災厄
生死の境にたったことがあるだろうか?
たったことがなくても、人は日常的に生死の境にいる。
否定するかもしれないがそれは事実。
じゃあ、問おう。
今この話を読んでいる最中に君は死ぬかもしれない。
死因が心臓発作と言われるかもしれない。
とにかく、どんな要因であっても人は突然あっさり死ぬのである。
殺そうと思って殺そうとすればなかなか死なない。
殺そうと思ってないのに殺そうとすればあっさり死んでしまう。
意図的に狙った交通事故は犠牲者はでにくい。
偶然起こってしまった交通事故は大量の犠牲者を出す。
...結局可能性の話だ。
確証も証拠も何も無い。
そもそも可能性に証拠がいるのか?確証がいるのか?根拠がいるのか?
俺―社は要らないと思う。
なぜなら...
あったところで説明のしようがないからだ。
誰かが社を揺さぶっている。
...恐らく弟子の仕業だろう。
重傷者に絶対してはいけない行為だが、師である自分同様、弟子もまた呪術が使えるので改良型禊の術を使用し彼の傷を癒したうえでこうして揺さぶっているのだろう。
「師匠!しっかりしてくださいっ!!」
重傷者相手にしてはいけない行為をしているからてっきり顔はふざけてるんだろうな、と思っていたが全く予想とは違い、かなりガチで心配していたようだった。
「...ぅっ!」
思わずうめき声がでてしまった。
それを聞いて弟子がパニックに陥りそうだったので宥めること小1時間。
パッポー、
という鳩の声が聞こえてきそうな程時間がかかってしまった。
「ほ、ほんとに大丈夫なんですね?」
うわ、まだ心配されとるやんけ...
「大丈夫だと何度言えばわかる...」
「うう...だって...」
ぐず、と目に涙を一杯溜めていた。
...少し反省することに決めた。
「もう、ほんとに心配したんですよ?」
「うっ...!済まない...」
相手が本気で心配してたのにふざけてたと思い込んでた自分が恥ずかしい。
穴があったら入りたい気分だ。
弟子は官邸の広間をきょろきょろ見て
「首相は?」
「...逃げられちまった。っていうか俺に飽きたらしい」
あの後ほんとに姿を晦ましてしまったようだ。
全く、あいつは人の命をなんだと思ってやがる。
俺の背後に回るという目的だけのために30人が犠牲になった。
あいつからすれば子供だけではなく、大人もまた駒の一つに過ぎないのだろう。
その認識だけは例え敵わなかったとしても正してやらねばなるまい、と彼は決心した。
おぉ...!ここが先輩の家か。予想通り
特に何も無い!
...いや、別に何か特別なものがあると期待してたわけではなくて、主人公肌の先輩のことだからきっと普通の高校生が持ってないようなものでもあるのかなぁ、って決して思ってなかったですはい。
...と我ながらくだらないことを思っているわけだが、勿論表には出てない。
何度も言うが私は感情表現が苦手だ。
にっこり笑って、と言われたら物凄くぎこちない笑い方になるし。
泣いてみて、と言われたら無表情のままダ〜って涙を流すことも可能だ。
そんな無表情クールキャラみたいなポジションを自動的に頂いてしまったが、決してそれを認めている訳ではないのでそこ重要!
...ごめんなさい、話が脱線しましたね。
というわけで、私――藍は先輩の家で治療を終え、一食一泊の世話になることになったのだ。
......先輩って
......専業主夫にでもなるのかな、めちゃくちゃ料理上手なんですが...
おまけに家事全般全部こなしてる。
これは将来の嫁として負けるわけにはいかない。
私は家事は女の役目だと思っている(決してそういう風に頭に叩き込まれた訳ではなく、自分からそう思ったのである)。
だから...!
「...先輩」
「どうした?後輩」
深呼吸
「これからこの家でお世話になってもいいですきゃっう」
思いっきり噛んでしまった。
お台場、某ビル
「東京の夜空は綺麗だねェ〜」
首相は夜景を眺めてにやにやしていた。
背後からの気配に気づきながら
「後ろでコソコソやってるドイツのクソガキがいなきャ〜よォ〜!!」
ドカァァァンッ!!という漫画みたいな爆発音をたてながらついさっき拾った小石が飛んでいく。
だが、
四方からライフル弾が石を消滅させる。
「凄いですね〜、どうして僕がドイツ人だってわかったんですか?」
全く違和感のない日本語である。
目を閉じて聞けば日本人が喋っているように聞こえただろう。
「おめぇさんのそのふよふよ浮いてる銃、FG-42だろ?そして、腰のホルスターにはモーゼルC96、おまけに背中にMP18ときた。ドイツ帝国塗れじゃねーかよォっ!」
再び小石を投げる。
直撃すると新たなクレーターがビルの屋上に現れた。
だが、少年は無傷。
「首相、お命頂戴致します。」
「それは忍者や武士が言うセリフだっつーの」
互いの間合いは5m。
首相が飛び出すのと、少年はがモーゼルを構えたのは皮肉なことにほぼ同時だった。
こうして、最強対異形の戦いが始まったのだ。
これは理想郷を作る課程で起きた、惨劇―或いは喜劇の一つ。
『災厄』
これは後世にまで語り継がれた理想郷建造に関わる闘争。
だが、主役の彼らは決して記録に載ることはない。
永遠に




