5:海賊!?
突然の出来事だった。大きく揺れた船体に、ぱっちり眼が覚める。
「何!?」
「リムノ、キッポ! 態勢だけは整えろよ!」
ルカスもキッポも起きている。わたしは、着けたままでいた魔道の額冠が、リミッターカットされているのを感じた。つまり。危険が迫っている証拠だ。再び轟音と共に、揺れが来る。浅黒く陽に焼けた船員さんが、階段を駆け下りて来て大声で言った。
「現在本船は、海賊からの攻撃を受けております! 万が一を想定して、救命ボートを用意してございます! 皆様、焦らず落ち着いた行動をお願い致します!」
海賊!? 今日にはシワタネに着くって言う、このタイミング。Dルームがざわめきに満ちた。わたしたち、タイミングが悪ことばっかりね。船員さんがもう一度、
「ご順に甲板までご案内します。どうか落ち着いてください!」
いけない。パニックになりつつある。海賊の攻撃より、そっちの方がずっと恐ろしいって言うのに。ヘタをしたら、みんなが階段に殺到して事故が起きちゃうかもしれない。船員さんが再び叫んだ。
「共に戦って下さる方を求めています! 私の元までお越しください!」
少しざわめきが鎮まった。みんなびくびくした表情で、顔を見合わせるばかり。そんな中、ルカスが、
「オレたちが行く! 魔道士とドルイドもいるから、みんな落ち着くんだ!」
ちょっとー! 断り無しに名乗り出ないでよ。まあ、わたしも戦う気でいるけどね。でもやっぱりまだ、攻撃系の魔道を使うのはためらいがあるんだけど。
「ありがとうございます! 甲板へ!」
ルカスが階段へと小走りに行く。仕方が無い。キッポとうなずき合ったわたしは、ルカスの後を追う。船員さんが、
「甲板右舷です! 大砲で攻撃されているようでは無いんですが、炎の塊が!」
わたしはピンと来た。まず間違い無く、『灼炎』の魔道だわ。
「分かった」
簡潔にルカスは答えると、狭い階段をダッシュした。わたしとキッポも一段飛ばしで甲板に向かう。青空が見えて来た。甲板に出る。
船の右舷、中央付近に剛構造の細く鋭いダガーのような、海賊船が身を付けている。船員さんたちは炎の消火活動に必死で、ラダーをかけようとしている海賊まで手が回っていないようだ。敵も、燃やし尽くしてしまっては仕方が無いと考えてるのだろう。もう『灼炎』の魔道は使わないように見える。それだけのことを、魔道の額冠のおかげで、一瞬のうちに悟った。火の手の上がっている場所に、少し弱めた『氷嵐』をかける。氷系の魔道は、キッポとの旅でかなり使っていたから、わたしは消火に自信があった。ビンゴ! 炎を包むように吹雪が起こり、一瞬で消火が出来た。でも。
ラダーを身軽に跳ねながら、海賊たちが剣を片手にこちらの船に渡って来る。船員さんたちが何とか阻もうとしてるけど、戦い慣れている海賊と船員さんじゃ、力量に差があり過ぎる。簡単に侵入を許してしまっていた。海賊たちが甲板を駆け、Aルーム(一番高級な部屋ね)を目指そうとしている。ルカスはダッシュすると、先頭の海賊に長剣をなぎ払った。さすがルカス。確実に急所を狙い、抵抗出来なくなった相手を海へ蹴り飛ばした。キッポも反対側に走っている海賊に、ハルバードを叩き付けた。相手は剣で防ごうとしたけど、ハルバードの方に質量の利がある。剣を折り、肩までダメージを与えている。でも、なんせ数が多い。わたしも負けていられない。額冠を脳裏で探り、『思念体』の構造式を落ち着いて発動させた。今回も10発の薄緑色をした光球が放たれる。甲板まで来ていた海賊たち10人にそれぞれ命中して、爆発が起こる。致命傷にはならないけど、戦闘能力を奪うには充分だ。海賊たちが剣を落とし、その場にうずくまる。
不意に波動が来た。そうだ。向こうにも魔道士の存在があった。不覚。魔道の額冠が瞬時に反応を起こしたけど、少しだけ遅かったようだ。『追撃矢』で、わたしは脇腹に傷を負ってしまった。痛みが集中力を途切れさせる。脇腹の傷口に手をやり、わたしは痛みに耐えかね、しゃがんでしまった。
「リムノ!?」
キッポがハルバードを横に払って、海賊の1人を倒すと、私の元へ駆け寄って来てくれた。
「――キッポ。ごめんなさい」
「傷口を見せて。今治してあげるから!」
キッポはポケットから宝珠を取り出すと、私の傷口に直接当てた。一瞬だけ白い光が輝き、わたしの痛みは驚くべき速さで消え去った。傷口を見てみる。跡形も無くキレイに消えていた。服が破れて、少し血がにじんでいるだけ。――キッポ! すごい!
「ありがとう、キッポ。もう大丈夫」
「向こうにも魔道士がいたんだね。海賊たちの相手は、ボクとルカスがする。リムノは魔道士の力を、何とかして打ち破って!」
「分かったわ。信じてる」
キッポはうなずくと、宝珠をしまってからハルバードを手にして、海賊たちに再び向かって行った。さあ。わたしもわたしの仕事をしなくちゃ。魔道士には魔道士が立ち向かわないと。
波動が来た。向こうもわたしがまだ、動ける状態でいることが分かったのだろう。落ち着きなさい、リムノ。波動を探るの。――『精神崩落』! 魔道の額冠が反応する。強い波動だったけど、わたしはその波動をギリギリの隙間を縫うように、交わし去った。海賊船を見やる。甲板に魔道士らしい姿が見えた。今度はわたしが平然としていることに、驚いているようだ。それはそうだろう。こんなひよっこ魔道士が、波動を何もしないままに受け流してしまったのだから。見てなさい。たとえひよっこ魔道士でも、これだって幾多の困難を(ルカスとキッポのおかげも、もちろんあったけど)乗り越えて来たんですからね!
「甘く見たら火傷するわよ」
つぶやいて、構造式を発動させる。攻撃系の魔道だけど、今のわたしにはもう、ためらいは無かった。怒りの方が先に立ってる。精神力で式を閉じた。さあ、避けられるものなら避けてご覧なさい!
瞬間、相手の魔道士の頭上に黒雲が現れ、轟音と共にオレンジ色の電撃が直撃した。そう。『雷撃』。でも相手も魔道を使っていた。波動が来る。また『追撃矢』! しかも4本も! この魔道士、『追撃矢』を得意としているのね。3本までは魔道の額冠のおかげで、何とか避けた。だけど最後の1本を避け切れなかった。カラダの中心線、腹部に鋭い痛みが走る。青白い幻影の矢が深々と刺さり、小さな爆発を起こった。相手は落雷で、完全に沈黙したようだった。
でも。血があふれて来るおなかに手を添えて、わたしも膝を付かざるを得ない。――悔しい。相討ちとは。痛みと悔しさで涙がにじんで来た。膝も付いていられなくなり、わたしは横倒れになってしまった。痛みがどんどん強まって来る。流血が止まらないようだ。アタマが重たい。目の前が暗くなって行く。わたし、死ぬのかしら? こんな痛い死に方は、したく、なかった、な……。




