2話 報告
ファミレスを出て学院長(彼からそう呼ぶよう言われた)と別れたときにはもうあたりはかなり暗くなっていた。まだ少し寒さが残っている季節であるが、神聖学院に行ける、汐那とまだいられる。そう思うと興奮してむしろ体温は上がっていった。最後には嬉しさのあまり、
「んふっ」
冷たい風が吹いた。
そこでやっと我に返って冷静になった。
俺、きもすぎだろ・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ただいま〜」
家には誰もいない。ここに住んでるのは俺だけだ。元はおばあちゃんと住んでいたが2年前にとある理由で亡くなってしまった。ふと仏壇に目が行き、学院長の言葉を思い出した。
『お祖母様の遺言で・・・』
一体おばあちゃんは何者だったんだろう。魔術会への貢献ってなんなんだ。いくら考えても答えは出ない。やはり知るには行くしかないのだ、神聖学院に。
「4月から神聖学院か・・・。強くならなきゃな」
神聖学院は神聖『魔術』学院。その名の通り魔術を習う場所であり、魔術には相応の才能が必要だ。
そして残酷なことにその才能はいくらかの例外を除いて血統によって決まっている。つい先程まで魔術にすら縁がなかった俺がそこでやっていけるとは到底思えない。
一部の魔術師に頼っているこの世界では魔術師は苛烈な実力至上主義だ。
学園でも卵達は手厚く保護されているにも関わらず、死人もしょっちゅう出ている。不安で仕方ない。
でも、あれだけ欲しかった力を得られるんだ。
守る力を得なければいけない。
おばあちゃんの時のような後悔をしないように。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
風呂にゆっくり浸かったあと、汐那に俺も神聖学院に入学する事になったことを連絡した。
既読はつかない。何やら忙しいらしいがそこは仕方ない。彼女は名家なのだ。卒業した夜にはなにかやることがあるのだろう。別に急ぐことでもないし、このようなことはたまにあるため、特に気にせずその日は早めに寝ることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うっ、あー・・・。」
起きたら10時を回っていた。昨日は大して疲れていないと思っていたが、精神的に疲れていたのかもしれない。なにせあんなことがあったのだ。
「口も喉も乾いてる・・・」
とりあえず唾液を飲んでなんとかした。まだ違和感はあるが、そのうち治るだろう。ちなみに口が乾いたときに水で濡らすと、唾液とは違い粘性がないためかなり気持ち悪くなる。
スマホの通知には汐那の名前があった。どうやら昨日の返事のようだ。
「一体どういう・・・。学院長がスカウトって本当に本当に前代未聞ですよ!?」
「いや、俺もわからないんだ・・・。おばあちゃんの功績がどうとかって言ってたけど・・・」
今度はすぐに既読が付いた。
「お祖母様って一般の方でしたよね?」
「うん、たぶん。詳しく話したことはないからわかんないけど魔術の話なんてほとんどしなかったし・・・」
「本当に何も聞いてないんですか?」
「うん。だから俺も何がなんだか・・・」
「学院長はなにかおっしゃられなかったんですか?」
「何回も聞いたけどニコニコしながら何も教えてくれないんだ。」
「ずっと「さあ、何なんでしょうね。」って・・・あれは性格悪いよ絶対。」
「学院長の性格は魔術界隈では有名ですからね・・・。」
「そうなのか?」
「はい。というか学院長自体が有名ですから。7大名家でもないのに特級の第2位。つまり世界で2番目に強い方ですから。」
特級とは魔術師の能力を表す最もメジャーな指標である魔術師階級の最上位で、下から五級、四級、三級、二級、一級、特級とあり、8000万人を超える魔術師の中で世界に51人しかいない上位0.0000006375%の怪物たちなのだ。その中の2位。なるほど。あの人は怪物だったか。
「あの人そんなにやばい人だったんだな・・・」
「知らなかったんですか?」
「おばあちゃん子なもんでね」
「関係ないです!」
「はははっ」
「とりあえず、入学おめでとうございます。またさらに3年間ですね。嬉しいです。よろしくおねがいしますね。」
「うん。まだ入学はしてないけどね。こちらこそよろしく。」
その後彼女から何やらかわいいスタンプが来て一旦報告が終了した。また一緒にいられると思うとついにやついてしまったが、俺は学習できる男。同じようなヘマはしない。そんなことを考えながら1ヶ月後の入学に向けて準備をしていった。
この時俺は、なんで彼女が本当にを2回も繰り返したのかなんて考えもしていなかった。




