部屋の捜索①
今後の方針が決まったところで、ジェラルドとフレデリクは廊下に倒れていた男達の身体検査をし始め、ある男の腰に付いていた鍵束を見つけることができた。
おそらくは地下の部屋すべての鍵であると当たりをつけたジェラルドは、もう用はないとばかりに検査を切り上げ、彼らを身動きができないように縛り上げる。
意識のない男達を抱えたジェラルドとフレデリクは、彼らを最初の男達のいる場所とは別の牢屋に入れたのである。
少しして意識を取り戻した彼らに待ち受けていたのは、ジェラルドとフレデリクの尋問であった。
捕らえられて諦めた様子の彼らは素直に口を割り、全員が最初の男とほぼ同じ内容のことを話し始める。
話によると、地下にいる敵は彼らだけで、後は倉庫内にいること。そして、出入り口は二カ所しかないと確認が取れた。
おまけに入ってきた方とは別の出入り口は倉庫内ではなく、外の通りに通じていることも明らかとなる。
話を聞き終えた三人は、無言で目配せをし合った。
誰が指揮を取るのか、といったところだろうが、この場で一番地位が高いのはフレデリクである。
セラフィーネもジェラルドも彼の指示を待っていた。
二人の視線に苦笑いしつつ、彼は仕方がないといったようにため息を吐いた。
「それでは僕は入って来たところにいる騎士二名を外に通じている出入り口の方に向かわせよう。一人は待機、もう一人は騎士団へ連絡するように命じてくる。バークスはセラフィーネと一緒に赤い矢印のある扉まで行ってもらえるか? 向かわせた騎士達が来たと確認が取れたら、合流して部屋の捜索に入ろう」
フレデリクの指示に異論などなかった二人は頷き、彼と一旦分かれることになる。
部屋を出たセラフィーネ達は廊下の端にある階段を上がり、最初に捕まえた男が言っていた赤い矢印のある扉の前に向かった。
到着すると、ジェラルドは音を立てないように少しだけ扉を開ける。
しばらくしてフレデリクから報せを受けた騎士が二名、彼のところまでやってきた。
一人が扉の前の見張りをすることになり、残りの一人が中に入ってくる。
実直そうな騎士はニコリとも笑いはしなかったが、ジェラルドを馬鹿にするような態度を取ることはなかった。
また、彼はセラフィーネが何者なのかを知っているようで、非常に丁寧に挨拶をしてきたのである。
彼女も王女らしい応対をして、早速話を切り出した。
「誘拐された少女達の保護や男性達の移送もあるから人手がいるけれど、応援はどれくらいで到着するのかしら?」
「一部の騎士達には事前に知らせてあるので、すぐに来られるはずです。移動時間を考えますと十五分位かと思われます」
「そう。準備は整っているのね。出入り口は固めてあるし増援が来ることもないわね。これで安心して捜索ができるわ。……では、フレデリクお兄様と合流しましょう。誘拐された人達と証拠を見つけないと」
セラフィーネの言葉にジェラルド達は神妙な顔をして頷いた。
他に敵や首謀者のエイムズ伯爵がいないなら、誰にも邪魔されずに捜せる。
いきなり誰かの争う声や音が聞こえていた少女達は今も不安の真っ只中にいるはずだ。
早く見つけて安心させてあげたかった彼女は、二人を急かして足早に階段を降りていく。
そうして、騎士達に指示を終えたであろうフレデリクと合流し、四人はフレデリクと騎士、セラフィーネとジェラルドという組み合わせに分かれて地下の捜索をすることになった。
とりあえずセラフィーネ達は出入り口に近い部屋から誘拐された少女達の捜索を始めようと、一番手前の部屋まで向かう。
もしかしたら危険があるかもしれないとのことでセラフィーネは扉から離された場所で待つことになった。
彼女がジッとしているのを確認したジェラルドは扉を開けて中を覗き込んだが、見てすぐに肩を落とす。
「ここではないようです」
「そう……。でも何か見つかるかもしれないし、部屋を調べておきましょう」
