43ページ目「獅子VSヴァーム。」
「彼の無念……か」
ヴァームは懐かしげに死霊使いの言葉を繰り返し、溜息をついた。
「やはり君は勘違いしている」
「勘違いですって…?それは貴方の方よヴァーム。罪を認めなさい」
「私は罪を認めた上で君の勘違いを指摘している。それに、君が星屑に入ってから犯してきた罪に比べれば軽いものだ」
「……。同じね、私達」
「同じじゃないさ。君の方がちょっとだけ、罪が重い」
「それもそうね……」
死霊使いはコンコンと横の壺を叩いた。
「それでも、彼の無念だけは今ココで晴らさせてもらうわ。そして、地獄に落ちましょうヴァーム。私も後で行くから」
壺の中からモヤモヤと煙のようなものが現れる。
その煙は徐々に形を成していき、人型になった。
「悪いが私はまだ地獄に行く訳には行かないな。無論、君もだ」
ヴァームはゆっくりと白衣のポケットから注射器を取り出した。
「ドーピング……まだやってたの?」
「生憎コレしか戦う方法がないのでね」
ヴァームは注射器を自分の右腕に刺し、怪しげな液体を自分の身体に血管から流し込んだ。
ドクン……
ヴァームの中で何かが変わる。
ドーピングの効果である。
「やりなさい」
煙は既に完全に人型になっていた。
死霊使いの指示を聞くと、ソレはゆっくりとヴァームに近寄る。
「死者の魂の集合体…。悪趣味な特技を身に付けたなリーナ」
「芸術的、と言ってもらいたいわ」
「君の芸術センスにはいつも驚かされるよ。悪い意味でね」
ダッ!
人型のソレはヴァームに向かって思い切り突っ込んだ。
「死者の魂とは言え、触れられぬことはない」
ゴッ!
突っ込んできた人型のソレの腹部にヴァームの拳が食い込む。
動きを止めた瞬間を見逃さず、ヴァームは更に左拳で顔面を殴る。
よろめいたソレにヴァームはダメ押しとばかりに回し蹴りを喰らわせる。
ソレはそのまま横に吹っ飛び、壁に激突して消えた。
「ふーん。それなりにやるのね」
死霊使いがもう一度壺を叩くとまたしても煙のような何かが壺から現れる。
「今度は簡単にはいかないわよ」
死霊使いがニヤリと笑う横で、煙はまたしても何らかの形を成していく。
「動物霊の集合体。それもとびっきり獰猛なね」
ライオン。
そう形容するのがやはり適切だろう。
百獣の王と呼ばれる獅子を模したソレは先程の煙とは違い、徐々に本物のライオンに近づいて行く。
「ほう…」
完全に獅子となったソレはヴァームを真っ直ぐと睨みつけた。
「人間を恨んだまま霊化した動物霊のみなさんでーす♪」
「楽しそうだな」
「悪いかしら?」
「ああ、悪趣味だ」
「部屋で動物に実験を繰り返してた貴方よりはマシだと思うなー」
「どうだか」
ヴァームは身構える。
流石に獅子ともなると一筋縄ではいかないだろう。
「あの人間をやりなさい」
死霊使いが獅子の頭を撫でながら指示をすると、獅子はヴァームに向かって唸り始める。
「グオォォォォォォォォッ!!」
そして死霊使いが手を放すと同時にヴァームに襲いかかった。
ヴァームは身を屈めて獅子を避ける。
獅子はヴァームの後ろで着地するとすぐに方向転換をし、ヴァームに跳びかかる。
「ハッ」
ゴッ!
跳びかかる獅子の顎にヴァームは思い切りアッパーを放つ。
直撃したようだ。
獅子はそのまま宙に浮き、空中で回転して着地した。
「グルルルルル……」
「やはりあれだけでは効かぬか」
「オオォォォォッ!!」
今度は跳ばずに走って突っ込んでくる。
そしてヴァームの目の前まで来ると、口を大きく開け、ヴァームに跳びかかる。
「ぐ…ッ!」
ガブリ、と獅子はヴァームの右腕に噛みついた。
ヴァームの右腕に激痛が走る。
「おおッ!!」
ゴッ!
右腕に噛みつく獅子の顔面にヴァームの左拳が直撃する。
「ガァッ!」
獅子は思わず口をヴァームの右腕から離し、後ろに吹っ飛ぶ。
「グァオオオオッ!!」
獅子はよろよろと立ち上がると雄叫びを上げた。
そしてヴァームを真っ直ぐと睨みつけると再び突っ込んで来た。
「そこまでだ」
ドガァッ!
勢いよく突っ込んで来た獅子の顔面にヴァームの回し蹴りが直撃する。
獅子は再度後ろに吹っ飛び、壁に激突すると先程の人型と同じ様に消えた。
「もう終わりか?リーナ」
「やるわね」
死霊使いは再び壺を叩く。
どうやらアレが死霊を呼び出す合図らしい。
「今度はそうは行かないわ」
壺の中から煙が現れる。
そして形を成す。
が、その形は今までとは違った。
「……ッ!?」
人間。
最初のアレは人型だがコレは違う。
人の形をしているのではない。
人なのだ。
先程の獅子を同じように徐々に本物の人間と同じ様になっていく。
「どう?彼の魂の欠片とその他の死者の魂で再現したのよ」
死霊使いが得意気に笑う。
「やはり悪趣味だな…」
「そうかしら?」
流石のヴァームも驚愕の色を隠せない。
「ヴィンセント……」
ヴァームはボソリと、かつて己が殺した男の名を呟いた。
To Be Continued