氷を巡る争い
まるふく商店の店内には、氷を作り出せる冷凍庫と製氷機があった。
工場には電気がないため、この氷は店内でしか作れない。
最初は店の飲料や保存用だけに使っていたが、ショウイチはふと考えた。
「これ、肉屋や魚屋に売ったら儲かるんじゃねえか?」
リナは目を輝かせる。
「確かに! 特に魚屋は、今まで塩漬けや干物しか方法がありませんでしたから…新鮮なまま売れるなら大喜びです」
だが次の瞬間、彼女は少し顔を曇らせた。
「…でも、こんな貴重なものを作れるって知られたら、狙われますよ。設備ごと盗まれたり、作り方を奪われたり」
ショウイチも頷く。
「そうだな。下手すりゃ他領が兵まで送ってくる」
二人はその日のうちにグランツ侯爵の屋敷を訪れ、氷と冷凍保存の事業計画を説明した。
侯爵はしばらく黙っていたが、やがて低い声で言った。
「……確かにこれは戦争の趨勢をも左右する資源だ。店と製造室には近衛を常駐させる。さらに門外不出、商売は領内限定とする」
こうして店の裏口には常時近衛兵が立ち、氷の製造室は二重扉と鍵で封鎖された。
製造工程を知るのはショウイチ、リナ、そして信頼できる元騎士だけ。
氷は軍や上級商人を中心に高値で売れ、利益は跳ね上がった。
だが――
それは同時に、まるふく商店を領内でもっとも狙われやすい店にしてしまった。
その数日後。
深夜の閉店後、裏路地にひっそりと男たちが集まる。
粗末な服装だが、身のこなしは軽い。目つきも鋭い。
「間違いねえ…あの奥の部屋だ。氷を作る道具を手に入れろ」
「見つかったら面倒だ。気配を消せ」
まるふく商店を狙う最初のスパイたちが、動き出していた――。




