚くほどのテクニック。けど、それによって引き起こされた事態が、寒川隊員に大きなトラウマを植え付けました。




