仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――8
探索開始から一時間半が経ち、俺と天原さんはダンジョンの最奥にたどり着いた。
最奥は周りを木で囲まれた楕円形の広場で、開けた頭上からは曇り空が見える。
天原さんが言うには、ここにいるロードモンスターを倒した先で、俺たちの目的である霊薬樹の琥珀が手に入るとのことだ。
依頼達成はもう目前。
しかし、木の陰からロードモンスターを確認した天原さんは渋い顔をした。
「よりによって『グランドネクロマンサー』が相手ですか……」
広場の中央にいたロードモンスターは、三メートルほどの身長をした人型。黒いボロボロのローブをまとい、フードを目深に被っている。ローブから覗く両腕は青白く、どことなく屍を連想させた。
「強敵なの?」
「そこまでではありません。少なくとも、わたしとAランク以上の探索者がひとりいれば、まず負けることはないでしょう」
俺の質問に答え、「ただし」と天原さんが続ける。
「厄介な敵ではあります。グランドネクロマンサーは、スキル『死霊召喚』を持っていますから」
「死霊召喚?」
「アンデッド系のモンスターを喚び出すスキルです。喚び出されるアンデッドはCランクダンジョンに生息するモンスター程度の強さですが、問題はその数。死霊召喚は、一度に五〇体以上のアンデッドを喚び出すのです」
「五〇体以上!?」
俺は目を剥いた。
一体一体の強さはそれほどではないらしいけど、喚び出される数が尋常じゃない。グランドネクロマンサーの戦法は、物量でのごり押しみたいだ。
「ですから厄介なのです。カードを使った勝地くんの戦術は強力です。ただ、問題は勝地くん自身のステータス」
「俺のステータスはEランクダンジョンのモンスターにも苦戦するレベル。喚び出されたアンデッドが俺を襲ってきたら、ピンチになるかもしれないってことだね?」
「ええ。もちろん、喚び出されたアンデッドは、タウントを使って全力でこちらに引きつけます。ただ、万が一がありますから……」
天原さんが唇を引き結ぶ。
天原さんの意見はもっともだ。天原さんは最高クラスの盾役。それは、ここまでの戦闘で充分わかっている。アンデッドが五〇体以上出現しようとも、天原さんなら難なく倒しきれるだろう。
懸念材料はやはり数だ。一〇体、二〇体程度なら問題なく引きつけられるだろうけど、五〇体以上ともなれば、何体かは俺に向かってくるかもしれない。
それに加えて、グランドネクロマンサー自身もいるのだ。相手モンスター全員を引きつけるのは、天原さんでも骨が折れることだろう。
かといって、俺が戦闘に参加しないと、流石に天原さんの負担が大きすぎる。俺と天原さんが一緒に戦い、なおかつ、グランドネクロマンサーが喚び出したアンデッドが、俺に向かってこないように工夫する必要があるのだ。
策を練らないといけないね。
俺はまぶたを閉じ、いままで考えてきたコンボを思い出す。
グランドネクロマンサーが物量作戦に出てきたら面倒。それなら、最善の手は――
ひとつの案を思いつき、俺は目を開けた。
「うん。なんとかなりそう」
「本当ですか?」
天原さんが目を丸くする。
頷きを返し、俺は天原さんに作戦を伝えた。
作戦を聞いた天原さんは、唖然としたように口を開ける。
「そんな手があるなんて……」
「非道な戦術ではあるんだけどね」
頬を掻きながら、俺は苦笑した。




