第10話「古代ギリシアのBL作品(プラトン著)」
神聖隊の長距離走の目的地であるデルポイの神殿は、テーバイの所在するボイオティア地方の西のポーキス地方にある。
神殿では巫女を通じて神託が下され、これはギリシア世界においてとても重要視されている。
歴史上重要な役割を果たした神託と言えば、ペルシア戦争じの下されたものがある。ギリシアの全ポリスを合わせたよりも強大な戦力を持つペルシア軍の侵攻に際し、「木の壁によれ」という神託が下った。木の壁とは船の事であると解釈したアテナイ市民は市街地を捨て、戦える男達は軍船に乗り込んだ。この結果、陸戦ではギリシア最強のスパルタ軍を撃破しスパルタ王を敗死に追いやったペルシア軍であったが、海戦でアテナイ軍に散々に打ち破られる事になった。
強大なペルシア軍に対して、神託に従った結果勝利した事は、デルポイの神殿の権威をますます高める事になった。
また、現代でも有名なギリシアの哲学者といえば、ソクラテスの名前が一番多く上がるであろう。そのソクラテスの名声を高めたのもまた、デルポイの神殿の神託であった。「ソクラテスより賢い人間はいない」という神託を信じられなかったソクラテスは、有名な賢者を訪ねて疑問をぶつける事で、自分よりも賢い人間がいる事を証明しようとしたのだ。しかしその結果、賢者と呼ばれる者は「自分が賢い人間だと思い込んでいるだけ」である事を知ってしまい、逆に自分が最も賢い人間であることを証明してしまったのだ。この経験が若者達にソクラテスが自分の思想を説いて回るきっかけとなり、最終的には死刑になるのであるが、その思想は弟子を通じて現代にも残っている。
そう考えると、デルポイの神殿の神託は、現代社会にも大きな影響を与えていると言えよう。ソクラテスから連なる知の系譜はキリスト教世界にも影響を与え、今の世界を形作る重要な要素の一つとなっているのだ。
また、政治にも与えた影響は大きい。ソクラテスの弟子であるプラトンの教え子には「万学の祖」と呼ばれるアリストテレスがいる。彼は学問・科学の分野での影響や功績が多大なものであるが、彼は幼き日のアレクサンドロス大王の師でもある。アレクサンドロス大王の東方遠征が世界の東西を繋げ、ヘレニズム文化や東西交流などの成果を残した事は歴史の教科書にも記載されている事である。
つまり、デルポイの神殿の神託により世界は動き、今に繋がる歴史が綴られる事になったとも言えるのだ。
付け加えれば、先程述べたプラトンには「饗宴」という著作がある。この著書において、愛の神であるエロースについて語られているのであるが、ここでは現代の我々が普通に考えるであろう男女の恋愛でなく、男同士の愛への賛美が論じられているのである。
……まあ、この作品を読みに来る読者の諸姉諸兄なら、最初に男同士の恋愛を思い浮かべるかもしれないが、それは考えない事にする。
そして、この作品では深い愛情で結ばれた男達が軍隊を構成するのなら、最強の軍隊になるであろうことも語られている。つまりは神聖隊の様な存在を語っているのだ。
なお、現代ではプラトニック・ラブというと、精神的な恋愛の事を意味するが、これはこのプラトンの「饗宴」を由来とするのである。
これで賢明なる読者の方々はお気づきであろうが、プラトニック・ラブとは男同士の精神的な愛情の事を指すのが本来の意味なのだ。「饗宴」をよく読めば登場人物の男達は皆ソクラテスにその愛情を向けているのが分かるだろう。
つまり、古代のBL作品なのである。
ここまで述べてきたことを考慮すると、もしも西洋文化において重要視されるプラトンが「饗宴」を書かなければ、男同士の愛の素晴らしさを論じた著作が残らず、BLという文化は歴史の闇に消えてしまったかもしれない。
そう考えると、デルポイの神殿の神託によりソクラテスが世に出て、その影響でプラトンが男同士の愛の素晴らしさを論じ、最終的には現代のBL文化に影響を残しているのかもしれない。
BL小説を愛する者は、プラトン先生に感謝する事をおすすめします。
ちなみに、ここまで述べてきたことは、個別の事実に関しては一応間違いではありませんが、論理的に飛躍がある可能性があります。信じるか信じないかは、あなた次第です。
色々と論じてきたが、現代のBL文化の原因だった(かもしれない)デルポイの神殿に、愛し合う男達だけで構成された神聖隊の若者達が遥か90kmもの距離を走破していくのは、ある意味運命的な事なのかもしれない。




