●スクワットの説明
「いいですか。こんな感じに足幅は肩幅よりも少し広めに、かかとに重心を置きます」
予想通り、俺は自分のクラスから仕事を一つも与えられなかった。
「猫背にならないように、視線は真正面を向く。顎を引いて、胸を張って下さい」
大がかりな出し物をするクラスは、遅くまで残って準備を進めていた。
俺たちは美術室の奥深くに眠っている埃を被った模型や石膏像を掘り出す。あとは当日に果実を用意すれば準備完了。
拍子抜けするくらい簡単であった。
「息を吸い込みながら、太ももが床と平行になるぐらいまで腰を落とします。この時、ヒザをつま先より前に出ないように気を付けて下さい。ヒザがつま先より前に出ると、ヒザを痛める原因になります」
美術の授業で使うキャンパスやイーゼルは場所を取るので、収容人数を減らさないために簡易的な画板を採用した。
元々美術部の備品なので、全く経費がかからないのはありがたい。
「イメージは後ろの椅子に座る感じです。空気椅子を思い浮かべて下さい。膝を曲げるのではなく、お尻を下に落とすイメージです。水平まで下ろしたら、止まる必要はありません。息を吐きながら立ち上がって下さい。この時、ヒザが伸びきらないように注意しましょう」
入場料は無料。
スパッツのスペシャルタイムは一日三回の予約制にした。
「慣れるまでは壁の前でやりましょう。ヒザが出過ぎると壁に当たるので、フォームの確認にもなります。回数よりも正しいフォームを意識しましょう。腕は胸の前でクロスします」
集客の宣伝のため、モデルの三人にはスパッツ姿で学校を練り歩いてもらいたかったが、それは認められなかった。
まったく、どこまで保守的なのだろうか。
「このように太ももを水平まで下ろすのを、ハーフスクワット。お尻を下まで下ろすのを、フルスクワットと言います。実はフルスクワットの方がヒザへの負担は軽いのです。ハーフスクワットとフルスクワットを織り交ぜると効果的です」
「先輩、さっきから何しているんですか?」
「スクワットはお尻や太ももの引き締め効果が抜群です。下半身が引き締まると、スタイルはグッと良くなります。正しい姿勢を意識して、無理のない回数をこなしましょう」
「ねぇ、大和先輩!」
「体の筋肉の約七割は下半身に集中しています。筋肉量を増やせば、自然と新陳代謝が良くなり、太りにくい体になります。スタイルが良くなり、健康にも効果抜群。やらない手はありませんよね? 今日からあなたも下半身美人。レッツ・トライ!」
俺はビデオカメラの停止ボタンを押す。
「今、撮影中だったんだから話しかけちゃダメだよ。これ、編集で声消せるかな?」
「撮影?」
「文化祭の時、美術室で流そうと思う」
「これを?」
リサが動画を再生する。
「女性は何歳になっても永遠の女の子。いくつになっても、美容の話題には敏感だ。スタイルのいい三人がモデルになって、スクワットの実演をする。集客効果は抜群だよ!」
もちろんスパッツのアピールにもなること間違いない。無料のスパッツ配布コーナーも作る予定だ。
「美術室の大半はデッサン体験コーナー。部屋の一角に、今撮ったビデオをテレビで流す運動コーナーを用意する。スペシャルタイムが終わった後、女子生徒は君たちの身体と自分の身体を比べる。そして、翌梨たちのようなナイスバディになりたいと思う!」
「それでこの動画コーナーですか?」
「そう! 鉄は熱いうちに打て! 翌梨たちに感化された女性陣たちは、このスペースに群がること間違いなし! 文化祭を始め、お祭りごとは人を大胆にさせる。せっかく美人二人と男の娘一人がスパッツを履くんだよ。スパッツ普及活動として、これ以上のイベントはない!」
「なかなか本格的な動画ですね。基本を押さえ、注意事項もしっかりしている」
「美術室のテレビで動画を流しながら、スクワットの実演と行こうじゃないか!」
「文化祭って、ついつい食べ過ぎちゃいますよね」
「女子高生にとってスタイル維持は死活問題。中でも運動と食事は体型を大きく左右する鬼門だ! 大和スパッツコーポレーションはそんなかゆい所にも手が届く、実践的なカリキュラムを展開します。もちろん、アフターケアも万全」
「顧客満足を考え、企業努力を感じますね」
「日本の女性はもっとスクワットをして下半身を鍛えるべきだよ。そのためにも正しいスクワットを知るべきだ!」
「これで男子と女子の両方の生徒の関心が掴めるってわけですね。フフフッ、うまくいきすぎて、少し退屈しそうですが、このまま走り抜けましょう!」




