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リスポーン

あの時、わたしは、リスポーンした。

そのあと、逃げ出したのだ。


覚えていなかったわけじゃない。

色々まとめて忘れたかっただけだ。


ホッとして、忘れなくても大丈夫だと思ったから、思い出したのだ。


異世界から転生してきたのだから、この世界でも蘇生したっておかしなことはない。

死に戻りとか、そんな小説もあったじゃない。

死んでも大丈夫って考えたら、選ばれし者みたいでいいじゃない。


死ぬときのことも思い出した。

痛かった。

苦しかった。

そうだ、この体は夢や幻じゃない。

死ぬほど恐ろしかったんだ。


この世界は、精霊の理でできてるんだ。

地球とは違うんだ。

それでいいじゃない。

ゲームの中に、入り込んだみたいに思っとけば、いいじゃない!


考えが、でたらめに浮かんでは消える。

自我を、どうにかして守ろうとしてるみたいに。

ガタガタと、震えが止まらない。

どれだけ強く、自分で自分を抱きしめていても、止められない。

「ぅああああー!」


叫んだ。

その時。


目の前に、有翼の女戦士(ワルキューレ)が現れた。

本能的に、察知する。

これは、共存できない存在だ。


◇◇◇◇◇



イッシキは、家に入ると立ち止まってじっとしていた。

部屋の一角を見つめて固まっている。

誰かそこで倒れているのかと焦って戸口に近づいたが、イッシキが見つめている方向には特に何もない。

俺には見えないが、イッシキには何かが見えるのか?


と、イッシキがガタガタ震えながら叫びだした。


「な、なんだ、どうした!?」

イッシキのそばに駆け寄る。


何か全身が重くなる圧力のようなものがグワっと感じられ、戦乙女のような恰好をした少女がそこに降り立った。

精霊召喚みたいな術か? いや、イッシキの様子はおかしい。


「イッシキ、撤退します! ジョウチャク!」

防具を装備しつつ、イッシキの腕を掴んで家から引きずり出す。

逆の手で、石壁を戸口に詰め込んでおく。


油断したっていうかなんだ、あれ。

人間離れした存在ってわけじゃないが、いきなり家の中に現れた。

「イッシキ、あれは何ですか? 人間?」

問いかけるが、イッシキは真っ青な顔で唇を堅く閉じている。


「とにかく、隠れましょう」

まさか俺がイッシキを連れて逃げ回ることになるとは!

家の中から、ボコボコボコという物音が聞こえている。

土壁を一瞬で吹き飛ばすような力はないのか…?


相手の索敵能力の見当が付かないので、物陰からシャベルを使って地中に逃げる。

背後の穴は、すぐに土で埋めていく。

この間2秒。

土魔術っていうかアリジゴクにでもなった気分だ。


ちょっと地中にスペースを作り、イッシキを壁際にもたれて座らせる。

「様子を見てきます。危険なことはしません。あれが何だか、イッシキも知らないんですね」

イッシキが弱々しく首を縦に振る。


シャベルで静かに地中を掘り進む。

少し経つと、足音が聞こえた。

何というか、普通の人間ぽい。

金属のブーツを履いているが、子供か? 音はやや軽い。


冷静になって、さっきの光景を振り返る。


一瞬前にはいなかった。

黒い小さな翼のようなものを広げていた。

ヘルメットをかぶっていた。

体は服っぽかった。

剣と盾を持っていた。

背丈は小さかった。


そうだな、俺は特に危険を感じなかった。

イッシキは、知らない存在なのに危険と感じた。

俺にとっては、そうじゃないってことか?


いや待て、イッシキは、あれが登場するより前からおかしかった。

混乱の中で出てきたからパニックになっているのかもしれない。


「すいませーん。まだ近くにいるなら、出てきてもらえませんかー」

イッシキ、じゃないな。

地上から聞こえる。

イッシキと話し合うか。


戻ると、イッシキの姿はなかった。


◇◇◇◇◇



声が聞こえる。

頭の中はぐちゃぐちゃだが、なぜだかこの声の主とは話し合う必要があるのだという気がしてくる。

頭上の土を削って外へ出る。

声が聞こえた方向へ向かう。


ワルキューレと思ったそれは、剣と盾で武装した少女だった。


「ジョウチャク!」

なんとなく習慣になっているその文句を使って精霊化を解除し、防具を身にまとう。

剣は……あまり役に立たないだろう。

両手に精霊を持てるだけ握りしめる。


女が、手を挙げたまま話しかけてくる。

「ジョウチャクって何? っていうか、その防具、どうやって全部揃えたの……?

何かイベントっぽいダンジョン?」


いきなり断片的な話だ。

一体なんで? 剣を収めているのに、まだ危機感が消えない。

だが、話をしなければならないのだろう。


「えっと、あなたは敵ではない、ということでよろしいでしょうか」

「うーん、敵かどうかはまだ分からない、かな。

私もついさっきここに飛ばされたばっかりで、どこかも分からないけど、その聞き方だと、このワールドはチーム戦のPVPマップだったりするのかな?

その意味では、困った状況にあるわけで、あなたと情報交換できれば助かるってのは間違いないわね」


「ええと、何をおっしゃっているか分からないです」

イッシキは困惑した。

一節一節の意味は分かる。言葉としては。


「なんだか、ゲームみたいな言い方なので」

「え、違うの?」

その女は、言った。


◇◇◇◇◇



イッシキがいない。

さっき作ったスペースの形が変わっている。

土を入れ替えて、地上に出たらしい。

なにしろ状況が分からない。

追いかけることにする。


地上に出ると、イッシキはさっきの少女と向かい合っていた。

緊張感は漂っているが、少女は剣を収めており、二人は会話をしている。

一応中立くらいの関係になっているのか?

悩ましいところだが、いざという時のためにちょっと引いたところから隠れて監視しておくか。

特別に探知能力が高いということもなさそうだしな。


改めて眺めてみると、イッシキと同じくらいの背格好で、背中の小さな翼は畳まれている。

翼人とかそんなんではなく、装備品のようだ。作り方の見当もつかない。

剣やヘルメットはボンヤリと輝いていて、マジックアイテムみたいな感じか。これもどうやって魔力を付与するとか、全く分からないな。


かなり高価そうな装備ということは間違いない。

あと、冒険者感が半端ない。

俺たちなんて、村人みたいな恰好の上にいきなりメタルスーツオンリーだからな。


小説なら、出会った奴らはみんなトモダチ、仲間になりたがっているようだ、ってなるんだけど……



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