危険はないと分かったことから、セラフィーネは落ち着いた足取りで部屋の中に移動をする。
埃っぽい部屋に入ったセラフィーネは目に付くところ全てを見て回ったが、紙一枚すら見つけられなかった。
手に持っていた布をテーブルに無造作に投げた彼女は落胆の色を隠せない。
彼女の様子をみたジェラルドは柔らかな空気を出しながら近寄って声をかける。
「ローラ嬢達の捜索は始まったばかりなのですから、気を落とさないでください。部屋数は限られているんですから、すぐに見つかります。それにフレデリク殿下が見つけて下さるかもしれません」
「…………そうね。確かに私達だけではないのだから、気負いすぎてはいけないわね。いちいち落ち込んではいられないわ。ということで、早速次の部屋の捜索に行きましょう」
力なく答えたセラフィーネは、すぐに気持ちを切り替えた。
次の部屋に向かおうと廊下に出ると、彼女達の耳に牢屋にいる男達の呻き声やらが聞こえてくる。
これだと少女達が何か物音を立てても彼女達には届かない。
「呻き声でこれだけ響くとなると、どれだけ大きな声を出しているのかしら」
「無駄に体力を消費してくれるので助かりますが、ローラ嬢達の出す音が聞こえないのは盲点でした」
「まったく……。大人しくしていて欲しいものだわ」
敵の呻き声をBGMに呆れ顔でセラフィーネは文句を言いながら次の部屋に到着する。
彼女は部屋の扉の前で先ほどと同じように離れた場所で待っていると、室内を覗き込んでいたジェラルドの体が急にピタッと止まった。
「急に止まってどうしたというの?」
「いました」
ジェラルドの言葉を聞いたセラフィーネは驚きのあまり物陰から飛び出した。
「……え!? いたって、ローラ達が! 本当!?」
早く確かめたいとノブをジェラルドから奪って大きく開けたセラフィーネは部屋に足を踏み入れた。
部屋に入った彼女の目に牢屋に座り込んでいる女性三人の姿が飛び込んでくる。
憔悴しきった痛ましい姿の彼女達にセラフィーネは口に手を当てて、体を震わせた。
「早く鍵を開けてあげて!」
セラフィーネは罪もない少女達を早く牢屋から出してあげたい一心で声を張り上げた。
命令に忠実なジェラルドが牢屋の鍵を開けている間、彼女は何か食べ物はないかと部屋を見回す。
残念ながら食べ物はなかったが、代わりに水入れとコップを見つけた。
何もないよりはマシだわ、と彼女はコップに水を入れて、ジェラルドに抱えられて外に出てきた少女達に声をかける。
「大丈夫!? 助けに来たわよ!」
脱力して床に座り込む彼女達に水を入れたコップを手渡すと、ゆっくりとだが全員が水を口に含んでくれた。
信じられないようなものを見るような目で見つめられたセラフィーネは、彼女達を励まそうと口を開く。
「生きていてくれて良かったわ。もうすぐ増援が来てくれるから安心してちょうだい」
「ほんと……?」
「ええ。もう大丈夫よ」
今にも涙が溢れそうになっている少女の肩をセラフィーネは優しく撫でた。
嗚咽を漏らす彼女達を見て、セラフィーネは心底安堵するが、同時にエイムズ伯爵に対するどうしようもない怒りがこみ上げてくる。
「何も悪いことをしていない人をこのような目に遭わせるなんて許せないわ。絶対に人身売買の証拠を見つけて捕まえてやるのだから……! あの男は民を何だと思っているのかしら!」
「少なくともお金になるしか思ってないのでしょうね」
「貴族失格だわ! 本当に恥ずかしい人だこと」
貴族を批判するセラフィーネに、彼女が王女だと知らない少女達はギョッとした
表情を浮かべている。
いくら本人がこの場にいなくても、平民が貴族を悪しく言えば何をされても文句は言えない。
比較的、体力にまだ余裕のあった少女が怖ず怖ずと彼女に声をかけた。
「あの……エイムズ伯爵様のことを悪く言うと、助けてくれた貴女が酷い目に遭ってしまいます」
「あら、平気よ。むしろ、これから酷い目に遭うのは、あの男だもの」
