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現場との乖離

グランツ侯爵領の夏も終わりに差し掛かった頃、領主館の大会議室に領地会議が招集された。

男爵であるショウイチも正式な席が用意され、長いテーブルの端に座る。

周囲には会計官や商務官、軍務官などが並び、皆きっちりとした服装で重苦しい空気をまとっている。


開会の挨拶を終えると、会計官が書類を広げて言った。

「まずは今年度の備蓄品に関してですが、保存食の価格が昨年より三割上がっております。これにより予算は……」


領地会議の議題が保存食に移ったとき、会計官が不満げに口を開いた。

「まるふく商店の保存食ですが……正直、値が高い。領の予算を圧迫しております」


ショウイチは椅子から少し身を乗り出す。

「高いだぁ?あれは原料から加工まで全部こっちでやってるんだぞ。

 しかも漁師や農家に正当な金払ってる。安物にして兵士が腹壊したらどうすんだよ」


隣の商務官も口を挟む。

「しかし、他の領ではもっと安く作っていると聞きます。それに、あなたの製法は手間を掛けすぎでは?」


ショウイチの目が細くなる。

「……お前ら、保存食作ったことあんのか?」


会計官と商務官は顔を見合わせ、黙り込む。

ショウイチは鼻で笑った。

「口だけ出して現場知らねぇからそんなこと言えるんだよ」


グランツ侯爵が面白そうに顎を撫でる。

「では、実際にやらせてみるか?会計官と商務官、二日間まるふく商店で働け。男爵、監督を頼む」


「了解だ」ショウイチは即答した。


――数日後。


炎天下のまるふく商店裏庭。

会計官と商務官は汗だくになりながら魚を捌き、塩を擦り込み、干し網に並べていく。

さらに畑で採れた野菜を切り、煮沸して干し板に並べる作業が続く。

腰は悲鳴を上げ、手は塩でひりひり、背中は太陽に焼かれて真っ赤だ。


「……これを毎日?」

「しかも量が倍以上の日もあるぞ」ショウイチは笑みを浮かべる。


二日目が終わる頃、会計官は真っ青な顔で頭を下げた。

「……確かに、この手間なら値は妥当です。申し訳ありませんでした」


商務官もぐったりと頷く。

「現場を知らずに、安易な口出しをしたこと……反省します」


ショウイチは肩をすくめた。

「わかりゃいい。次からは数字だけじゃなく、手間と汗の重さも計算に入れろ」


グランツ侯爵は後ろで静かに笑っていた。

「これで領の文官たちも、少しは地に足がつくだろう」


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