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9 新宿ダンジョン


 新宿と聞いて思い浮かべるのは、どんな光景だろうか。


 副都心の名を定着させたバブルの象徴、巨大な都庁か。それとも日本一の歓楽街、歌舞伎町か。どちらも立派なもんだけど、世界一のものが他にある、それが新宿駅だ。


 世界一という表現は、けっして誇張ではない。


 新宿駅を利用する人の数はものすごい。どこから湧くのか、とにかく多い。めまいがするほどひっきりなしに、人が通りすぎる。


 形もひどい。その複雑怪奇な形状は、一部では新宿ダンジョンとも呼ばれるほど。新宿駅を歩いてると思ったら、いつの間にか新宿西口駅を歩いてた、なんてこともあるらしい。これは新宿三丁目駅といった、別の駅でも見られる現象だ。


 と、ここまでがみんなが知ってる新宿駅。

 実は新宿駅には、本物のダンジョンがある。


 それが新宿駅のさらに地下に存在する、裏新宿駅だ。


 といっても、魔界や地底王国アガルタにつながってるわけじゃない。人の手によってつくられた構造物が、地下の霊脈にぶちあたって、おかしなことになってしまったのだ。


 霊脈とは、大地を流れる気の通り道。風水術だと龍脈、西洋ではレイラインとも呼ばれている。さまざまな呼び名があることからわかるように、霊脈を流れる莫大(ばくだい)なエネルギーは古今東西を問わず、人類に大きな影響を与えてきた。それを語るのは歴史家にまかせるとして、霊脈は人の手でコントロールできるようなものではない。


 霊脈の影響を受けるようになった新宿駅の下層は、何が起こるかわからない危険な場所として封鎖され、裏新宿駅と名付けられた。この判断は、しごくまっとうだったはずだ。おれだってそうする。誰だってそうするだろう。名称はともかくとして。


 けれど、その封鎖はあくまで表向きの封鎖にとどめられた。そこに眠る無尽蔵ともいえるエネルギーは、なかったことにするにはあまりにも魅力的すぎたのだ。


 表向き封鎖された裏新宿駅を、それでも利用しようとする者は後を絶たなかった。霊能力者にとどまらず、企業や政府。彼らは危険を承知で、裏新宿駅での活動をつづけた。


 その行為は強欲だったのだろう。けれど、閉鎖された金山を前にして、すべての採掘者がツルハシを捨てられるだろうか? 彼らは、裏新宿駅に黄金の夢を見ていたのだ。


 1995年。

 その夢は終わりの(とき)をむかえる

 いつか来るだろうと予測されていた悪夢がついに訪れた。霊脈に乱れが生じたのだ。


 裏新宿駅の下層を莫大なエネルギーが蹂躙(じゅうりん)した。大自然の猛威の前に人々はなすすべもなく、結果41人の生命が、その夢と欲望ごと失われた。

 大地の龍からしてみれば、寝返りにすら満たない、ただの身じろぎにすぎなかったのだろう。まるで何事もなかったかのように、霊脈の乱れはすぐにおさまった。


 その直後、心ある人たちによって決死隊が組まれるものの、救助に向かった彼らの成果は、遺体を回収するのみにとどまる。


 遺体に外傷はなかった。

 死因は経脈の破裂。


 大地を流れる気の通り道を霊脈というように、人体の中にある気の通り道を経脈という。その経脈が、一人の例外もなくぼろぼろになっていたそうだ。苦痛は一瞬、耐える時間すらなかっただろう、といわれている。


 この件以来、裏新宿駅は、霊能力者ですら忌避する場所となった。


 ところが、人間の欲とは実にしぶといものらしい。


 裏新宿駅の下層は危険だ?

 ならば、上層を活用すればいいじゃないか!


 そんな調子で、命知らずと物好きを兼ねそなえた連中は、いまだに裏新宿駅を利用している。そんな場所に研究所を構えているのだから、四つ葉製薬もまた、そいつらと同類といってもいいだろう。


 夢破れた裏新宿駅には、まだ夢の残り火がくすぶっている。




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