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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第一章 欲部會(よくぶかい)
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●出会い

 俺は自分に正直に生きたい。

 自分を偽って生きるのは、死人の考えである。

 その結果、生徒会長をリコールされ、スクールカーストの最下層に落ちた。


 しかし、自分の信念を貫いた結果なら、後悔はなかった。

 光も差し込まない奈落の底に天使が舞い降りてきたのは、そんな時のことだった。

 翌梨よくなしリサを見た瞬間、全身に電流が走った。


 彼女との出逢いは偶然……いや、必然の結果であろう。

 毎年恒例、数日間に渡る『新入生の太ももチェック』。

 そこで、俺は天使を……いや、女神の降臨を目の当たりにする。


 短いスカートから顔を見せる、挑発気味な生足に一瞬で虜になった。

 制服の上からで伝わる、腹周りから太ももにかけての完璧な造形美。

 触らずともわかる、太ももの素晴らしさ。


 適度についた脂肪と鍛えられた筋肉のバランス。

 ヒップラインも申し分なく、完璧な曲線。

 そして、骨盤がしっかりしているからこそ実現できた安産型のヒップ。

 マシュマロの如き弾力性を秘めている。


 まさにスパッツを履くためにあるような……いや、リサのためにスパッツが誕生したのではないかと錯覚させるほどの美のフォルム。

 引力が働いているが如く、彼女の身体に視線が引き寄せられてしまう。


 脳内で彼女にスパッツを履かせてみた。

 スパッツと生足の境界線に現れる食い込み部分も完璧だ。

 強さと上品さを兼ね備え、その寸法は黄金比の美しさ。

 下半身からは後光がさしている!


 美しい……それ以外に言い表す言葉が見つからない。

 自分の語彙力の無さが恨めしい。

 いや、この姿を言葉で言い表すこと自体間違いなんだ。

 言葉ではなく、心でわかった。

 生命力に満ち溢れるその姿……概念が超越する瞬間であった。


「君のスパッツ姿が見たい!」

 ときは朝の昇降口。

 登校するため、数多くの生徒で賑わっていた。

 周囲の目など気にしない。気が付けば、俺は心の声を発した。


 肩まで伸びた栗色の髪の毛。

 頭には黒い布のカチューシャをつけており、栗色の髪の毛に良く似合う。

「わたしにメリットがあるんですか?」


 たじろぐ様子も見せず、真っ直ぐこちらを見つめる。

 ツリ目気味でクールな目に浮かぶ大きな黒い瞳。

 深く透き通った湖のような瞳に沈んでしまいそうになる。

 その瞳が俺をジッと見つめる。


「君ほどの人物なら、人並み以上の幸せを簡単に手にすることができるだろう。自分の望み通りの人生を歩むこともたやすい」

 肌は透き通るほど白く、光り輝いている。


 後で聞いた話では、入学してすぐに十数人の男子から告白をされ、すべてを断ったそうだ。

 確認のために言っておくが、俺としては告白のつもりはない。

 ただ、純粋に彼女のスパッツ姿が見たいだけだ。


 しかし、足を止めた野次馬生徒たちの認識は、スクールカースト最底辺から最上位への告白。常識的に考えれば、結果はわかりきっている。

 興味を無くした生徒たちの足が動き出す。


「……結局、褒め殺しですか?」

 目を伏せて、残念そうな表情を浮かべる。

「勘違いするな」

「?」


「君は確かに、人並み以上の幸せや自分の望み通りの人生は送れる。だけど、それだけだ」

「どういうことですか?」

「俺なら君が考えも望みもしなかった景色、光景を見せることができる! 君が見たことのない世界へ連れて行こう!」


「わたしがその世界に興味がないとしたら?」

「俺の一生を捧げて、君が満足する世界を創る!」

 二回目だが、これは断じて愛の告白ではない。

 スパッツ界の女神となりえる逸材に出会えたことで、俺は非常に興奮していたのである。


 彼女が少し考える仕草をした。

「……ちなみに大和先輩が望む世界は、どんな世界なんですか?」

「あれっ? 俺、名前言ってないよね?」

「先輩はある意味、この学校で一番有名ですよ。去年の演説を生で聞けなかったのが非常に残念です」


「それなら好都合だ。俺の夢は誰もが笑ってスパッツを履ける世界を創ること!」

「具体的には?」

「日本……いや、世界スパッツ協会を立ち上げ、スパッツの日を制定する。世界中の人々のスパッツ意識を普段着まで浸透させる。俺の人生は俺のためにあらず、スパッツのためにあるのだ!」


 俺の夢の道……それは茨の道だ。

 天国と地獄の狭間……身を焦がす煉獄れんごく

 先へ進むほど、厳しさは増し、肉体は削がれ、心は蝕まれる。

 常人ならば、歩くこともままならず、志半ばで野垂れ死ぬ。


 それは傍から見れば、報われない不毛な行為なのかもしれない。

「人は俺の人生が、スパッツによって狂ったと蔑む。スパッツと言う名の禁断の果実で、身を滅ぼしたと憐れむ。だけど、それは違う。俺はスパッツによって救済され、生きる意味を見出した。この時点で俺は人並み以上の幸せを手に入れたんだ」


「口ではいくらでも理想や夢を語ることができます。だけど、学校すらも変えられない先輩が、どうして世界を変えられるんでしょうか? こじらせた妄想にしか聞こえません」

 彼女もこれ以上は時間の無駄だと判断したようだ。

「先輩じゃ、わたしの望む世界はおろか、自分の夢すら叶えられませんよ」


 リサは俺の横をすり抜けて、昇降口へ向かう。

 歩く度に、なびく髪とカチューシャの両脇の紐。

 紺色のスカートから伸びる白い素足が眩しい。

 彼女の周りだけ、色鮮やかに世界が輝いていた。


「確かにその通りだ。だから、これから可能性を示してやろう」

「可能性?」

 足が止まり、振り返る。


「ポリシーに反するが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。君の信頼が得られるなら、俺はいくらでも修羅になろう」

 手首を回しながら、昇降口に集まっている女子生徒たちに照準を合わせる。

「見せてやろう、我が力をっ! そして目覚めるがいい、己の運命にっ!」


 ……数分後、俺の聖戦は鎮圧され、屈強な体育教師に取り押さえられた。

「たとえ俺の身体を取り押さえようとも、俺の心までは縛るあげることはできない!」

 そのまま、生徒指導室へ連行されたのであった……


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