「それでも、平民が貴族に楯突けば――」
「ああ、私は平民ではないから心配するようなことにはならないわ」
自信満々に言い放ったセラフィーネに少女は困惑の表情を浮かべている。
その表情を彼女は、どこかで見たことがあるような気がして、ついジッと見てしまう。
しばらく見ていた彼女は思い当たる人物に行きつき「あっ」と声を上げた。
「貴女、もしかしてエイミーのお姉さんのローラではなくて?」
「そ、そうですけど、どうして……」
精神的なストレスのせいか、ローラは明らかにやつれていたが、やはりエイミーと姉妹なのが分かるくらい良く似ている。
パッチリとした大きな瞳と透き通った白い肌はやつれていても健在だ。
「実はエイミーから貴女を見つけて欲しいと依頼を受けて探していたの。そうしたら、人身売買の被害に遭っていることが分かって、こうして探しに来たというわけ」
「エイミーが……。あの子ったら」
「お姉さん想いの良い子だわ。きっと無事だと分かったら泣いて喜ぶわね」
「あ、ありがとうございます」
家族のことを言われて、ローラはすんでのところで耐えていた涙が溢れてしまう。
セラフィーネは持っていたハンカチを彼女に貸して、穏やかな笑みを向けた。
「本当に見つけられて良かったわ」
セラフィーネは行方不明になっていた全員を見つけることができて、一仕事を終えたような達成感に包まれる。
神妙な顔をしたジェラルドも、同意するように大きく頷いた。
(とはいっても、誘拐された少女達を見つけたところで、これで終わりじゃない。本命の証拠探しが残ってるのよね)
フレデリク達の状況がどうなのか分からないが、ローラ達を見つけて終わりではない。
諸悪の根源であるエイムズ伯爵を捕まえなければ、いずれまた同じような事件が起きる。
だから、ここで食い止めなければならないが、証拠がどこにあるのかすら分からない。
打つ手なしの状況にセラフィーネは頭を悩ませる。
当てもなく目を動かしていた彼女は、ふと床に座っているローラ達が目に入った。
被害者の彼女達であれば、エイムズ伯爵が頻繁にどこかの部屋に出入りしている音を聞いているかもしれない。
特定はできないだろうけれど、ある程度の場所は限定される。
セラフィーネは藁にも縋る思いで被害者の少女達に尋ねてみることにした。
「あの……分かる範囲でいいのだけれど、この地下にエイムズ伯爵が来たことはあって?」
問いかけてすぐに、黒髪の美少女が「……あります」と弱々しく答えた。
「エイムズ伯爵に倉庫にある宝石をプレゼントするから、どれでも好きな物を選ぶといいと言われて連れてこられたときにですけど……」
「ということは、倉庫の方にしか立ち寄っていないのかしら?」
「いえ、ここにある豪華な部屋に案内されました。私はそこで出されたお茶を飲んだ後の記憶がないので、それ以上は分かりませんが」
目を瞬かせたセラフィーネは、証拠がありそうな部屋の情報を教えてもらおうと食い気味に口を開く。
「で、では、エイムズ伯爵とどこの部屋に入ったか覚えているかしら?」
「ええ……。確か、真ん中の部屋だったはずです」
「……真ん中の部屋、ね。貴重な情報をありがとう。今からその部屋を探しに行くけれど、貴女達はここで待っていてくれるかしら? これから来る騎士達に保護をお願いしてくるから」
「……ありがとう、ございます」
外に出られると知ったローラ達の表情が明るくなる。
セラフィーネは、やっと彼女達の笑顔が見られたことがたまらなく嬉しい。
早く外の空気を吸わせてあげたいという思いからセラフィーネとジェラルドは一旦、ロータ達に別れを告げて外にいる見張りの騎士に伝えに行った。
けれども、騎士団からの増援はまだ到着しておらず、見張りの騎士は身動きができないとのこと。
どうしようもないので、増援が来たらローラ達を保護してもらえるよう彼に頼み、セラフィーネ達は教えられた部屋に向かうことにしたのだった。




