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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第五章 変わりゆく世界
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●選挙活動

 今回の役員選挙の立候補者は二名。

 神居司と翌梨リサの一騎打ちになった。


「明確なビジョンの提示とコンセンサスの形成。演説は去年の実績を引き合いに出して、現実な生徒会運営をアピールしつつ、感情に訴えかける人間性も同時に伝える。これが考えられる演説内容だ」


「ちゃんリサに、過去実績はない。だけど、彼女にはそれを補うだけの勢いがある」

「その通り。現時点で、過去の活動を直接見てきた二年、三年の司への支持率は高い。逆に一年は日も浅いから、どちらにもつかず。むしろ仲間意識から翌梨に傾いている」


「投票当日の立会演説前に、ほとんどの生徒はどちらを支持するか既に決めている。そこからはよほどのことがない限り、変更はしない」

 よほどのことがない限り……不測の事態は、リサが相手なら充分考えられる。


「決めかねている生徒は、選挙そのものに興味がない。誰が会長になろうが、関係ない。キャラクターやパフォーマンスで簡単に傾いてしまう。そんな連中相手に、ちゃんリサは強い」

 司が冷静で安心した。


「なんだい、その目は? あたしがちゃんリサを、軽んじていると思ったのか?」

「少し心配はしてたよ」

「大丈夫だよ。あたしが冷静にいつも通り行動すれば、決して負けることはない……そのはずなんだけどね。得体の知れない不安が、重くのしかかる」


 相手は神算鬼謀(しんさんきぼう機知奇策(きちきさく)機略縦横(きりゃくじゅうおう)の翌梨リサだ。

 一筋縄でいく相手ではない。


「人は誰しも痛快な逆転劇を期待する。ダイダイが上級生を差し置いて、去年の選挙に勝った姿を今の二、三年生は見ている。彼らは常にスターの誕生を心待ちしている。今まさに学校中にそんな空気が流れている」


 何か声をかけようとしたが、司はニヤリッと笑う。

「ならば、その希望を絶ち斬ればいい。どんな奇策を巡らせようとも、正面から堂々と受けて立てばいい。王者の……女帝の戦い方を見せてやろう」


 想像はしていたが、リサの人気はすごかった。

 元々目立つ生徒であったことに加え、球技大会、文化祭での活躍。

 さらに例の盗撮魔との動画には、リサの武道家もビックリの護身術で、華麗に犯人を倒すシーンもあった。


 また、元副会長の繭の推薦人の効果も高い。

 前任の生徒会功労者であり、リサと同じ二大イベントの主役である。これで人気が出ないわけがない。

 リサのカリスマ性に、繭のマネジメント能力。

 急造チームとは思えない相性の良さ。


 選挙活動は、公約の内容よりもパフォーマンス重視。

 生徒たちもそれを楽しんでいる。

 保守的な公約を打ち出した俺たちに対し、変化を全面的に押し出したリサ。


 具体的な内容を提示した司に対し、リサの公約はハッキリしない。

 校内に貼り出された立候補者の公約内容。

 これを見て、生徒たちは立候補者の考えを理解し、支持するかを決める。

 ところが、その紙のリサの公約内容は空欄のままだ。


「立会演説の時を楽しみにして下さい。アッと驚くような公約を約束します!」

 まるでエックスデー。

 わからないからこそ、皆の期待は上がる。


 同時に俺たちの考えはわかるのに、リサの考えは読み取れない。

 リサは事前に告知し、周知させるメリットよりも、俺たちに情報を漏らさない方を取った。


 戦い方にはいくつかのやり方がある。

 その一つに相手の公約の弱点を突く方法がある。

 今回、リサが何を考えており、何をやらかすのかわからないのは、不気味である。


『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』。

 今回、俺たちは見えない敵と戦うことになった。


「討論会?」

 見たこともない紙を司から渡された。

「今日、繭っちから渡された。簡単に説明すれば、投票直前に全校生徒の前で、立候補者二人で討論をするってことさ」


 本来ならば、投票日当日は授業が終わると、生徒たちは体育館に集まり、最後の立会演説を聞く。

 その後、教室へ戻り、投票を行う。

 選挙管理委員会が放課後に集計し、次の日のお昼に校内放送で当選者を発表する流れだ。


 立会演説の時間は五分。

 この時間内に自分の公約を説明しなくてはならない。

 ここがずっと気になっていた。

 通常であれば、事前の選挙活動で公約を提示し、この時間は最終確認と意志表明をするだけだ。

 それなのに、リサは全く公約を発表していない。


「討論会となれば、時間は増える。相手の公約に応じて話す内容を変えることができ、優越も付けやすい。人気とスピーチ力に自信のあるちゃんリサからすれば、一発逆転のチャンスだ」

「断ることは?」

「できるけど、あたしの性格を知っているだろう? 雌雄を決するには、最高の舞台だよ」


「こんな制度、うちの学校にあったんだな」

「この制度だけじゃない。他にもたくさん優れた仕組みがある。歴代の先輩たちの残してくれた大切なモノだよ。中でも伝説的な卒業生がいてな……」

 俺は司から話を聞いた。


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