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『親心と商いの狭間で』



リナがまるふく商店や工場に寝泊まりし、毎晩遅くまで仕事に励む日々。

そのことを心配する両親が、城下町の自邸から訪れた。


「リナ……家に帰りなさい」

父の名はカール・フォン・グランツ。準侯爵であり、グランツ侯爵の長男。


「母のイザベラ・フォン・グランツも、娘が心配で仕方ない様子だ」

準侯爵夫人イザベラは優しくも厳しい眼差しでリナを見つめる。


「グランツ家の未来を担う者として、あまり身を粉にしてはならない」

カールは重々しく言った。


リナは少し顔を伏せた後、

「両親とも頻繁にグランツ侯爵様とは会っていること、ご存知でしょう?」と切り出した。


「はい、侯爵様からもお話をいただいております。リナの努力を認めており、まるふく商店の成功は喜ばしい限りだと」

イザベラが微笑む。


「でも、家のことも大事にしてほしい」

カールは続けた。


リナは固い決意を込めて答えた。

「私がここでやっていることは、グランツ家、そして領民のためです。お二人に恥じぬよう、頑張ります」


両親はその言葉に黙り込んだ。

カールはため息をつき、最後に一言。

「ただ……身体を壊すなよ」


リナは力強く頷き、両親を送り出した。


その夜も、まるふく商店の明かりは消えず、リナとショウイチは未来へ向けて動き続けていた。



夜も更け、まるふく商店の厨房の隅。

リナはひと息つきながら、ショウイチにぽつりと語り始めた。


「両親のこと、あまり話したことなかったかもね」


ショウイチがうなずくと、リナは少し微笑みながら続ける。


「父はカール。今は領の軍事部門で重要な役割を担っているわ。戦術だけじゃなく、兵士の士気を上げるリーダーとしても評価されている」


「母のイザベラは、領の行政管理を担当してるの。兵站や税収、民政の仕事が中心ね」


「だから両親は日々忙しくて、私は幼い頃から祖父に預けられた」


リナの声が少し強くなる。


「祖父、グランツ侯爵は……若い頃は血と鉄の男だった。戦争で幾度も勝利を重ね、決闘も勝ち抜いてのし上がった武闘派よ」


ショウイチは驚きと尊敬の入り混じった目でリナを見る。


「だから、子供の頃から祖父は私に文武両道を叩き込んだ。学問だけじゃなく、剣術や体力も徹底的に鍛えられた」


「時には厳しく、時には期待を込めて。あの人の下で育ったから、今の私があるんだと思う」


リナは少し笑いながらも、どこか覚悟を感じさせる表情でショウイチを見る。


「だから、商売でも戦いでも、全力でぶつかっていくつもり」


ショウイチは静かにうなずき、言葉を返した。

「お前ならできる。そう信じてる」


二人の間に静かな決意が満ちた。



リナが静かに視線を遠くに向ける。

「正直言うとね……」

一瞬、言葉を選ぶように口ごもった後、決意の色を強めて続けた。


「私の夢は、祖父――グランツ侯爵を超える領主になることなの」


ショウイチが驚いて目を見開く。


「彼は強くて、尊敬されている。だけど私は、ただ強いだけじゃなく、民から愛される領主になりたい」


「だから、このまるふく商店も、ただの店じゃなくて、領民の生活を豊かにする大きな柱にしたい。祖父の築いた基盤に、私の色を重ねていくの」


彼女の声には揺るがぬ覚悟が込められていた。


ショウイチはゆっくり頷いた。

「お前のその夢、俺は全力で支えるぜ」


静かな厨房に、二人の未来を誓う言葉が響いた。



リナの夢の話を聞き終え、ショウイチは肩の力を抜いて笑った。

「よし、なら言っとくけどな……」


彼は少し間を置いて、軽い調子で言った。

「お前になら、この店を売ってもいいぜ。金貨100枚くらいでどうだ?」


ショウイチの軽い冗談めいた提案に、リナは思わず声を上げた。

「そんなに安く売ってくれるの??」


ショウイチは肩をすくめて苦笑い。

「半分は冗談だが、半分は本気だ。正直、俺はもう元の世界に戻る気もないし、ここで真面目に死ぬまで働くつもりもない。もうちょっと稼いだら隠居しようと思ってる」


リナは顔を真っ赤にして強い口調で言った。

「そんなの絶対ダメ!あなたがいなきゃ、この店も、領民もどうなっちゃうのよ!」


「今までどれだけ苦労してここまで築き上げてきたと思ってるの?簡単に手放すなんて許さない!」


ショウイチはその熱意に少したじろぎながらも、落ち着いて答えた。

「分かってる。でもさ、俺にも疲れがあるんだ。体力も気力もいつまでも続かない。だから隠居したいって思ってるだけだ」


リナは手を握りしめ、決意の眼差しで言い切った。

「なら、私がいる限り絶対に隠居なんてさせない。あなたはこのまるふく商店の心臓であり続ける。私たちはチームなんだから」


ショウイチは笑顔を浮かべて、リナの頭を軽く撫でた。

「…分かったよ。お前のその覚悟、俺も借りるぜ」


二人の絆はまた一段と強くなった夜だった。

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