勇気とは、絶対に逃げないと決意すること。――8
「命の対価、発動!」
初動は命の対価。
二枚目の命の対価をストレージから実体化させて、使用する。
同時、神秘の鏡の表面から命の対価のコピーが生まれ、自動的に発動した。
俺の体が、青白い光に二回包まれる。コストとの差し引きで、MPが35上昇、HPは30減少した。
命の対価が発動したことで、連立式複製装置の効果が誘発する。
ウィーン、とDVDを読み込むような音とともに連立式複製装置が明滅して、取り込まれていた聖霊の恵みが発動する。もちろん、神秘の鏡によってコピーも生成された。
それぞれの聖霊の恵みに対して、HPに変換するMPの値を指定する。
「支払うMPは15ずつ」
コストと合わせてMPが計35減ったのち、薄緑色の光に包まれて、俺のHPが30回復した。
これで、俺のHPは65、MPは100――最初の状態に戻ったことになる。
本来、連立式複製装置によるカードの発動は、ここで終了する。連立式複製装置の効果は、自身により使用されたカードでは誘発しないからだ。
だがしかし、神秘の鏡が存在すると、面白いことが起きる。
ウィーン
連立式複製装置が明滅した。連立式複製装置の効果が連続で誘発したのだ。
起こりえないはずの謎現象。どうして連立式複製装置の効果は連続で誘発したのか?
そのタネは『ルールの穴』にある。
連立式複製装置の効果は、自身により使用されたカードでは誘発しない。逆に言えば、自身により使用されたカードでなければ誘発するわけだ。
聖霊の恵み(オリジナル)が発動したとき、神秘の鏡によって聖霊の恵み(コピー)が発動した。
聖霊の恵み(オリジナル)を発動させたのは連立式複製装置だが、聖霊の恵み(コピー)を発動させたのは神秘の鏡。
聖霊の恵み(コピー)は、連立式複製装置によって発動されたカードではない。そのため、聖霊の恵み(コピー)が発動すると、連立式複製装置の効果は再び誘発するのだ。
そして、再び連立式複製装置の効果が誘発すると、命の対価(オリジナル)が発動。神秘の鏡が命の対価(コピー)を発動させて、三度、連立式複製装置の効果が誘発する。
加えて、命の対価で獲得したMP・減少したHPは、聖霊の恵みで支払うMP・獲得するHPと釣り合う。すなわち、差し引きで0だ。
これによりなにが起きるのか?
書き連ねてみればわかりやすい。
命の対価が発動 → 神秘の鏡が命の対価のコピーを生成して発動 → 連立式複製装置の効果が誘発して聖霊の恵みが発動 → 神秘の鏡が聖霊の恵みのコピーを生成して発動 → HP・MPが元通り → 連立式複製装置の効果が誘発して命の対価が発動 → 神秘の鏡が命の対価のコピーを生成して発動……
以上の工程を延々と繰り返すのだ。
そう。いま起きているのは、いつまでも続く終わりのないループ。
俺が行っているのは、コンボの王様『無限コンボ』なのだ。
とはいっても、このコンボをどれだけ続けようと、HP・MPはどちらも増加しない。ただただループしているだけだ。
意味のない行為に思えるだろう。けれど、意味ならちゃんとある。いや、意味があるどころの話じゃない。
このループは、ドラゴンエンペラーを倒すために必要不可欠なのだ。
コンボを続けながら、俺は天原さんのほうを窺う。
ドラゴンエンペラーの猛攻により、天原さんの顔は汗まみれで、息遣いは荒くなっていた。
相当な苦しさだろう。見ているこっちがつらくなりそうだ。
しかし、天原さんには耐えてもらわなくてはならない。天原さんがどこまで耐えられるかが、俺たちの命運を分けるのだから。
「頼んだよ、天原さん……!」
呟くように願いつつ、俺はコンボを続けた。




