●選挙活動
今回の役員選挙の立候補者は二名。
神居司と翌梨リサの一騎打ちになった。
「明確なビジョンの提示とコンセンサスの形成。演説は去年の実績を引き合いに出して、現実な生徒会運営をアピールしつつ、感情に訴えかける人間性も同時に伝える。これが考えられる演説内容だ」
「ちゃんリサに、過去実績はない。だけど、彼女にはそれを補うだけの勢いがある」
「その通り。現時点で、過去の活動を直接見てきた二年、三年の司への支持率は高い。逆に一年は日も浅いから、どちらにもつかず。むしろ仲間意識から翌梨に傾いている」
「投票当日の立会演説前に、ほとんどの生徒はどちらを支持するか既に決めている。そこからはよほどのことがない限り、変更はしない」
よほどのことがない限り……不測の事態は、リサが相手なら充分考えられる。
「決めかねている生徒は、選挙そのものに興味がない。誰が会長になろうが、関係ない。キャラクターやパフォーマンスで簡単に傾いてしまう。そんな連中相手に、ちゃんリサは強い」
司が冷静で安心した。
「なんだい、その目は? あたしがちゃんリサを、軽んじていると思ったのか?」
「少し心配はしてたよ」
「大丈夫だよ。あたしが冷静にいつも通り行動すれば、決して負けることはない……そのはずなんだけどね。得体の知れない不安が、重くのしかかる」
相手は神算鬼謀、機知奇策、機略縦横の翌梨リサだ。
一筋縄でいく相手ではない。
「人は誰しも痛快な逆転劇を期待する。ダイダイが上級生を差し置いて、去年の選挙に勝った姿を今の二、三年生は見ている。彼らは常にスターの誕生を心待ちしている。今まさに学校中にそんな空気が流れている」
何か声をかけようとしたが、司はニヤリッと笑う。
「ならば、その希望を絶ち斬ればいい。どんな奇策を巡らせようとも、正面から堂々と受けて立てばいい。王者の……女帝の戦い方を見せてやろう」
想像はしていたが、リサの人気はすごかった。
元々目立つ生徒であったことに加え、球技大会、文化祭での活躍。
さらに例の盗撮魔との動画には、リサの武道家もビックリの護身術で、華麗に犯人を倒すシーンもあった。
また、元副会長の繭の推薦人の効果も高い。
前任の生徒会功労者であり、リサと同じ二大イベントの主役である。これで人気が出ないわけがない。
リサのカリスマ性に、繭のマネジメント能力。
急造チームとは思えない相性の良さ。
選挙活動は、公約の内容よりもパフォーマンス重視。
生徒たちもそれを楽しんでいる。
保守的な公約を打ち出した俺たちに対し、変化を全面的に押し出したリサ。
具体的な内容を提示した司に対し、リサの公約はハッキリしない。
校内に貼り出された立候補者の公約内容。
これを見て、生徒たちは立候補者の考えを理解し、支持するかを決める。
ところが、その紙のリサの公約内容は空欄のままだ。
「立会演説の時を楽しみにして下さい。アッと驚くような公約を約束します!」
まるでエックスデー。
わからないからこそ、皆の期待は上がる。
同時に俺たちの考えはわかるのに、リサの考えは読み取れない。
リサは事前に告知し、周知させるメリットよりも、俺たちに情報を漏らさない方を取った。
戦い方にはいくつかのやり方がある。
その一つに相手の公約の弱点を突く方法がある。
今回、リサが何を考えており、何をやらかすのかわからないのは、不気味である。
『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』。
今回、俺たちは見えない敵と戦うことになった。
「討論会?」
見たこともない紙を司から渡された。
「今日、繭っちから渡された。簡単に説明すれば、投票直前に全校生徒の前で、立候補者二人で討論をするってことさ」
本来ならば、投票日当日は授業が終わると、生徒たちは体育館に集まり、最後の立会演説を聞く。
その後、教室へ戻り、投票を行う。
選挙管理委員会が放課後に集計し、次の日のお昼に校内放送で当選者を発表する流れだ。
立会演説の時間は五分。
この時間内に自分の公約を説明しなくてはならない。
ここがずっと気になっていた。
通常であれば、事前の選挙活動で公約を提示し、この時間は最終確認と意志表明をするだけだ。
それなのに、リサは全く公約を発表していない。
「討論会となれば、時間は増える。相手の公約に応じて話す内容を変えることができ、優越も付けやすい。人気とスピーチ力に自信のあるちゃんリサからすれば、一発逆転のチャンスだ」
「断ることは?」
「できるけど、あたしの性格を知っているだろう? 雌雄を決するには、最高の舞台だよ」
「こんな制度、うちの学校にあったんだな」
「この制度だけじゃない。他にもたくさん優れた仕組みがある。歴代の先輩たちの残してくれた大切なモノだよ。中でも伝説的な卒業生がいてな……」
俺は司から話を聞いた。




