●芸術は爆発だ
待ちに待ったスペシャルタイムが始まった。
当初の予定では下はスパッツのみだったが、急遽、岬にはスカートを着用させた。
あんな大砲、スパッツで隠せるわけがない!
……そんなことよりも、見てくれよ、この光景!
バランスの取れたリサ。
ムッチリとした繭。
細いながらもガッチリした岬。
三者三様の肉体美が、黒いTシャツとスパッツに包まれて、登場した。
スポーツブラとの夢のコラボは実現しなかったが、これもまた良い!
さらに今回はTシャツを結んで、ウエストラインが見えるようにした。
スパッツの素晴らしさの一つに、腰から膝までの下半身をぴったりと覆えることが挙げられる。
これにより、お尻と太ももが別パーツとして認識されることを防ぎ、一連のラインの流れを演出できる。
さらには、うっすらと割れた腹筋。
スッと伸びるヘソ。
もう完璧!
天国があるならば、ここは天国に違いない。
目の前には幻想的な光景が広がっており、三人の天女が地上界へ舞い降り、体を休めている。
天女が落としたのは羽衣ではなく、スパッツであった説を提唱したい!
俺は今、最高の景色を堪能している。
ここがスパッツヘブン。
幾多もの夢追い人が求めた黄金郷。
大和理性ダムが崩壊の危機に瀕している。先ほど岬から負った傷がみるみる回復していく。
今、この美術室は、スパッツのパワースポットである。
将来的には、スパッツ界の聖地になる。
スパッツ愛好家は聖地巡礼として、この地を訪れることになるだろう。
「それでは小休憩を挟んで、後半の十分を再開します」
三人が奥へ消えて行った。
「すげ~な、これ!」
「ああ、予約して正解だぜ!」
「俺は二回目も予約したぜ!」
「お前、知らないのか? 一日に予約できるのは一回だけだぞ!」
「マ、マジかよ!」
「当たり前だろ!」
一日に三回のスペシャルタイム。
その時間帯だけ、予約した人を優先で美術室へ入る。
入る時は予約帳と生徒手帳を照らし合わせ、入室が許可される。
より多くの人に体験してもらうために、予約は一回のみ。
二重に名前が見つかったり、生徒手帳と食い違っていたりしたら、入室を断らせてもらう。
「お前は誰が好き?」
「俺はむっちりした如月だな」
「あの胸は反則だよな。さすがビックセブンの一人! むっちりした尻もたまらん!」
「俺は翌梨だな。あのスタイルは完璧だよ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。まさに芸術的美しさがあるぜ!」
「甘い、甘いよお二人さん。玄人は日向寺一択だよ。あれで男なんて、むしろご褒美さ!」
うんうん、みんな全然わかってないよ。
中身ばかりに目が言っていて、肝心のスパッツがおろそかになっている。
絵画の素晴らしさは、絵はもちろんだが、それを彩る額縁も重要である。
絵画と額縁が合ってこそ、絵画はその魅力を余すことなく伝えることができる。
君たちはまだ絵画のみを楽しみ、その額縁まで目が届いていないようだ。
「三人を見るのもいいけど、スパッツを見るのも忘れないでね」
なんだこいつみたいな表情で俺を見てくる。
「今日のスパッツは綿百パーセント。球技大会の時のような光沢はないけど、その代りにどっしりとした漆黒を表現できる」
危ない奴を見るような目つきは慣れている。
「そうそう、そんな感じで注意深く見てみることをオススメするよ」
満足した俺は、再び美術室のドア付近に立つ。
今日の俺の役目は用心棒。
怪しい奴がいたら、阻止するのが俺の仕事だ。
「何だよ、あいつ」
「スパッツバカの大和だろ?」
「やべ~よ、あいつ。あんな奴がなんで美術部なんだよ」
うんうん、聞こえているぞ。
羨望、嫉妬、憎しみ、恨みの眼差しが俺を襲うが、そんなことはお構いなしである。
小休憩が終わり、後半の十分が始まる。
ああ、俺は今、この瞬間を生きている。生を噛みしめ、実感していた。
「マジ、あの三人スタイル良すぎでしょ!」
「同じ女として、マジへこむわ~。岬もあれで男とかマジ勘弁」
「ウチ、今日からダイエットするわ!」
「無理でしょ! あんた、今日めっちゃ、甘い物食べてたじゃん」
「そんなあなた方に朗報です!」
「うわっ! 大和だ!」
「キモッ! へんたいせいじゃん!」
「いやいや、そんなに露骨に嫌がらないでくれよ!」
「こんな奴、無視してさっさと帰ろう!」
帰ろうとする女子生徒を引き留める。
「ちょっと待った! みんなもあの三人のようにスタイル抜群になりたいと思わない? 夏に向けて、最高のボディを手に入れようよ!」
「大成、みんな引いてるよ」
「「「如月先輩!」」」
今まで汚物を見るような目つきだった女子生徒の目が、キラキラと輝き出す。
「みんな、悪いね。大成は悪気はないんだけど、やる気が空回りしちゃうタイプなんだよ。根はいい奴なんだけどさ」
繭の周りに女子生徒たちが集まる。
「せっかくだから、みんな少し運動していかない?」
なんたること。
ハーメルンの笛吹き男のように、みんな繭の後へ着いて行く。
テレビには、リサが写し出される。
俺が撮影した渾身の自作ビデオは却下。
代わりにセリフの監修だけを務めた。
「この動画を見ながら、少しやってみようか」
繭は率先して、スクワットを始めた。
それをマネする女子生徒たち。スカートがきわどいぞ!
「へ~、意外と楽かも」
「膝を突き出さないようにするのは難しいけど、これなら何回でもできそう」
「へ~、全然イケるじゃん!」
フフフ、御嬢さん方。
その余裕がいつまで続くかな?
スクワットを舐めると痛い目に遭うぜ!
「うわっ! きっつ!」
「太ももマジヤバい! 焼けるように熱い!」
「もう無理! 限界! 腰を下ろすのが辛い!」
わずか数回やっただけで、余裕の表情が歪み始める。
「スクワットはキツイからね。最初は無理をしないで、少しずつやるといいよ。慣れてくれば、何回でもこなせるようになる」
「ウ、ウチも先輩のようになれますか?」
「なれるとも!」
歓声があがる。
「デッサンをしている人もいるから、少し声は押さえようね」
「「「は~い!」」」
「さぁ、みんな! 下半身美人を目指して、レッツ・トライ!」
「「「…………」」」
完全に無視。
まぁ、こんな扱い慣れているけどね!




