『休暇の顛末』
夜のまるふく商店、静まり返った店内でショウイチはリナに声をかけた。
「リナ、ちょっと休暇をくれ。1週間だけでいい」
リナは素直に頷いた。
「わかったわ。店はバルドもミルザもいるから大丈夫」
しかしショウイチの胸には、誰にも言わずに1ヶ月の冒険に出る計画が秘められていた。
翌日から、護衛の視線がいつも背後に張り付いていることに気づく。
彼は知らず知らずのうちに、わずかな物音にも過敏に反応し、身をひそめることが増えた。
「今の音は…?」
心臓が高鳴り、ひとりでビクビクしてしまう自分に苦笑いした。
リナは休暇の本当の期間を知らず、気にかけることなく日々を過ごしていた。
そして三日目。ショウイチが領外へと足を踏み出したその瞬間、グランツ侯爵の騎士団が姿を現した。
「そこで待て!」
重厚な声が響く。
「ショウイチ殿、侯爵の命令であなたの行動は制限されている」
リナも駆けつけ、心配そうに見つめる。
「これは…」ショウイチは息を呑んだ。
騎士団に囲まれ、彼は不本意ながら拘束されることとなった。
「お前はまだこの領地の守り手だ。勝手な冒険は許されない」
その言葉にショウイチは複雑な表情を浮かべながらも、内心では冒険への想いを消せずにいた。
重厚な館の応接室。グランツ侯爵は重い机の向こうで椅子にもたれ、鋭い目でショウイチを見つめていた。
侯爵は静かな声で切り出す。
「ショウイチよ。申請もせずに領外へ出ようとしたと聞くが、なぜだ?」
ショウイチは肩をすくめ、少し照れ臭そうに答えた。
「いや、あの…俺、てっきり申請は監視や縛りのためのものだと思ってました。まるで刑務所の仮釈放申請みたいなもんで、許可を得たら拘束が増えるんじゃないかって」
侯爵は思わず吹き出し、椅子に深く腰掛けた。
「刑務所の仮釈放とは…お前らしいな。申請は縛るためじゃない。お前が何かトラブルに巻き込まれた時、すぐに我々騎士団が動けるようにするためのものだ」
ショウイチは目を見開いた。
「えっ、そうだったんですか?てっきり、申請したら自由に動けなくなるから、俺は無申請で自由に冒険に行けると思ってたのに」
侯爵は軽くため息をつきながら言う。
「むしろ逆だ。申請しなければ、もし危険に遭っても我々が動けず、助けに行けなくなる。護衛が付いているのもそのためだ」
ショウイチは照れ隠しに笑った。
「なるほどな…護衛が俺の監視役かと思って、ずっとビクビクしてましたよ。物音に過敏になって」
侯爵は顔をしかめながらも、どこか嬉しそうに言った。
「お前のそれは面白かった。が、今後はそんな誤解をしないようにな」
ショウイチは深々と頭を下げた。
「はい、侯爵様。今後は必ず申請して、真面目に安全に冒険します」
侯爵は笑顔で応えた。
「それでいい。お前が安心して動けるのが我々の望みだ」
こうして、誤解は解け、ショウイチは新たな理解と共に侯爵との信頼を深めたのだった。
侯爵の応接室を出た瞬間、待ち構えていたリナの右ストレートがショウイチの顔を狙う。
「ちょっと待て、リナ!」と叫びながら、ショウイチは必死にかわす。
「うわっ、速い!お前の拳、まるで風のようだ!」
リナは眉をひそめる。
「騙されたのよ!何で1週間って言っておきながら勝手に1ヶ月も計画してるのよ!」
ショウイチは笑いながら、顔をかすめたリナの拳に向かって言う。
「俺でなかったら当たってたね。でも格闘技やってるから避けられたよ。恐ろしく速いストレートだ。まるで見逃しちゃうくらいだ」
リナは呆れつつも、口を引き結んだ。
「もう!まったく、この無鉄砲野郎…」
ショウイチは肩をすくめて苦笑い。
「まあまあ、これからはちゃんと申請するって約束するよ」
リナは渋々頷いた。




