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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第四章 文化祭
36/54

●芸術は爆発だ

 待ちに待ったスペシャルタイムが始まった。

 当初の予定では下はスパッツのみだったが、急遽、岬にはスカートを着用させた。

 あんな大砲、スパッツで隠せるわけがない!


 ……そんなことよりも、見てくれよ、この光景!

 バランスの取れたリサ。

 ムッチリとした繭。

 細いながらもガッチリした岬。

 三者三様の肉体美が、黒いTシャツとスパッツに包まれて、登場した。



 スポーツブラとの夢のコラボは実現しなかったが、これもまた良い!

 さらに今回はTシャツを結んで、ウエストラインが見えるようにした。

 スパッツの素晴らしさの一つに、腰から膝までの下半身をぴったりと覆えることが挙げられる。

 これにより、お尻と太ももが別パーツとして認識されることを防ぎ、一連のラインの流れを演出できる。


 さらには、うっすらと割れた腹筋。

 スッと伸びるヘソ。

 もう完璧!

 天国があるならば、ここは天国に違いない。


 目の前には幻想的な光景が広がっており、三人の天女が地上界へ舞い降り、体を休めている。

 天女が落としたのは羽衣ではなく、スパッツであった説を提唱したい!

 俺は今、最高の景色を堪能している。


 ここがスパッツヘブン。

 幾多もの夢追い人が求めた黄金郷エルドラド

 大和理性ダムが崩壊の危機に瀕している。先ほど岬から負った傷がみるみる回復していく。


 今、この美術室は、スパッツのパワースポットである。

 将来的には、スパッツ界の聖地になる。

 スパッツ愛好家は聖地巡礼として、この地を訪れることになるだろう。

「それでは小休憩を挟んで、後半の十分を再開します」

 三人が奥へ消えて行った。


「すげ~な、これ!」

「ああ、予約して正解だぜ!」

「俺は二回目も予約したぜ!」

「お前、知らないのか? 一日に予約できるのは一回だけだぞ!」

「マ、マジかよ!」

「当たり前だろ!」


 一日に三回のスペシャルタイム。

 その時間帯だけ、予約した人を優先で美術室へ入る。

 入る時は予約帳と生徒手帳を照らし合わせ、入室が許可される。

 より多くの人に体験してもらうために、予約は一回のみ。

 二重に名前が見つかったり、生徒手帳と食い違っていたりしたら、入室を断らせてもらう。


「お前は誰が好き?」

「俺はむっちりした如月だな」

「あの胸は反則だよな。さすがビックセブンの一人! むっちりした尻もたまらん!」

「俺は翌梨だな。あのスタイルは完璧だよ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。まさに芸術的美しさがあるぜ!」


「甘い、甘いよお二人さん。玄人は日向寺一択だよ。あれで男なんて、むしろご褒美さ!」

 うんうん、みんな全然わかってないよ。

 中身ばかりに目が言っていて、肝心のスパッツがおろそかになっている。


 絵画の素晴らしさは、絵はもちろんだが、それを彩る額縁も重要である。

 絵画と額縁が合ってこそ、絵画はその魅力を余すことなく伝えることができる。

 君たちはまだ絵画のみを楽しみ、その額縁まで目が届いていないようだ。

「三人を見るのもいいけど、スパッツを見るのも忘れないでね」

 なんだこいつみたいな表情で俺を見てくる。


「今日のスパッツは綿百パーセント。球技大会の時のような光沢はないけど、その代りにどっしりとした漆黒を表現できる」

 危ない奴を見るような目つきは慣れている。

「そうそう、そんな感じで注意深く見てみることをオススメするよ」

 満足した俺は、再び美術室のドア付近に立つ。


 今日の俺の役目は用心棒。

 怪しい奴がいたら、阻止するのが俺の仕事だ。

「何だよ、あいつ」

「スパッツバカの大和だろ?」

「やべ~よ、あいつ。あんな奴がなんで美術部なんだよ」

 うんうん、聞こえているぞ。


 羨望、嫉妬、憎しみ、恨みの眼差しが俺を襲うが、そんなことはお構いなしである。

 小休憩が終わり、後半の十分が始まる。

 ああ、俺は今、この瞬間を生きている。生を噛みしめ、実感していた。


「マジ、あの三人スタイル良すぎでしょ!」

「同じ女として、マジへこむわ~。岬もあれで男とかマジ勘弁」

「ウチ、今日からダイエットするわ!」

「無理でしょ! あんた、今日めっちゃ、甘い物食べてたじゃん」


「そんなあなた方に朗報です!」

「うわっ! 大和だ!」

「キモッ! へんたいせいじゃん!」

「いやいや、そんなに露骨に嫌がらないでくれよ!」

「こんな奴、無視してさっさと帰ろう!」

 帰ろうとする女子生徒を引き留める。


「ちょっと待った! みんなもあの三人のようにスタイル抜群になりたいと思わない? 夏に向けて、最高のボディを手に入れようよ!」

「大成、みんな引いてるよ」

「「「如月先輩!」」」

 今まで汚物を見るような目つきだった女子生徒の目が、キラキラと輝き出す。


「みんな、悪いね。大成は悪気はないんだけど、やる気が空回りしちゃうタイプなんだよ。根はいい奴なんだけどさ」

 繭の周りに女子生徒たちが集まる。

「せっかくだから、みんな少し運動していかない?」


 なんたること。

 ハーメルンの笛吹き男のように、みんな繭の後へ着いて行く。

 テレビには、リサが写し出される。

 俺が撮影した渾身の自作ビデオは却下。

 代わりにセリフの監修だけを務めた。


「この動画を見ながら、少しやってみようか」

 繭は率先して、スクワットを始めた。

 それをマネする女子生徒たち。スカートがきわどいぞ!

「へ~、意外と楽かも」

「膝を突き出さないようにするのは難しいけど、これなら何回でもできそう」

「へ~、全然イケるじゃん!」


 フフフ、御嬢さん方。

 その余裕がいつまで続くかな?

 スクワットを舐めると痛い目に遭うぜ!


「うわっ! きっつ!」

「太ももマジヤバい! 焼けるように熱い!」

「もう無理! 限界! 腰を下ろすのが辛い!」

 わずか数回やっただけで、余裕の表情が歪み始める。


「スクワットはキツイからね。最初は無理をしないで、少しずつやるといいよ。慣れてくれば、何回でもこなせるようになる」

「ウ、ウチも先輩のようになれますか?」

「なれるとも!」

 歓声があがる。


「デッサンをしている人もいるから、少し声は押さえようね」

「「「は~い!」」」

「さぁ、みんな! 下半身美人を目指して、レッツ・トライ!」

「「「…………」」」

 完全に無視。

 まぁ、こんな扱い慣れているけどね!

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