仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――6
『キシャアァアアアアアアアアッ!』
奇っ怪な叫び声とともにモンスターが攻撃してくる。
枝の両腕、根っこの脚、目・鼻・口はうろ。
二メートルほどの、黒ずんだ木の体を持つモンスター――『ダークトレント』だ。
ダークトレントが、枝の先をかぎ爪のように振るってくる。
しかし、当たらない。
「ふっ!」
縦横無尽と振るわれるかぎ爪を、鋭く息を吐いた天原さんは、危なげなく防いでいった。
天原さんの大盾が、寸分の狂いもなくかぎ爪を受け止める。そのたびに白い粒子が発生し、無数の針と化してダークトレントに放たれた。
『キシャアァアアアアアアッ!』
無数の針に貫かれて、ダークトレントが苦しみ悶えるように体をくねらせる。
おそらくあの白い粒子が、防御成功時に、与えられるはずだった、ダメージの一部を返す、天原さんのスキルのひとつ『リフレクト』なのだろう。
天原さんは盾役としての仕事をきっちりこなし、ダークトレントのターゲットをとっている。俺も負けていられない。攻撃は俺の役目だ。
「英雄願望のトナカイ!」
スキル『正義の味方』の条件を満たす、二四体のカカシを並べたことにより、ステータスが最大値まで上昇している英雄願望のトナカイに、俺は指示を出す。
ガッ! ガッ! と地面を蹴り、英雄願望のトナカイがダークトレントの背中に痛烈な一撃をお見舞いした。
メキリ、と樹木が軋むような音。
『キシャアァアアアアアアアアッ!!』
ダークトレントが絶叫する。やはり、マックス状態の英雄願望のトナカイは、Aランクダンジョンのモンスターとも渡り合えるらしい。
ダークトレントが振り返り、英雄願望のトナカイをギロリと睨み付ける。その目からは憤怒が見てとれた。
ダークトレントが、天原さんから英雄願望のトナカイへとターゲットを移したのだ。
「『タウント』」
即座に天原さんが、モンスターの狙いを引きつけるスキルを使用する。
大気の揺らぎが発生し、ダークトレントが天原さんに向き直った。ダークトレントのターゲットが天原さんに戻ったのだ。
対応力・判断力・安定感――すべてにおいて、天原さんは並の探索者を凌駕している。ダークトレントの攻撃を淡々と捌く様子は、さながら精密機械のよう。
これがSランクパーティーの盾役……!
天原さんの惚れ惚れするほどの立ち回りに感動を覚えながら、俺はなおも英雄願望のトナカイに攻撃を命じる。
それから五分後。
『キ……シャアァ……』
ダークトレントが地面に倒れ、ドロリと溶けて消えていった。
二四体のカカシと英雄願望のトナカイも同時に消滅する。戦闘終了の証だ。
英雄願望のトナカイは最後まで、一発の攻撃も食らわなかった。天原さんが盾役として優秀すぎる。
大盾を地面に下ろす天原さんに近づき、俺は右手を挙げる。
「やったね、天原さん!」
「はい。お疲れ様でした」
天原さんも右手を挙げ、俺たちはハイタッチを交わした。
「こんなに戦いやすかったのははじめてだよ。天原さんのおかげだね」
「お役に立てたのならなによりです」
俺が褒めると、天原さんはほんのりと頬を赤らめて目を細める。どうやら照れているらしい。
以前より、だいぶ表情が豊かになったなあ、天原さん。
もしかしたら俺に気を許してくれたのかもしれない。だとしたら非常に喜ばしいことだ。
天原さんにつられるように笑顔を浮かべていると、ポコン、という音とともに宝箱が出現した。
「ドロップアイテムだね」
「ええ。開けてみましょう」
天原さんが宝箱の蓋を開け、中身を取り出す。
宝箱に入っていたアイテムを確認して、天原さんが口角を上げた。
「お目当てのアイテムですよ、勝地くん」
天原さんが俺にアイテムを渡してくる。六枚のカードだ。
思わず俺は、「おおっ!」と歓声を上げた。
「カードはお譲りする約束ですからね。どうぞお受け取りください」
「ありがとう!」
どこか微笑ましいものを見るような表情をした天原さんからカードを受け取り、俺は目を通す。
「おっ! これは面白い!」
そのなかの一枚に、俺は興味を引かれた。




