1話 進学
夢を見た。祖母の懐かしい夢だ。両親のいない俺を育ててくれた大切な恩人。守れなかった恩人・・・。
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目が冷めた。もうどんな夢か覚えていないけれど、懐かしかったのはなんとなく覚えている。今日は中学の卒業式だから、とりあえず準備をしなくてはと身だしなみを整えて朝食を取って学校へ向かった。
「おはようございます。」
そう言って来たのは幼なじみの桃井 汐那だ。俺はこの子に恋をしている。おばあちゃん子だった俺はなんとなく親がいる人たちと遊ぶのがはばかられていつも一人で過ごしていた。そんな中、話しかけてくれた唯一の女の子が汐那だった。その後も交流が続き今に至る。
「卒業式緊張しますね、
小学校の卒業式で泣いちゃいましたから、また泣かないか心配になっちゃいます。」
「別に泣いてもいいと思うけどな」
「絶対にいやです!生徒会長の威厳といいますか、そういうのがあるんです!」
「はははっ、なんだよそれ。」
この会話で分かる通り、この子は生徒会長だ。それだけではない。汐那はお世辞抜きで容姿端麗でさらに文武両道。当然のように男子たちからの人気が高かった。それでも俺と一緒にいてくれているのはおそらく彼女の家が関係している。
彼女の家はいわゆる名家というもので、それも有象無象の名家ではなく、世界に君臨する7大名家なのだ。7大名家とは歴史があるだけでなく、血筋によって優秀さが担保されているまさに神に選ばれたかのような7つの名家だ。
彼女ほどの名家であれば、歴史的な家格が結婚に重視されるのであろう。そうなると当然付き合いも相応の家格があるものとしなければならない。だから関係が崩れることを恐れて告白できない俺といるのが彼女としても都合がいいのだろう。そして今日はついに卒業式。彼女のために用意したネックレスが彼女のもとに届く事はおそらくもうない。彼女は世界の最高学府と言われる神聖魔術学院。通称神聖学院に入学する。内部進学する俺とはもう世界が違うのだ。
「いや、最初から違ったか・・・」
「え?なにか言いました?」
「いや、何も言ってないよ」
「そうですか?まあ、結がそう言うならそうなんでしょうね。」
こういう信頼してくれてるところがずるいと思う。今すぐにでも告白したくなる。
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夕方になった。無事に卒業式が終了し、同級生たちは家族と帰り始めていた。あ、そうそう。無事に汐那は泣いた。卒業式には汐那の両親も来ていたため、気を聞かせて1人で帰ることにした。その時、黒い礼服を着こなした笑顔の優しそうな20代らしい男性が話しかけてきた。
「こんにちは。斎藤と申します。少々お時間よろしいでしょうか。」
「はい、構いませんが・・・」
「ありがとうございます。ここで話すようなことでもないので、う〜ん、そうですね、ファミレスで食事でもしながら話しましょうか」
そう言って彼とファミレスで話をすることになった。一通り注文を終えたところで彼は話し始めた。
「まず結論から申し上げますとですね、我が神聖魔術学院に入学しないかということなんですよ、はい。」
彼は笑ってとんでもないことを言い出した。
「え?神聖学院? 我が? へ?」
「お〜いい反応ですねぇ。そうなんですよ。私、神聖学院の学院長なんです。」
「天城 結さんのお祖母様と少々交流がありましてね、彼女の魔術界への貢献から特例を出すことにしたんです。まぁ、多少は職権を乱用とかしたりしてなかったりしますけど・・・ぼそ」
「絶対乱用してるよその顔!!!あとぼそって自分で言うな!!!」
「まぁまぁ、それでどうするんです?面倒な手続きはこっち(部下)でやっときますし、これは亡きお祖母様の遺言で僕に頼んだことでもあります。それに何より愛しい愛しいあの子と近づくチャンスですよ?」
・・・この人はどこまで自分のことを知っているのだろうか。そしておばあちゃんが頼んだ?そもそもおばあちゃんって何者何だったんだ?といろいろ混乱はしているが、それでも俺の答えは決まっていた。一拍置いて、少し深めに呼吸をし、俺は答えた。
「入ります。神聖学院に。」
そして彼はニコっと笑ってこういった。
「はい。知ってます。」
この人は好きにはなれなさそうだ。
はじめまして。
パパイヤと申します。今作は処女作となっております。まだまだ精進中のみですのでコメントで感想や批評をいただけるととても嬉しいです。また、作者は現在高一のため、学業を優先することが多々あります。時間がかかったとしても完結はする予定ですので、気長にお待ち下さい。