仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――15
翌朝。登校した俺が教室に入ると、天原さんの席を囲むように人だかりができていた。クラスメイトの三分の一はいるのではないだろうか?
一体、なにがあったんだろう?
俺が首を傾げていると、天原さんを取り囲んでいるうちのひとりである女子生徒が、俺に気づいた。
「警部! 勝地くんが登校してきたであります!」
「うむ! 行くぞ、警部補!」
俺に気づいた女子生徒が、ビシッと敬礼しながら隣の女子生徒にしらせ、隣の女子生徒が芝居がかった口調で頷く。
ふたりの女子生徒だけでなく、天原さんを取り囲んでいた全員の視線が俺に向き――
「「「「「「確保ぉ――――っ!!」」」」」」
「なぜに!?」
ドドドドドッ! と足音を踏みならしながら一斉に駆け寄ってきた。野生動物の一斉疾走を連想させる凄まじい光景だ。
俺はまたたく間にクラスメイトたちに取り囲まれる。
困惑のあまりキョロキョロオロオロしていると、先ほどの女子生徒のひとりが俺の肩をつかんだ。
「取り調べをはじめます」
「唐突すぎてわけがわからないんだけど!?」
え? 俺、なんか悪いことした? というか、このひとたちはどうして天原さんを取り囲んでいたの?
「被告人、勝地真に問います」
ただただ混乱していると、女子生徒が爆弾を投下する。
「あなたは天原白姫さんと付き合っていますか?」
「ぶふぅっ!?」
俺は思わず噴き出した。
「どどどどうしてそんな話に!?」
「証言があるんだよ、勝地くん」
警部を演じていたもうひとりの女子生徒が、教師の仕草を真似るように人差し指を立てる。
「昨日、勝地くんと天原さんを校舎裏で目撃したひとがいるんだけどさ? 天原さん、勝地くんに『わたしはあなたに憧れています』って言ったそうだね。これはもう、疑いようがないよ」
俺はすべてを悟った。
その目撃者は天原さんの発言を聞いて勘違いしたのだ。天原さんの言う『憧れ』は、『異性に対する憧れ』なのではないかと。告白なのではないかと。
その前の部分は聞いてなかったのかなあ!? 『探索者のひとりとして、ひとりの人間として』って天原さんは言ってたんだけどなあ!
頬をひくつかせる俺に、ふたりの女子生徒が身を乗り出してくる。
「それで、勝地くんは告白を受け入れたの!?」
「天原さんに聞いても、『勝地くんとの約束があるので話せません』の一点張りなんだよね。だから、勝地くんが教えて」
どうやら天原さんは、俺と交わした『関わり合いのないように振る舞う』約束を守ってくれていたらしい。だからこそ、『俺と関わりがある』ことがバレないよう、しらを切っていたみたいだ。
けど、今回ばかりは逆効果だったね! そもそも、『勝地くんとの約束があるので』って言っちゃったら、『俺と関わりがある』ことがバレちゃうんだけど!?
天原さんは、クールで頭もいいけれど、ちょっとだけ抜けているみたいだ。
俺は頭を抱える。そのあいだも、ふたりの女子生徒は目をキラキラさせながら、「さあ、早く早く!」「観念して洗いざらい吐いちゃいなよ」と急かしてくる。
女の子は恋バナが大好きらしいけど、事実みたいだ。
ふたりの勢いに気圧されつつ、俺はブンブンと首を振った。
「いやいやいやいや! 俺と天原さんはそんな関係じゃないよ!」
「「……からのー?」」
「だから違うって! なんでそんなに疑うの!?」
「だって天原さん、この前、勝地くんに話しかけてたし」
「そーそー。天原さんが自分から話しかけるなんて、なかなかないのにさ」
俺と天原さんが協力関係を結んだ日のことを言っているのだろう。たしかにあの日、天原さんは俺に話しかけていたし、それが原因で、俺と天原さんが親しい間柄ではないかとクラスメイトたちに疑われた。
「楽になろうぜ、勝地くん」
「本当はどうなんだい?」
「付き合ってません! そもそも、天原さんが俺を相手にすると思う!?」
「「正直、思わない」」
「喜んでいいのか悲しんでいいのか!」
そこまでズバッと答えなくてもいいんじゃないかなあ!? 高嶺の花の天原さんに俺が釣り合ってないのはたしかだけれど、もうちょっと悩んでくれてもいいんじゃないかなあ!? 疑いが晴れたのはよかったけど、流石に即答は傷つくよ!
あまりの理不尽さに肩を落としていると、女子生徒のひとりが「でもさー」と続けた。
「完全に脈なしってことはないと思うなー」
「…………はぇ?」
予想外の言葉にポカンとする。
「同感。告白したってのがあたしたちの早とちりって可能性はあるけれど、天原さんと勝地くんがふたりっきりでいたのは事実だし」
「それに、微塵も好意がないひとに、憧れなんて抱かないしねー」
え? そうなの? もしかしたら天原さん、本当に俺のこと、そういう対象として見ているの?
カアッと全身が熱くなる。
そんな俺を見て、ふたりの女子生徒がニンマリ笑った。
「警部、被告人は虚偽の発言をしていたようです」
「よし、取り調べを再開しよう」
「誤解だってばぁあああああああああああああああああああ!!」
疑惑再燃。
男子生徒全員と、約半数の女子生徒が、憎悪の視線を向けてくるなか、俺は身の潔白を訴えた。




