勇気とは、絶対に逃げないと決意すること。――7
「――以上が、ドラゴンエンペラーを倒すまでの手順だ」
「なるほど。わかりました」
俺の作戦を聞いて、天原さんが力強く頷き、胸に手を当てる。
「必ず役割をこなしてみせます。ふたりで勝ちましょう」
「うん。勝とうね」
俺と天原さんは、コツン、と拳を合わせて勝利を誓った。
さあ。負けられない戦いがはじまるぞ。
俺は手のひらを顔の前で合わせ、まぶたを閉じて深呼吸する。
カードゲーマー時代の俺を支え、探索者になってからも勇気をくれ続けている、ルーティン。
緊張が鎮まり、頭が冷え、俺は一〇〇パーセントの実力を発揮できる状態になる。
まぶたを開けると、天原さんも俺と同じく深呼吸をしていた。
深く息を吸い、長く吐き、天原さんが俺を見つめる。
俺と天原さんは頷き合い――ドラゴンエンペラーがいる広間に踏み込んだ。
ドラゴンエンペラーの眼が、俺と天原さんに向けられる。
開けた天井から赤い空が覗くなか、生死を賭けた戦いがはじまった。
『GOOOOOOOOOOHHHH!!』
ドラゴンエンペラーが雄叫びを上げ、ビリビリと大気が震えた。根源的な恐怖を引きずり出す、皇帝の咆哮。
それでも天原さんは怯まず、俺から離れてスキルを使用する。
「『タウント』」
モンスターのターゲットをとるスキル。大気の揺らぎが発生し、ドラゴンエンペラーの注意が天原さんに向けられた。
『GOOOOOOOOHHHH!』
ドラゴンエンペラーが拳を引き絞り、天原さんに叩きつける。豪速で振るわれる拳は、まるで砲弾だ。
天原さんがドラゴンエンペラーの拳を大盾で防ぐ。
ドゴンッ!!
ダイナマイトが爆発したような轟音が上がり、天原さんの体が五メートルは後退した。
「ぐぅ……っ」
尋常ならざる破壊圧に、天原さんは歯を食いしばって耐える。
同時、防御が成功したことでスキル『リフレクト』が発動。天原さんの周りに白い粒子が浮かび、無数の針となってドラゴンエンペラーを襲った。
『GOOOOOOOOHHHH!』
与えるはずだったダメージの一部を返されて、ドラゴンエンペラーの眼が憤怒に染まる。
怒りのおもむくまま、ドラゴンエンペラーが拳を連続で放った。
一発一発が必殺になり得る攻撃を、天原さんは的確に防いでいく。死と隣り合わせの状況で、最善を尽くしている。
俺も自分の役割を果たそう!
確固たる決意を持って、俺はストレージを開き、カードを実体化させた。
「魔力ブースト、発動!」
まずはいつものように、MPを得るカードを使用する。今回は使用可能上限数の四枚だ。
続いては、アイテムタイプのカードを一枚。
「『神秘の鏡』、生成!」
楕円形の鏡が具現化される。フワフワと宙に浮かぶその鏡は、表面が水面のように揺らめいていた。
・神秘の鏡
カードタイプ:アイテム
消費MP:80
効果:神秘の鏡の使用者が、消費MPが5以下でソーサリータイプのカードを使用するたび、そのコピーを作成して発動する(コピーの発動にMPは不要)。この効果は、カードのコピーでは誘発しない。
カードをコピーする行為は、同じコストで二倍の効果をもたらしてくれるため、非常に強力だ。
ただし、神秘の鏡でコピーできるのは消費MPが5以下のカードだけで、それらのカードはどれもこれも残念なスペックをしている。
コピーする効果は強力だが、コピーできる対象が限定されすぎているので、神秘の鏡はあってもほとんど意味がないアイテムなのだ。
だが、これから行うコンボにおいて、神秘の鏡はなくてはならないキーパーツになる。
俺はさらに、先日、天原さんと攻略した樹海系ダンジョンで手に入れたカードを使用した。
「連立式複製装置、生成!」
ポータブルDVDプレイヤーに似た、長方形の機器が出現した。
・連立式複製装置
カードタイプ:アイテム
消費MP:80
効果:連立式複製装置は、名前が異なるソーサリータイプのカードを1枚ずつ、最大2枚まで取り込める。連立式複製装置に取り込んだカードはなくならない。連立式複製装置に取り込まれたカードの一方と同じ名前のカードを使用したとき、連立式複製装置は取り込まれたカードのもう一方を発動する(この効果は連立式複製装置により使用されたカードでは誘発しない)。取り込まれたカードと違う名前のカードを使用したとき、連立式複製装置は消滅する。
連立式複製装置もまた、これから行うコンボのキーパーツだ。
そして、連立式複製装置に取り込ませる二枚のカードは――
「『命の対価』と『聖霊の恵み』!」
・命の対価
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:5
効果:命の対価の発動に際し、HPが15減少する。MPを20得る。このMPはカードを発動させるためにしか使えない。
・聖霊の恵み
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:5
効果:任意のMPを支払う。支払ったMPと同量のHPを得る。
命の対価は、魔力ブーストと同じくMPを得るカード。消費MPが半分だが、HPが減少してしまい、得られるMPも半分になっている。魔力ブーストの下位互換といえるだろう。
聖霊の恵みもイマイチなカードだ。治癒魔法に属するカードだが、回復したいHP分だけMPを支払わなくてはならない。効率が悪すぎる。
どちらもゴミアイテムと呼ばれてもしかたない性能。
だが、これらのカードも今回のコンボには欠かせない。
連立式複製装置に命の対価と聖霊の恵みを取り込ませて、俺はまぶたを閉じた。
連立式複製装置も、命の対価も、聖霊の恵みも、神秘の鏡も、いずれも扱いづらいカードだ。
だが構わない。扱いづらくとも構わない。
使いこなしてみせる。これらのカードを組み合わせて、勝利への道を作ってみせる。
ふぅ、と息をつき、まぶたを上げて――
「行くぞ!」
俺はコンボを開始させた。




