ショウイチ・タナカ子爵
――数週間後――
男爵邸の書斎。ショウイチ・タナカは重い書状を手に取っていた。
「――王より、子爵への爵位昇格が正式に認められたことを謹んでお知らせ申し上げます」
その書状には、グランツ侯爵の強力な推薦状と、ショウイチの領地や領民への多大な貢献が詳細に綴られていた。
「侯爵が動いてくれたのか……」
部屋に入ってきたリナが微笑みながら言った。
「ショウイチ、ついに子爵ね。これで正式に貴族の中堅よ」
「正直、気が重いよ。責任がさらに増えるだけだ」
ショウイチはそうつぶやいたが、その顔にはどこか決意も見え隠れしていた。
そのとき、侯爵の使者が厳かな足取りで現れ、重厚な箱を差し出した。
「ショウイチ・タナカ子爵殿、王より王国功労勲章と爵位昇格の証書を授与いたします」
ショウイチは箱を開き、光る勲章を胸に輝かせた。
「……これからは、より一層、俺たちの領地と民のために全力を尽くす」
リナは隣で静かにうなずき、彼の手をしっかり握った。
更に数週間後、厚く重厚な絨毯が敷き詰められた王宮の大広間。
ショウイチ・タナカは、長く磨き込まれた大理石の床を慎重に歩みながら、緊張を押し殺していた。
彼の傍らには、威厳に満ちたグランツ侯爵が静かに寄り添っている。
王座に座する国王の視線は鋭く、しかし温かみを帯びていた。
「ショウイチ・タナカよ、よくぞここまで歩んだ」
その声は堂々たる響きを持ち、大広間全体に重々しく鳴り響く。
「汝の手がけた保存食の数々は、我が国の軍勢に比類なき支えを与え、戦乱の荒波を越え勝利の礎となった。これほどの功績は、古来まれである」
王は前に置かれた銀の皿に盛られた保存食を一つ手に取り、味わうようにじっと見つめた後、ゆっくりと口に運んだ。
その表情に満足の色が浮かび、続けた。
「この優れた品々は兵の士気を高め、戦の行方を左右したと言っても過言ではない。ショウイチ・タナカ、汝の才覚と努力に感謝し、ここに子爵の爵位と国家勲章を授ける」
侍従が厳かに勲章と証書を捧げる。
ショウイチは深く一礼し、胸にそれらを受け取った。
「これもひとえに、侯爵様の御導きと、まるふく商店の従業員、そして領民たちの助力なくして成しえなかったこと。私はこの責務を胸に、これよりも一層尽力いたします」
侯爵は静かに頷き、重厚な礼装の裾を翻してその場を後にした。
外へ出ると、冷ややかな秋風が頬を撫で、彼の背中を押すかのようだった。
新たな責務の重さを改めて感じながら、ショウイチは王宮の石畳を踏みしめた。




