ごめんなさい
親切な男と別れて、アリスはしばらく大通りをふらついていました。
帰りづらい。とても帰りづらいよ!
「でもいつまでもうじうじしてらんないし……」
アリスはとうとう覚悟を決めて城に近づきました。
城の門の横の森の端っこに身を隠し、様子をうかがう彼女。
「……」
帰りづらい。どうやって見つからずにもど……。
「アリス確保ぉ!!」
「わっ!?」
後ろから首根っこをつかまれた。
「ちょっとぉ!? ねぇ、どこ行ってたのさぁ!?」
あ、このダルダルな話し方は……
「ジャック!? ちょ、苦しい!」
「わ、ごめんよぉ!!」
あわてた様子のジャックがしゃがみこんでアリスの顔色をうかがう。
……うん、赤い! 暗くてもわかりやすい! 奇襲とかに向かなさそうな服装だね!! でもなんで私は毎回ドッキリ受けてるんだろうね!!
「大丈夫ぅ? 怪我とかしてない?」
「大丈夫。怪我してない」
「よかったぁ。もう! みんな心配してたんだよぉ!?」
「それは本当ごめんなさい」
とても反省シテマス……。
「あぁ、でも、何にもなくて本当よかったぁ! もうもう! 次からいきなりいなくならないでね!? わかったぁ!?」
「はい……」
では、できればいきなり現れるのもやめていただ……やめよう。今回は私が悪いし。
「……君になんかあったらぁ、俺ら首刎ねられちゃうんだよぉ?」
「え!?」
くびはね……物騒だな! でもなんかやりそうだと納得するよ!?
「だからぁ、優しいアリスは、俺らのためにもぉ、危ないことしないでねぇ?」
あ、わざとだ! 一番クる言葉選んでるな! ずるいぞ! でもほんとごめんなさい!!
「き、肝に銘じます……」
「うんうん、よかったぁ♪」
ジャックは大きく頷いて、満面の笑みをこっちに向けてきた。
普通にしてればかっこいい。だいぶ。爽やか系ワンコみたいな好青年って感じなのに。ダメ人間&黒い笑み。あれはもったいない。まさに、
残 念 な イ ケ メ ン !!
「? なんか失礼なこと考えてたぁ?」
「キノセイジャナイカナ」
「……そ、そぉ?」
「ソウソウ」
納得いかないながらも追及しないジャック。
「あーりす」
「何?」
「俺とちょっと内緒のお話しない?」
「ハぁ?」
バカ?
「別に変なお誘いじゃないよぉ? てか、うん、今すぐ帰るとちょっとまずいから……」
顔が一瞬で真っ青に変わる。
え、ちょ、なにごと……?
「ラビ様がキレちゃってぇ……エースがぁ、まぁ、自業自得じみてるから巻き込まれても誰も助けられn」
「ちょっと!? もしかしてそれ私のせいじゃないの!?」
「うーん、でもだからじごうじt」
「ってやっぱり私のせいなんだ!? じゃぁちゃんと謝らないと!」
「あー、もう! いいからちょっとこっちきて!!」
アリスの腕をつかみ、森の少し奥まったところに連れて行く。
「何す!?」
「これだけ聞いときたいんだけどぉ! エースのこと嫌い?」
平らなところを選んで座り、隣をポンポンと叩いて座るように促した。
「……ハ?」
さっきからなんだ藪から棒に。
一応少し距離を取って座ってみる。
「きーらーいー?」
ずいっと、その距離を埋めやが、じゃなくて、埋めてきたジャック。
「そんなわけないじゃない。いや、まだ知り合って間もないからわかんないっていうのが大きいけど、今のところ嫌う要素なんて皆無よ皆無」
「そっかぁ」
安心したようにふんわり笑う。子供みたいに無邪気だ。だから、むしろあんたの方が嫌われる要素大よ、とか言わないでおこう。
「なんで?」
「ん、ん……エース嫌われてるからぁ……」
そういえば、と思い出す。メイドさんに異様に怖がられていたな……。
「何? エースなんかやらかしたの?」
「違うよぉ! エースめっちゃいいやつだもん!」
「じゃぁ、何で?」
勢い良く否定したが、そこで暗い顔をしてうつむいた。
「……《スペードのエース》って嫌われる役割なんだぁ」
大分沈黙した後紡いだ言葉は、到底アリスには受け入れられないものだった。
「何よそれ!」
役割? 嫌われる役? そんなの必要あるわけないじゃんか!
「仕方ないよぉ。そういうルール。世界の決まりだからぁ」
「ありえない。ばっかじゃないの? なんでそんなものに縛られてるのよ?」
「縛られるとかそういうんじゃないんだぁ。守らない、なんて選択しないし」
「いや、何受け入れてんのよ。抗いなさいよ!!」
「だから、そう言うんじゃないんだって。……でも、よかった」
「何が!?」
「今回のアリスは大丈夫そうだから」
「あぁ?」
「ガラ悪いよアリス!」
「うっさいな! それどころじゃないでしょうが!!」
「うん。そういうアリスが俺は好きだよぉ」
「何言ってんのこの馬鹿は」
「アリス、それ、思うだけにして?」
「おっと、心の声がダダ漏れ」
「わざとじゃないの!?」
「ワザトジャナイヨ」
「嘘くさいなぁもう!」
立ち上がって手を差し出す。
「もういいかなぁ! かえろっかぁ!!」
若干やけになっているような気もするが気にしない方向で行こう。うん。
手を引っ張ってもらって立ち上がる。
「あ、ごめん、服汚れちゃった?」
「気にしない。あ、洗濯とかどうすればいいの?」
「そういうのはメイドに聞いてもらってもいい? ちょっと俺には……」
「分かったわ」
長年暮らしてもわからないことってあるよね。大体大きいお城だしね……。
「あ、そうだアリス」
前を歩きつつ、後ろを振り返って歩くジャックは器用だと私は思う。
「俺からゲーム」
「え……」
ここでカード集めですか!?
「もし、君が、エースのこと、信じきれたら、その時は、俺のカード開けるねぇ」
……理解できません! どうしましょう隊長!!
「え、ちょ、どういういm」
「たぶんその時には、うん、二枚カード手に入ると思うなぁ」
「え」
「え?」
いや、え? って返されても……。
「これ、俺にとって賭けなんだぁ。命がけのねぇ」
「!?」
「いやぁ、でも、皆命がけかなぁ。この世界のゲーム・カードはぜんぶ命にかかわる重大なことぉ~。覚悟しておいてねっ★」
語尾に★つけられても、内容の重さは変わんないかんね!? むしろ何軽く言ってくれちゃってんだって気分になりますからぁぁぁぁあああ!?




