表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/26

訓練が一段落したところで、拠点に戻る。

水場を案内する約束をしていたからだ。

長老のテントは、集落の中央にある。

集落の外れに作っている拠点から歩いていくと、途中に放置された畑が見えた。


精霊術が使えるようになった最初の頃に、勢いで耕していったのだが、もともと農地などなかったのだから、種がたくさんあるわけがない。ほんの一部に植えただけで終わってしまったらしい。

あとのスペースはどうしようもなくて、今はチョロチョロと草が生えている。


水が使いやすくなれば、今植えてある作物だけでもマシに育てられるだろうか。

それにしても、我が氏族の貧しさよ。

皆、こんなに働いているのになぁ。


しかし、これだけ働き者が揃ってるんだから、もっと違う土地でやり直した方が良かったんじゃないか?

やっぱり、先祖が暮らしてた土地ってのは特別なのかなあ。

貧困問題と、氏族の苦難の歴史に想いを馳せるアインであった。


「ねぇ。アイン」

「なんでしょう、先生」

「あの雑草、いつからあんなに伸びてたんでしたっけ」

「そう言えば、耕してから、まだ数日ですね」

「何かが起こっている気がしませんか」

「これは…… イッシキ先生の出番なのでは」


俺が抜いても草は草のままだったが、イッシキが草を抜いてみると、何本かに一本か、草の先端から小さな薄茶色の小精霊を生み出していった。

「イッシキさん、またよく分からないことが起こりましたね…」


「戻って」

回収した小精霊にイッシキが声をかけると、そこには数粒の麦のような種が現れた。

イッシキは、難しい顔でそれを見ている。


「まだ、これを蒔くのはちょっと待ちましょう。種を集めるのも、皆に見られないタイミングにしておきます」

「そ、そうですね。まずは、長老のところに行かなくては」


困った。

これはいかんヤツだ。


あの種は、きっとよく育つだろう。

麦みたいな作物だとしたら、収穫から、結構な勢いで再生産も出来るはずだ。


だが、あの草が生えてくるには俺の鍬が関係している。

草から種を回収するには、イッシキの力が必要だった。

栽培か、収穫か、採種か、播種か。

どんな組み合わせになるかはまだ分からないが、どこかの段階で精霊術が必要になる可能性が高い。


俺たちの力で、皆が今より豊かな暮らしをできるようになる。

それは、可能だろう。

だが、俺たちがいなくなったら。あるいは、力が働かなくなったら。その時には、もう元には戻れなくなっているんじゃないか?


◇◇◇◇◇



アイン達が、やってきた。

今日は、洞窟の中で精霊術の訓練をしていたという。

どれほどの修行なのか、土ぼこりが背中や肩にまで舞った跡がある。

イッシキは、アインの精霊術はかなりの速さで上達しているのだと嬉しそうに語っている。

しかし、アインの表情は厳しかった。


「アイン。何か、儂に語らねばならぬことがあるのだな」

「はい、長老さま。氏族の行く末に関わることでございます」

「うむ、聞こう」


「我々は、大いなる実りをもたらすであろう種を、見つけました。水を運び、畑を広げていけば、この地でも農耕の民として暮らせるやもしれません。

日々の糧を探して流離わずとも生きられる途でございます」


「うむ。だが、その途に、おぬしは不安を掻き立てられておるのじゃな」

「はい。この種は実りをもたらしますが、おそらく私やイッシキがおらねば実らせ続けることができません。しかし、我々の力がいつまでもあるものとは限りません。ひとたびその実りに頼って暮らし始めたならば、もう元の暮らしには戻れぬのではないか、滅びへの誘いなのではないかと恐れているのです」


「アインよ。よく話してくれた。

ならば儂も、そなたたちに話しておかねばなるまい。

今の我らの苦難に満ちた暮らし、これこそがそなたのいう滅びの結果なのだということを」


「かつての守人は、この地に繁栄をもたらした。しかし、その繁栄は守人なしには続かぬものだった。

やはり、そうなのですね。

そのような繁栄は、望まぬ方がよいものなのでは……」


「アインさま」

イッシキが、アインの前に歩みでて、語る。


「いっときのこととて、良いではありませんか。

冬が来れば葉が枯れ落ちるのを知りながら、春に芽を出すのが、命ある者のわざでありましょう。

いつか訪れる死があるとしても、日々の全てが無為に思われるというのは、あまりに哀しい考えにございます。

今は、ただ我々の日々に実りをもたらし、それから皆がその実りを長らえることができるよう、また努めていけばよろしいではないですか」


その場では、決断を下すことが出来なかった。

ちょうど、水場へ行く者達が集まってきたこともあって、うやむやのままに二人と外へ出ることとなった。


アインの苦悩は、儂にもよく分かった。簡単に答えの出る話ではない。

だが、イッシキがあのように自らの考えを語るとは思わなかった。ただ守られるだけの者ではあるまいと考えていたが…


◇◇◇◇◇



あー、なんかいきなりアインが迷いだしたし。

朝の特訓の成果はどこ行った。


文明開化で戻れないってそれは仕方なしじゃん!

知恵の実でもなんでも育てちゃおうよ。

もうアインがアダムでわたしがイブでって、違う違う、何を考えているんだ。


あの麦みたいな作物を育てることについて、わたしが心配してたのは、防衛手段皆無の現時点で、いろいろ呼び寄せちゃうような農地広げることだった。

これから先、地上で何かを作って行くには、避けられない課題があるのだ。


そう、あいつら。あの、盗賊たち。


集落の人たちと一緒に水場に向かいながら、わたしの脳裏には、あの呪われた土塁の影が浮かんでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