19 1-19 簡単な仕事
盗っ人視点です。
今日はペンギンパークのオープン初日。
凄い人混みだ。
浮かれている奴しかいない。
そこらじゅうのズボンのポケットに、取ってくれと言うように入っている財布。
入場料は余裕で帰ってくる位には稼げるだろう。
そう思って楽しくスリをしていたというのに、俺が2つ目の財布を手に入れた時、後ろから声を掛けられた。
「お兄さん、盗みはダメですよ」
フードを深く被っていて、前髪も長く、マスクもしていたので、顔もよく見えない男だった。
「兄ちゃん何言ってんだ?」
「とぼけてもダメですよ。写真も撮ってしまいましたから」
「なっ!?」
そう言って携帯に写る写真を見せてきた。
俺が財布を抜き取るところがしっかりと写っている。
どうするか……
コイツ弱そうだし、この携帯を奪うか?
だが、この人混みだと目立つしな……
「でも、安心して下さい。警察に知らせたりしませんから」
「はぁ?」
「実は簡単な仕事をして頂きたいんです。やって頂ければ写真も消しますし、お礼もお支払致します」
「簡単な仕事?」
「はい。実は僕、あそこで案内をしている子が好きなんです。だから、あの子に絡む役をやっていただけませんか? 僕があの子を助けに入るんで、やられたふりをして逃げてください」
そんなことか……
確かに可愛い子が目立つ服で案内をしてるな。
そんなことで金が入るなら余裕だ。
「いいぜ! その仕事やってやるよ」
「ありがとうございます! では、準備ができたら連絡するので、よろしくお願いしますね」
電話番号を交換しその男は離れて行った。
俺は連絡が来るまでその子を見ていた。
ニコニコと笑顔を振り撒き、道を案内をしたり、1人でいる小さな子どもと話したりしている。
しかし、近くに男も一緒にいた。
雰囲気的にはあの子の彼氏に見えるが……
美男美女カップルでお似合いな感じだ。
確かにあの美男君に勝つには、不良をやっつける位のインパクトが必要なのかもしれないな。
だからといって盗っ人に頼るとか、なかなかクレイジーな兄ちゃんだ。
♪♪♪♪♪
連絡が来た。
さて、やってやるとするか……
「おい、姉ちゃん。俺にこの店の行き方教えてくれよ」
「こちらはすぐそこのお店ですよ」
「そうか、なら姉ちゃんも一緒に来てもらおうか。奢ってやるから」
「いえ、遠慮致します。私、仕事中ですので」
「いいから、いいから」
俺は無理矢理に連れて行こうとした。
さぁ、そろそろだろ。
来いよ兄ちゃん。
「おいっ! その手をはなせっ!」
あー、美男君……
君は違うんだよ。
こっちも仕事なんでな、君には痛い目にあってもらう。
「うるせぇ! 関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」
俺は美男君に殴りかかった。
しかし手応えはなく、流されるような感じで手を捕まれ、柔道か何かの投げ技のようなものをされていた。
美男君強すぎだろ……
くっそ、いってぇ……
「こんなの、聞いてねぇぞ……」
「おい! 聞いてねぇってどういうことだ!? 誰かに麻里奈の所に行けって頼まれたのか? まさかっ、葵!?」
何を勘違いしたのか、美男君は携帯で誰かに電話し始めた。
「葵っ! どういう事だよ! こんなことして、もし麻里奈が怪我でもしたらっ!」
俺は体が痛く動けずにいた。
美男君は電話で誰かを怒鳴り付けていた。
周りの奴等は関わりたくないといった様子で、去っていった。
美女ちゃんが、落ち着いてと美男君に近づいた時……
バーン!
遠くで花火のような音がして、目の前で真っ赤な液体が弾けた。
そして、美女ちゃんは倒れた。
違う、おかしいだろ……?
俺は簡単な仕事をやるだけのはずだったんだ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)