62
メガネの少女は弦の上で硬貨を滑らせました。ブリッジのあたりからネックの方へ、かなりの距離。ギュオーン!とギターはうなり声が上がります。ピックスクラッチ、これは真土勝之が得意としてたギターパフォーマンスの1つです。
少女が右手の掌で弦を押さえると、音はピタッとやみました。と同時にオーディエンスから割れんばかりの拍手が起きました。
「うぉーっ!」
さきほど盗作の娘と言った2人もやんやの大喝采。
「あは、すごいや、こいつは!」
その発言を聴いて日向隊員はほっとしました。あの2人、悪気があって盗作と言ったんじゃないみたい!
が、ここで別の男性ネット民が悪意のある声で質問しました。
「おい、お前、真土灯里だろ、真土勝之の娘の!?」
それを聞いて群衆が騒めきました。
「お、おい、ほんとうか?」
「そういや、あの盗作の娘もJSなのにすごいギターを弾いてたなあ・・・」
「ああ、オレもテレビで見たことがあるよ!」
けど、メガネの少女は少し顔を赤らめ、笑顔で、なおかつとぼけるように、
「違いますよ」
と返答。今度は別の男性ネット民が、
「うそ言うなよ! あいつの娘もundercoverて曲のギターを完璧に弾いてたぞ! オレ、テレビで見たことあるんだからな! そうはいないだろ、あのギターを弾けるやつは!」
と、激怒。するとメガネの少女はまたもや笑顔で、
「私の名前は八幡このみですよ」
すると別の男性ネット民は怒髪声で、
「証拠はあんのかよ!」
彼の隣りにいた男性も、大声を発しました。
「そうだよ! 証拠を出せよ、証拠を! 私は真土灯里じゃないという明確な証拠を出せよ!」
自室のパソコンでライヴを見ていた生徒会長も、
「そうだよ! こいつぁ真土勝之の娘、真土灯里だよ! 自分もテレビで見たことあるよ!」
舞台を校門の前に戻します。メガネの少女は手帳のようなものを取り出し、それを件のネット民に渡しました。
「これはどう?」
数人のネット民が肩を寄せ合い、それを凝視します。中にはスマホで撮影⇒ライヴ配信してる者も。メガネの少女は応えます。
「私の生徒手帳よ」
たしかにその手帳にはメガネの少女の証明写真と八幡このみの文字がありました。
「けっ! どうせこれもニセモンだろ! 真土勝之は盗作の天才だからな、娘も盗作して当然だろ!」
けど、それを後ろからのぞいた男子がぽつり。
「いや、それ、うちの中学校の生徒手帳に間違いないですよ」
件のネット民はその男子を横目で見て、
「ちっ!・・・」
ネット民はその手帳をぽいと投げ棄てました。
「帰るわ、オレ!」
この男を含め、ネット民の何人かはその場を立ち去りました。
明石悠はアスファルトに捨てられたメガネの少女=八幡このみの生徒手帳を見て、
「ひどい、なんで捨てるの? 自分の主張が負けたからって・・・ 生徒手帳て大事な身分証明証でしょ?」
日向隊員はその生徒手帳を拾い、
「ネット民なんてみんなこんなものだよ。他人の不幸は蜜の味。自分さえよければそれでいい。自分の負けは絶対認めない。あんなクズ野郎、みんな死んじまえばいいんだよ!」
日向隊員は八幡このみに手帳を渡しました。
「はい」
八幡このみは手帳を受け取ると、
「ありがと」
と感謝し、逆に日向隊員にギターを返しました。
「はい」
次に質問。
「あなた、ガット弦ギターを使ってるけど、なんで?」
「あは、私、幼いときからピアノ習ってたから・・・」
日向隊員は自分の両手を広げ、それを八幡このみに見せて、
「ほら、ピアノって直接指でキーにタッチするでしょ? ギターも当然指で直接タッチするものだと思ってて・・・」
「そっかあ。それでガット弦を・・・」




