44ページ目「奇怪な腕。」
「ああ、久しぶりねヴィンセント……」
死霊使いは傍に立つ男の頬に愛おしげに触れる。
「リーナ……何度言えばわかるんだ………!!その男は…!!」
「あら、これは本物じゃないわ。これは彼の魂の欠片と死者の魂で作り上げた偽物よ?本物のハズがないじゃない」
死霊使いはクスリと笑うと、すぐに表情を一変させた。
突き刺すような死霊使いの視線がヴァームに向けられる。
「だって、本物は貴方が殺したじゃない」
「……否定はしない」
「さあヴィンセント。貴方を殺した憎いあの男をぶち殺しなさい」
ダッ!
死霊使いの指示を受けると、ヴィンセントはヴァームに向かって走り出した。
「ッ!」
ゴッ!
ヴィンセントの右拳を辛うじて右腕でガードすることは出来たがかなりの力だ…。
ヴァームの右腕にビリビリと衝撃が伝わる。
「くッ…」
ヴァームは左脚でヴィンセントの顔面に蹴りを喰らわせようとするが、ヴィンセントは頭を動かし、間一髪で蹴りを避ける。
そしてすぐに後退すると、態勢を立て直した。
「終わらせるぞ……。この悪趣味な悪夢をな」
ヴァームは白衣のポケットから注射器を取り出す。
「効果が切れたのかしら?」
「違うな。追加だ」
そして再び自らの腕にそれを突き刺すと、怪しげな液体を血管から体内に注入した。
後一回までだな…。
そう思いながらヴァームは空になった注射器を投げ捨てた。
「行くぞ……ッッ!」
今度はヴァームの方から突っ込んだ。
ヴァームはヴィンセント目がけて右拳を思い切り突き出す。
だが所詮はテレフォンパンチ。
軌道は見え見えである。
ヴィンセントはすぐに防御の態勢に入った。
「おおおおッッ!!」
基礎能力(1)×ドーピング(3)×ドーピング(3)=通常の9倍
今のヴァームの力は通常状態の9倍である。
よって
「ガードなど無意味だッッッ!!」
ドゴォッ!!
ヴァームのガードさえ無効化する強力な一撃がヴィンセントに直撃する。
その一撃でヴィンセントは吹っ飛び、死霊使いの後ろの壁に激突した。
「ヴィンセントッ!」
ヴィンセントは今までの死霊のように消えたりせず、その場にドサリと倒れた。
死霊使いは倒れているヴィンセントに駆け寄る。
「ヴィンセント。痛かったでしょう……。でも大丈夫。すぐに治してあげるからね…」
死霊使いは壺に手を突っ込むと中から白いモヤモヤしたものを取り出した。
死霊か何かと見て間違いないだろう。
死霊使いはそれをヴィンセントの身体に押しつける。
「さあ。もっと強くなりなさい」
しばらくすると倒れていたヴィンセントはむくりと起き上がった。
「ッ!?」
「彼の身体の密度を上げたわ。これで今のヴァームにも対抗出来るわ」
「……ッ」
ヴァームは再び構える。
「オオ…」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
雄叫びを上げるヴィンセント。
ヴァームは表情を変えずにそれを見ていた。
ダッ!
凄まじいスピードでヴィンセントが走りだし、ヴァームに向かって右拳を突き出した。
ヴァームはそれを避けるとヴィンセントの背後に回り、後頭部を思い切り殴った……
つもりだった。
だが実際には不意に現れた何かにヴァームは右拳を防がれていた。
「コレは……」
異様な光景に、ヴァームは言葉を失う。
腕だ。
ヴィンセントの背中に腕が生え、その腕がヴァームの拳を防ぎ、掴んでいるのだ。
ブンッ!
「ッッ!?」
ヴァームは拳ごとその腕に右に投げられる。
ゴッ!
ヴァームの身体が壁に激突し、ドサリと倒れた。
「が……ッ」
ヴァームの口から血が溢れ出る。
「どう?強いでしょ?彼……」
死霊使いは異形の姿をしたヴィンセントを幸せそうに見つめる。
「私がね、強くしたの……」
「リーナ……ッ」
ヴァームはよろよろと立ち上がるとヴィンセントを睨みつけた。
「生きても……死んでも…厄介な男だな…ヴィンセント」
このヴィンセントには知能が低いらしく、言葉を理解していない様子だ。
奇怪な背中の腕を動かしながらヴィンセントはヴァームを見つめている。
「彼を侮辱しないで」
「違うな…リーナ。侮辱しているのは……お前だ。偽物とは言え…お前の知っている彼は……そんな奇怪な身体をしていたか…?」
ピタリと死霊使いの動きが止まる。
ヴァームの言葉に動揺している証拠である。
「うるさい……!」
「もうやめろ。無意味だ…こんなことは」
「うるさい…!どうせ命が惜しくて言ってるんでしょう!?ヴィンセントッ!早くあのうるさいアイツを黙らせてッッ!!」
「オオオオオオオオッ!!」
ダッ!
指示を受けたヴィンセントがヴァームに向かって走り出す。
「やれ…やれ」
ヴァームは素早くポケットから注射器をもう一本取り出すと、すぐに自分の腕に突き刺した。
「オオオオオオオォォォォッッ!!!」
ドゴォッッ!!
ヴィンセントの顔面にヴァームの拳が直撃する。
「な……ッ!?」
ヴィンセントはそのまま吹っ飛び、壁に激突する。
それと同時に背中の腕がグシャリと音を立てて折れた。
「オ…オオ…」
そしてヴィンセントは消えた。
流石に今の一撃は大きかったのだろう。
「まさか人生で二度も同じ人間を殺す羽目になるとはな……」
「ヴィン…セント……」
死霊使いがその場にドサリと崩れる。
「リーナ。お前は間違っていた。そして俺も大きな間違いをした…。それだけのことだ」
「私は間違っていない……!間違っているのはアンタだけ…!兄さんだけよッッ!!」
「聞け、リーナ。あの日の話をしてやる」
「そんな話聞きたくない……ッ!!」
「ッ!?」
ふと気が付けば死霊使いの横に白いもやで人型の何かが形成されつつあった。
そのもやは徐々に人間に近づいて行き…
先程のヴィンセントと寸分違わぬ姿になった。
「何度でも……形だけなら何度でも蘇らせるわッッ!!」
ヴァームは真っ直ぐにヴィンセントを見据えると、キッと睨みつけた。
「ヴィンセント……お前を殺すのは正真正銘これが最後だッッ!!」
To Be Continued




