表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第五章 変わりゆく世界
43/54

●変化

 休み明けに登校すると、職員室で教師陣からめっぽう怒られた。

 四面楚歌とはこのことだ。

 少しくらいは褒めてくれてもいいと思うのだが、生徒の安全を一番に考える学校側の主張もわかる。

 はいはい、と文句の一つも言わずに返事をして、早々に職員室から逃げ出す。


「おい、あれ!」

「大和だ!」

「マジで怪我してんじゃん!」

「まさか、あのスパッツバカがな~」

 いつもと違う視線を浴びつつ、教室へ向かった。


 教室でも普段とは違う好奇の目にさらされる。

 普段が養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だけに、この変化には戸惑いを隠せない。

 原因はわかっている。


 文化祭での盗撮魔との死闘。

 あれが動画撮影されていたらしく、ネットの某動画サイトに投稿された。

 すぐに消されたのだが、時すでに遅し。

 流出は止まらず、有名なまとめサイトで紹介され、お祭り騒ぎ。


 優秀な特定班の手により、学校と俺の名前が晒された。

 盗撮魔にしがみつき、無様に殴られる俺の姿は永遠にネットの闇を彷徨い続けるだろう。

 世間に極上のネタを提供し、恥を晒してしまった。

 誹謗中傷の嵐かと思いきや、意外にも賞賛の声が多かったのには驚いた。


『熱い! 熱すぎる! 俺はかつて、これほど熱い男を見たことがない!』

『スパッツ愛好家! スパッツ界の英雄現る!』

『ヤベ~、ヤベ~よ! 俺、こんな動画で感動している!』

『命は死にあらがう程、美しく輝きを増す。この青年の命は光り輝いている!』

『やまとたいせい、最高! 俺はお前を称えたい!』


 おそらく、この動画を銚吠高校の生徒全員が目にしたはずだ。

 その結果、スクールカースト最底辺だった俺は、一目置かれる存在となった。

 それは良かったのだが、リサの件……どうしたものか。


 とにかくリサが生徒会長になることを阻止しなくてはならない。

 文化祭が終わると、生徒会の任期も終わる。七月に役員選挙が行われる。

 約一週間、立候補者は選挙活動をし、自分の公約や具体案を知ってもらう。

 選挙当日は、体育館で立会演説会が行われるが、それは最終確認。

 勝負は選挙活動期間で決まると言っても過言ではない。


 立候補者は、推薦人を一人つけられる。推薦人とは支援者である。

 立候補者と共に選挙活動をし、応援演説をする。

「推薦人は立候補者のことを良く知り、好印象を与えられるスピーチができなくてはならない。生徒を取り込める人望と人気があり、批判や異議を封殺できるそんな人物が理想的」

 以前、リサが言っていた。


 また、選挙とは言え、学生である。悪い言い方をすれば、人気投票だ。

 そのため、公約も大事だが、いかに生徒たちの心を掴むかが勝負の分かれ道になる。

 リサを止めると大見得を切ったものの、どうすればいいのか皆目見当もつかない。


 放課後になると事態は、一気に進展した。

「繭が翌梨の推薦人になるだと?」

「うん」

 放課後、俺と司は繭に無人の生徒会室に呼び出された。


「だ、だって、繭は司の推薦人になるんじゃないのか?」

「そのつもりだったけど、それじゃダメなんだ」

 司は黙って聞いている。

「何がダメなんだよ?」


「ボクは今までずっと大成や司の背中ばかり見ていた。だけど、これからは一緒に横で歩きたい。対等になりたいんだよ。だから、ボクは司と戦う」

「繭の気持ちもわかるけどさ……」

「そもそも、ボクが司の推薦人をやる義務なんてない。頼まれもしない補佐役を、わざわざボクから頼むのもおかしいよ」

 もっともな意見だ。


「翌梨はボクの力が必要だと言ってくれた。だから、ボクは翌梨の推薦人になる。司には悪いけど、遠慮はしない。全力で戦うよ」

 司と繭は、最強の矛と盾。

 この二人ならリサであろうと、簡単に打ち破ることはできない。

 しかし、繭がリサに味方するとなると話は変わる。


「それだけ伝えたかった。これはボクからの宣戦布告だ」

「ちょ、ちょっと……」

「いいじゃないか」

 初めて司が口を開いた。


「確かに繭っちの言う通りだ。ここは繭っちの自主性を尊重すると共に、成長を喜ぼうじゃないか。自分の信じた道を進めばいい」 

「ありがとう、司」

「だ、だけどさ……」

「悪いけど、これから翌梨と作戦会議があるんだ」


 そう言い残し、繭は去って行った。

「どうするつもりだ?」

 残された俺と司。


「別に推薦人の候補は繭っちだけじゃない。他にも優秀な生徒はいる」

 俺には司と繭以上の組み合わせが思い浮かばない。

「全く問題ない。繭っちがいなくても、あたし一人で当選してみせる」


 以前、リサは『繭がいなければ司は何もできない』的なことを言った。

 それを相当気にしているようだ。

 冷静さを失い、強引に成果を上げようとする。

 しかし、今回は単純な力技が通じる相手ではない。


「よしっ! わかった!」

「何?」

 不機嫌そうな目でこちらを見てくる。

「俺が司の推薦人になろう!」


 一瞬、キョトンと固まった司。

 しかし、すぐに大笑いする。

「ニャハハハハッ! 大和があたしの推薦人? 冗談は顔だけにしてくれよ」


「冗談みたいな顔で悪かったな。だけど、あの二人に勝つにはこれしかない」

「だったら、あたしは潔く敗北を認めるよ」

「それは司の自己満足だ。このままじゃ、歴代の先輩たちが……お前が守ってきた学校の秩序がすべて壊されるぞ」


「そんなのあたしの知ったことじゃ……」

「ウソだっ!」

 司の言葉を遮る。


「俺は司が誰よりも、銚吠高校を愛していることを知っている。お前ほど愛校心溢れる生徒を俺は知らない! そんなお前が愛した学校を翌梨の欲望に使われていいのか!」

「いいわけないだろっ!」

 司が吠える。


「ちゃんリサは優秀だ。だけど、同時に危うい面も持っている。歪んだ才能、能力は自身と他者を破滅へと向かわせる」

「俺は翌梨を止めたい。司は学校を、生徒を守りたい。利害は一致したはずだ。敵の敵は味方。俺を頼るのは嫌だと思う」

「当たり前だろっ!」

 嫌われていると感じていたが、まさかここまでとは……


「頼れって何? 自分はあたしを頼らなかったのに、あたしには頼れって言うの?」

 んっ? どういうことだ?

「一年前、あたしは選挙でお前に負けた。上級生ならともかく、同学年に負けたのは屈辱だった。でも、お前の下で働き始めたら、自分が負けたことにも納得できた! あたし以上に学校や生徒のことを考え、自らが行動する。そんなお前に惹かれていった!」


 人がいないとは言え、ここまで感情をあらわにする司を見たことがない。

「あたしがどれだけ本気でお前を信頼し、尊敬していたかわかるか? そして、その信頼を裏切られたあたしの気持ちがわかるか?」

 小さい体と声を震わせている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