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HEΓP  作者: 天夢
-Chapter02-
10/22

全知纏:2

11/16(土) 11:40 p.m.


 女の子というこの世の天使たちが幼い頃、皆分け隔てなくお人形遊びという遊戯をしていたのだろうか。

 残念ながら私にはその記憶がないので、この問いに正確な答えを出すことは出来ない。

 ただ記憶にないだけで、もしかしたら私も幼い頃にやっていたのかもしれない。不確定で答えを出すのは時期尚早、多分で答えて他聞されて、間違っていたら大変だ。正直者が売りの私が、嘘つきになってしまう。

 まあまあまあ、天使たちの経験率が100%かどうかの問題はとりあえず隅に置いておいて、幼い頃という括りを省いても経験者達に混ざることができるのなら、私も美しく成長した女神たちのお遊戯経験談に参加することができるだろう。

 参加できるというだけで、体験談を話すことは、とてもじゃないけど出来なさそうだけれどね。

 彼此、もう5着目くらいの試着を終えた椿姫さんは、少し疲れた風に試着室のカーテンを雑にスライドさせて出て来た。引っ張られたカーテンレールが、ぎゃぎゃぎゃと悲鳴を上げる。

 リクルートスーツ、タイトスカートに身を包んだ金髪の美少女。私の勝手な好みで黒のストッキングを履いてもらったのがじつに正解だった。なんとも美しい。

 私が面接官なら3秒で合格即私の秘書にする。君は私のお茶だけ汲んでいなさい!

 スラッと長いおみ足がとてつもなく唆る。性的な意味でそそる。撫で撫でしたいし、スリスリしたいし、挟まれたい。

 お人形遊びはこんなに楽しいものだったなら、幼き私が遊ばなかったというのはあり得ないのではないかと思えてくる。私は遊んだ記憶がないのではなく、本当に女の子の楽しみを全く未経験のまま16歳になってしまったのか……勿体無い!

 代わりに今とっても美味しい気分だけれどね。カメラがないのが物凄く心残りだ。


「おい…もういいだろ」


 心底疲れたという風に椿姫さんは言った。頭を左手でガシガシと掻き、右腕を伸ばして試着室の壁に寄り掛かり、気だるそうに脚を交差させる姿は、さながら残業上がりの新人社員と言ったところだ。いいね。私が直々にそのお御足をもみもみしてあげよう。


「どれも似合っていたからいいじゃないか。それに、テキトーに私服を選んでくれと言ったのは君だよ?」


 町の案内の一環として、まずここでの一番最先端スポットであるヒトトセデパートへと向かっている時、私が椿姫さんの大雑把な私服のチョイスについて、ひとことで言うと君の外見には酷く似合っていない。と指摘したのがことの発端だ。

 デートにしては赤点!とも言ったのだけれど、見事にスルーされてしまった。

 それから追及してみると、なんとジャージ以外の私服はパジャマぐらいしか持っていないとのことだった。

 また彼女にしつこい誘いをかければ一緒に出掛けることがあるだろうし、その時にジャージ以外の私服にして欲しいと希望したとする。

 持っていないからという理由で、パジャマ姿の椿姫さんと真昼間から一緒に行動することになってしまったら、いくら偏屈な私でもそのミスマッチな光景には困ってしまうだろう。


 私の興奮を、私の理性が抑えられない。


 と、いうわけで。なぜこの状況になったのかというと、私が私服を見繕ってあげようと申し出ると、どうやら椿姫さんは私の私服にどちらかというと否定的な発言をしていた割には、センスを否定していたわけではなかったらしく……いやいや、そこのところは特に追求もしなかったので判断し辛いのだけれど、思ったよりも随分あっさりと私の申し出を受け入れてしまったために、こうして私の手に落ちて着せ替え人形になることを強いられてしまったというわけだ。

 本気で嫌がってくれれば、こんな私だって無理強いはしないというのに。

 多分。きっと。恐らく。


「確かに、服の選び方なんて知らねぇからお前に頼むと言ったが、スーツやらメイド服やら、その類が私服に該当しないことぐらいわかってるっつーの…」


 視線を宙に泳がせ、おそらく自分が数分前に言った言葉を思い出しながら小春さんは的確に端的に、とくに面白いわけではない当たり前のツッコミを入れてきた。

 はっはっはー。私は椿姫さんの私服を選ぶよりも、可愛くて綺麗な女の子を着せ替えしてニヤニヤしたかっただけなのだー。


「ニヤニヤするな」


 おっと。


「まあまあ。新しい経験が出来たから良しとしようよ。特にメイド服のベストマッチぶりは凄かったと私は思うね。全然家事をこなす気がなさそうで、従うつもりもなさそうなメイドさんだったけど。それが逆に私好みというか躾甲斐があるというか」

「……帰る」

「ごめんなさい御主人様」


 即、土下座。おぉおう床がちべたい。

 数秒そうしていると、命一杯息を吸い込んだため息が落ちてきた。拾えないのは非常に残念ではあるけれど、私は腕を使って面を上げる。

 視界にはさっきと同じポーズのまま、ガックリと、肩というよりは首を落として項垂れている椿姫さんの姿が映る。


「誰が主人だ誰が。いいから、謝る暇があるならさっさと見繕ってくれ。私服だからな」


 ちょろい。この女、ちょろ過ぎる。

 本当はまだまだ着せてみたい服があったのだけれど、これ以上は椿姫さんのストレスにしかならないだろうから、素直に私服選びをはじめよう。

 私は椿姫さんに元の服装に着替えるように促して、ファッションフロアを見渡し、次の服屋さんを探しならそれを待った。土曜日ということもあり、人口の少ない片田舎のデパートと言えど、それなりに賑わっているようだ。

 恐らく、今ここにいる人達の半数くらいは隣の村とか町とか、町外から来た人達だろうけれど。

 何故ならこのヒトトセデパートは、この好世町唯一の駅に繋がっていて、交通の便がかなりいいからだ。

 好世町自体は片田舎で、観光スポットがあるわけでもないので人で賑わうなんてことはないけれど、ここはなんといっても最先端。町民だけではなく、町外の人達まで集めるのは用意に想像できる。

 だけど、好世の町民がこのデパートに少ないことには別の理由がある。

 一度この町を出て、都会で営業などの勉強をしてきたと噂の好世出身の一年さんが、この町の活性化のためにと建てたらしいのだけれど、残念ながら色々あって町民とうまくいっていないらしい。そんな話をお婆ちゃんから聞いた。そのせいで商店街が儲からなくなったとかなんだとか。子供の私が用意に関わっても話がややこしくなる可能性があるので、私は深くは尋ねず、深くは関わらないことにしているので、この程度の情報しか知らないが。

 確かに、うちの売り上げはデパートがなかった頃に比べたら減ったのかもしれない。


「おい全知。これはどこにあったんだ?」


 着替えを終えて出てきた椿姫さんは、魔法で着る前の状態とまるっきり同じにしたのではというくらい綺麗にハンガーにかかっているスーツを私に見せながら言った。服装と授業態度、制服の着崩し方からガサツな女の子なんだろうなと思っていた私にとって、それはとても意外だった。

 人は見た目によらないというより、人は見た目で判断してはいけないという教訓がより身に染みる。


「それは私が持ってきたんだから、私が返してくるよ」


 手を差し出すと、椿姫さんは素直に私にスーツを渡してくれた。

 自由になった両手を組んで体の前に出し、伸びをはじめた彼女の肢体をマジマジ眺め、適度なタイミングでスーツコーナーへ向かおうと身を翻す。

 そこで不意に気になった。そういえばフォルテをそとに置いてきたんだった。


「あ、そういえば椿姫さん。フォルテちゃんは一匹で置いてきても大丈夫なのかい?」


 彼女にそう尋ねると、ふとこのヒトトセデパートがオープンした日のことが思い出された。

 あれは確か、ヒトトセデパートはパット入店禁止という張り紙に対して、動物差別反対!と、抗議に来た商店街のペットショップのおっちゃんが叫んでいたのだ。

 いやいや、食品を扱っているのだからそれは仕方がないだろうに。

 商店街の様に、デパートは屋外施設ではないしね。本当、みんな好き勝手に叫んでいたなー。

 椿姫さんは、あー……と生返事をすると、ガシガシと頭をかきながら言う。


「あいつは大丈夫だ。一匹じゃどこにも行かねーらしい」

「ふぅん? つまり、懐かれてるってことかな?」


 さぁな。と、また抵当な生返事。むむむ、好感度アップにはまだまだイベントが足りないか!好感度をもっと鰻上りにすれば、ノリでビキニを着てもらうことだって出来るかもしれない!冬だけど!

 よし!さっさとスーツを元の場所に返して、私の素晴らしい私服センスを押し付けて好感度アップを図ろう!ビキニのために!

 そうと決まれば…と、私はスーツコーナーへと急いだ。

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