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45.虎

夕暮れの中、戦車の上で二人の男が話していた。

「今回も帰って来れましたね……」

「そうだな、君も随分活躍していたしな」

「ありがとうございます。……ですが、この生活はいつまで続くんですかね」

「……私にも分からない。私たちは命令通りにただ敵を殺し続ける、それしか出来ないのさ」


共通暦941年9月、秋が深まる頃、エルンストがダス・ライヒ師団に配属されてから早2年が経とうとしていた。

ドイチュラントは未だバイエルン王国の防衛線を突破することが出来ず、またバイエルン王国もドイチュラントに対して防衛しか出来ないままであった。両者は均衡状態のまま戦争を続け、疲弊していたのである。



「中隊長、一本どうですか?」

「そうだな……頂こうか」

エルンストは武功を重ね、今では中隊長となり第2中隊を率いる身となっていた。そのため彼のストレスは増え続ける一方で、最近煙草をやるようになったのだった。

「ふぅ……また1日が終わるな」

「そうですね……明日もその次の日も、地獄にいるような最低な日でもいいから生き延びたいものです。戦いが終わるその日まで」


「そういえば君には地元に恋人を残してきているんだったか」

「ええ、戦争が終わったら結婚するつもりです。……まあ、僕と彼女が死んでなかったらの話ですが」

「きっと生き延びるさ、君もその彼女さんも」

「そうありたいものです……そういえば中隊長殿は?」

「僕か……唯一気掛かりだったのは母親かな。まあ3ヵ月程前に死んでしまったらしいが、爆撃で」

「……そうなんですか、だからあの時あんなに暗かったんですね」

「まあ仕方ないさ、覚悟はしていたしね。それに戦争で色んな人とも出会えたし、一概に悪い事ばかりじゃないさ」

「……そうですよね、僕だって中隊長殿に出会えた訳ですし」

「まあ深く考えたらキリがないさ。もう日も完全に暮れたことだし、今日は休もう」

「……戻りましょうか」


彼らは仲間の元へと戻るのであった。



「ほほう、これがかの神の盾を備えた戦車か」

約1か月後、ダス・ライヒ師団第2装甲連隊第2中隊は新型戦車受領の為後方へと下がっていた。そしてこの新型戦車、Pz.kpfw VI通称「Tiger」はかの神の盾作戦で活躍した対魔力装甲、これを前面及び側面に搭載する事、それに加えてバイエルン王国が配備を進める3ゾル実弾砲に耐えうる装甲を備える事、さらにはどの戦車の装甲でも撃ち破ることの出来る4ゾル砲の搭載を目的に新規開発された戦車である。


「やはり大きいですね……」

「そうだな、最早怪物と言えるレベルだ」

「しかし巨体故に速度は遅く操縦は難しいと聞きますね」

「そこは操縦手であるエドガー、君の腕の見せ所だな」

「分かってますよ、任せてください」

「それにオットー、今日から弾が重くなるぞ」

「が、頑張ります。今まで鍛えた筋肉は伊達じゃありません」

「うむ、頑張りたまえ。ユルゲンは……いつも通り頑張るんだぞ」

「無線装備はさほど変わりませんからね……まあやや性能も向上したそうですし、楽しみではありますが」

「最後にアウレール、貴官は今までの技術を元にこの砲をもちいて更なる高みを目指してくれ」

「勿論でありますっ!」


「さて、僅か3日ほどではあるが慣熟訓練の時間は設けられた。中隊一同、早くこの虎を操れるようにするのだぞ」

「了解!」

中隊の隊員はびしりと揃ってエルンストへ敬礼する。

彼はそれに対して敬礼を返し、その場を去った。



「……これは勝てないな、戦争に。いくら強くてもドイチュラントの誇る機動戦術を捨ててしまってはお終いだ」

建物の陰で、エルンストはぼそりと呟いた。


あと少しでエルンスト編が終わりそうです......

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